体験場所:高知県M市の川
今はもう水かさも減り濁ってしまいましたが、高知県M市にあるその川は、昔はとても澄んだ水が流れる綺麗な川でした。それはもう川の底が見えてしまうくらい透明な水で、幼かった私はその川を遊び場にしていました。
普段なら兄弟や近所の子等と一緒に遊びに来るのですが、その日の私は一人でした。
どうして一人だったのかは思い出せません。ただその日、川で遊んでいたのが私一人だけだったことはハッキリと覚えているのです。
土手の上から私は一人で石投げをして遊んでいました。
ちょうどいい石を探しては川の水面めがけて投げ入れ、何回跳ね上げさせて遠くまで飛ばせるかという誰もが知っている遊びです。
石の形によってはその成果も大きく変わるため、ちょうど良い石を求め辺りをウロウロと探索している時でした。
川の底に、きらきら光る石を見つけたのです。
それは見たこともないくらい綺麗な石で、なんだか心惹かれるものがありました。
私はどうしてもその石に触れたくて、水に濡れるのは嫌でしたが、袖まくりした腕をそのまま川の底へと伸ばしました。
水面から見える美しい石めがけて目いっぱい手を伸ばします。服の裾が濡れてしまうのも構わずに、思い切り伸ばした指先がようやく石に触れ、私はそのまま石を掴み上げました。
でも、意気揚々と握り締めた手を開くと、おかしいのです。
水面から見た時はあんなに美しく輝いて見えていたのに、拾い上げて手にしていた石は何の変哲もなく、そこらに転がっている石と変わりありませんでした。
石を掴み間違ったのかと思いましたが、さっきまで光る石があった場所をもう一度見てもそれらしきものは見当たりません。
やっぱりさっきの石がコレなのだろうと、手の平に乗った石をもう一度まじまじと眺めてみた時です。
ぎょっとしました。
拾った石を再び至近距離で見て初めて気が付いたのですが、石の表面に、奇妙な顔のようなものが浮き出しているのです。
人の顔…でしょうか。
それが、苦しみ藻掻いているような苦悶の表情を浮かべていて、私はビックリして払うようにして石を足元に落としてしまいました。
その瞬間、
「ぎゃあっ」
石が地面にぶつかった瞬間、石に浮かんだ顔の目がひん剥いて叫び声を上げました。
それは、まるで地面にぶつかった衝撃を感じ取ったような、痛々しく悲痛な声でした。
石はそのまま私の足元から川に向かって転がり、水の中に落っこちる前に、
「助けてぇ」
と、小さな声が聞こえたような気がしました。
(…え?)と、信じられない現象に気が動転して、私はびくびくしながら今石が落ちた川を覗き込みました。
そこにはキラキラ光る石がありました。
(嘘・・・)
私は腰を抜かしそうになりながらも、とにかくその場から走って逃げたのです。
今目の前で起こった現象が怖くて怖くてその場に居ることが出来ず、とにかく走って家まで逃げ帰ったのです。
それからしばらくは怖くて川に近づくことが出来ませんでした。
犬の散歩で家族と一緒に何度か川の近くを歩いたこともありますが、それ以外で川に近付くことはありませんでした。
ただ、家族と一緒に犬を散歩させている時、母親の影に隠れながら川の水面に目をやると、やっぱりキラキラと光る石が見えることがありました。
母親からは日の光が反射してキラキラして見えているだけだと言われました。
でも、そうではないかもしれない。
そう思って、今でも幼い頃のあの出来事を思い出します。
人の顔が浮かぶあの石は、一体なんだったのでしょう?
少なくとも私には縁起のいいものとは思えませんでした。
結局、それが何か分からないままモヤモヤとする気持ちがある一方で、知らないほうが幸せなのかもと思う自分もいます。
もし、みなさんが川の底に光る石を見つけても、不用意に拾わないほうがいいかもしれません。
おかしな現象に遭遇してしまうかもしれませんから。
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