体験場所:北海道北見市の実家
まだ私が子供の頃、北海道北見市の実家で暮らしていた頃のお話です。
休日だったその日の夕方、私と弟は二人で二階の子供部屋に籠り、当時ハマっていたゲームをして遊んでいました。
母と父は一階にいました。
母はリビングでテレビを見ていて、父は自室で寝ていました。
ゲームをやり始めて少し経った頃でした。
「おーい!おーい!ゆきなー!早く来い!」
と、一階から私を呼ぶ声が聞えまてきました。
(もう!ゲーム中なのに!)と、私は煩わしく思いながらも、一階に降りてリビングに向かい、「何?」と母に聞きました。
すると母はキョトンとした顔をして、
「…え?どうしたの?誰も呼んでないわよ?」
と、目を丸くして言うのです。
「え?そうなの?私の聞き間違い?」
私はそう思って、二階の子供部屋に戻り、再び弟とゲームを再開しました。
それから30分くらい経った頃でした。
「おーい!おーい!早く来い!ゆきなー!ゆきなー!早く!」
と、また下から私を呼ぶ声が聞こえてきたんです。
(またかよ!)と、私は内心苛立ちながらも、今度こそ間違いなく呼んでいるなと確信した上で、もう一度一階に降りて行ったんです。
それなのに、
「…え?…だから、誰も呼んでないわよ」
と、母はまた、怪訝な顔してそう言います。
私は納得いかないまま再び部屋に戻り、少し苛立ちながら弟に聞きました、
「さっきから誰か下で私を呼んでるよね?『ゆきなー!早く来い!』って呼んでる声、聞えるよね?」
すると弟が、不審そうな顔してこんなことを言うんです。
「え?さっきから呼ばれてたのは僕の名前だったよ?『りょー!早く―!早く来ーい!』って。でもお姉ちゃんが下に降りて行くから、てっきり聞きに行ってくれてるんだと思ってたんだけど…」
「え?私じゃなくて…あんたが?嘘!絶対私のことを呼んでたよ!」
私たちは顔を突き合わせ話しながら、みるみる互いの顔色が変化していくのが分かりました。
二人とも呼ばれてる…?
一体誰の声かは分かりませんが、私と弟、二人とも声が聞こえていたのは確かですし、どうやら何かを聞き間違えているわけではなさそうです。
ただ、どういうわけか分かりませんが、私たち二人の耳には、それぞれ、それが自分を呼ぶ声に聞こえていたのです。
(…でも?…誰が?…どうして?)
全く釈然としませんでしたが、二人とも気味の悪さは同じでした。
もしも次にあの声に呼ばれることがあったとしても絶対に無視しようと、私と弟は決めました。
それから数分が経った頃。
「おーい!おーい!ゆきなー!りゅうー!早く!早く来い!」
また、あの声が聞こえてきたんです。
「呼んでる…よね…?」
私と弟は青白い顔を見合わせ、小声で確認し合いました。
しかも今回は、まるでさっきの私たちの会話を聞いていたかのように、今度は私と弟、二人の名前を呼んでいるのが余計に不気味でした。
さっき決めた通り、私と弟は声を無視しました。
声が聞こえなくなると、今度は自分の心臓の音がやたらと大きく聞こえ、もはやゲームどころではなく、ただコントローラーを握って私たちは固まっていました。
すると、さっきまで30分おきに繰り返されていた声が、今度は5分おきで繰り返され、ずーっと私たちの名前を呼び続けるんです。
私も弟も泣きそうになりながら、怖くて怖くて震えていました。
でもどうしたらいいのかも分からず、ただただ部屋に籠って息を潜めていました。
すると突然、学校の工作で作ったオルゴールが勝手に鳴りだしました。
ゼンマイを回さないと絶対に音が出るはずないのに…
私も弟も、もうほとんど限界でした。
ずっと背筋が冷たく張り詰めて、とにかくその場をやりすごそうと、ただ目を閉じて俯いて、口に手を当て沈黙を続けるだけでした。
「おーい!来ーい!ゆきなー!早く―!りゅうー!早く来い!」
次に私たちを呼ぶ声が聞こえた時でした。
声と一緒に『ドンドンドンドン』って体に響くような音が聞えてきたんです。
私も弟も思ったことは一緒でした。
「階段を…のぼってきた…」
いよいよ私と弟は限界を迎えました。
(この部屋にいたくない!いたらヤバい!)
そう思った矢先、私と弟は立ち上がって部屋を飛び出しました。
部屋のすぐ外まで声の主は来ているかもしれない。
私たちは、それと接触してしまうリスクも顧みず、とにかく一階のリビングに向かって猛ダッシュで駆け込んだんです。
「どうしたの!?あんたたち!?」
リビングにいた母は驚いた顔で私たちを見ていました。
私も弟も泣き出しそうになりながら母に抱き着き、今さっきあったことを全部、しどろもどろと話しました。
すると母は真剣な顔をして、
「最近うちの犬が窓に向かって吠えていたのは、その声の主に向かってだったのかしら…」
なんて、また怖いことを言いだしました。
とりあえず、私は泣きながら父を起こし、さっきまでのことを洗いざらい話して、子供部屋に御札を貼ることを約束してもらいました。
その日、私と弟はあまりに怖すぎて、リビングに布団を敷いて寝ることにしました。
それ以来、あの声に呼ばれることはありませんでした。
ただ…
あの名前を呼ばれた翌日のことでした。
私は椅子に座ってテレビを見ていました。
すると何を思ったのか、私は椅子に座ったままお辞儀するような姿勢を取り、椅子の足の間に頭を垂らす形で、後ろを覗き見ました。
椅子のすぐ後ろに、裸足の右足が立っているのが見えました。
大きい足だったので、男の人だったと思います。
その日家にいたのは私と母だけでした。
母は私の隣で一緒にテレビを見ていました。
あれは一体誰の足だったのでしょう?
それにあの声も誰のものだったのか?
今も何も分からないままです。
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