体験場所:和歌山県西牟婁郡白浜町の某ホテル
これは私が中学3年生の時に体験した話です。
私は中学生のころ柔道部に所属しており、3年の夏の時、地区大会(近畿大会)に参加するため、夏休みに顧問の先生や部員全員とで、和歌山県の白浜に行った時のことでした。
その年は部の団体戦が見事県大会で優勝し、近畿大会の後にも既に全国大会が控えていたので(ちなみに全国大会は埼玉県でした)、当時は部の誰もが意気揚々とし、常にテンションが高かったのを覚えております。
そんな時だったので、和歌山県へと向かった先で、まさか自分がこんな恐ろしい体験をするなんて全く考えにも及びませんでした。
既に暑い日差しが刺していた真夏の朝、中学校に集合した顧問の先生と私たち部員は、マイクロバスを1台借りて、目的地である和歌山県の白浜へと向かいました。
私たちの学校は奈良市にあったので、白浜までは4、5時間くらいでしょうか。結構な長さの道のりだったのを覚えています。
途中昼休憩を取りながら、ようやく宿泊場所となるホテルに到着したのは、15時とか16時頃だったと思います。
そのホテルに到着してまず驚いたのは、大きなホテルが二つ並んでいて、片方は綺麗なホテルで、もう片方は明らかに廃墟になったホテル。それらが横並びに建っていました。
どちらのホテルも大きくて、両方とも優に10階以上はあったと思います。
私たちが泊まったホテルの方は非常に綺麗な外観で、これぞリゾートホテル!といった感じのものでした。
それとは対照的に、廃墟となったホテルの方は1階部分からして既に瓦礫やゴミなどで非常に汚く乱雑で、その佇まいは見ているだけで鳥肌が立つほど不気味な感じでした。
まあそうは言っても、私たちの泊まる方のホテルはちゃんとしているし、みんな「やばくない?横のホテル」的なことを言ってはおりましたけども、そこまで気に留める程のこともありませんでした。
ひとまずチェックインを済ませ、顧問の先生と引率の先生は自分たちの部屋へ向かいました。
旅先ということも相まって非常にテンションが高かった私たち部員は、一度みんなで一つの部屋に集まって、ワイワイ話をしたり、トランプをしたり王様ゲームとかして過ごしていました。
因みに当時の部員数は歴代でも多い方で、男子が10人ほど、女子も10人ほどいて、3年生は私含めて3人、2年生は8人、残りが1年生といった感じでした。
何だかんだ遊んでいる内に夜になり、ご飯を1階の大きな食堂でみんなで食べた後、再び全員で一つの部屋に集まろう、となりました。
ちょうどその日の夜は、ほんとたまたま運が良かったのですが、近くで結構大きな花火大会がありました。私たちの泊まっていた部屋も花火鑑賞に都合よく、細かくは覚えていませんが10階以上の高層部の部屋だったので、折角だしみんなでベランダに出て花火を見ようということになりました。
花火は思っていた以上に遠くで打ち上げられていたのですが、高いところから見る遠くの花火も乙なものというか趣があり、とてもキレイだったのを覚えています。
花火は全部で1時間半ほど上がっていたと思います。
そんな中、1年生の女子部員が一人だけ、花火を見もせずに暗い顔して部屋の隅で佇んでいることに気が付きました。
他の女子部員が「体調悪いの?」「大丈夫??」と声をかけ、話を聞いていました。
すると、その女子部員が話すことによると、どうも私たちの部屋の一つ上の階のベランダから、真っ黒い、男と思しき顔がこちらを見ている、と言うのです。
「本当に?ちょっと見てみようか?」と言って、みんなでベランダから顔を上げ、一つ上の階を見上げてみたのですが、上の方の階は宿泊客がほとんどいないのか、すぐ上の部屋も含め灯りの消えた部屋ばかりでした。
「上の階、別になんともないけどなー」と、私たち男子部員が言っても、その女子部員を囲むようにしている他の女子部員たちに「いや、本当みたいなんだって!」と言い返されます。
その女子部員の怯えた様子や話を聞いた感じからも、どうやら嘘をついているようには全く見えなかったので、「それじゃあ、ちょっと俺ら上の階行って見てくるわー」と言って、私ともう1人の3年生男子、それと2年生の男子も1人加えた3人で、エレベーターに乗って上の階に向かってみることにしたのです。
私たちは柔道部、ましてや県大会で優勝するほどの実力、波に乗っていると言えば言い過ぎかもしれませんが、当時は中学生と言えどもとにかく怖いもの知らずだったので「まあ余裕でしょ」みたいなノリで、朝飯前といった感じで私たちはエレベーターへと向かったのです。
エレベーターに乗って一つ上の階のボタンを押す。
何階だったかは正確に記憶しておりませんが、10階以上だったのは確かです。15階以上だったかもしれません。
直ぐに一つ上の階に着き、チーンと鳴ってエレベーターの扉が開く…その瞬間、私は何か只ならぬ異様な雰囲気を感じ取りました。
他の二人がどう感じたのか、正確には分かりませんが、私と似たような感覚に陥っていたと思います。
なぜなら、エレベーターの扉が開き、降りて数歩ほど歩いたところから、そこから誰一人、先に進もうとはしなかったから。
言葉ではあまり表現できないような、それくらい尋常ではない雰囲気でした。
「・・・どう、する?」
私は他の二人に尋ねてみました。
二人とも無言のままなので、仕方なく「とりあえず、、行く、か…」となり、花火を見ていた下の部屋の部屋番号と、下二桁が同じになっている部屋の前まで一先ず行ってみることにしました。
ですが、その足取りは非常に重く、さっきまでの余裕は完全にどこかに消え去っていました。
部屋の前に着き、「ここ、、、か」と言った、その瞬間、突然部屋の扉が開きました。
私たち3人は突然のことに、体が反射するように後ろを向いて、その場からダッシュでエレベーターめがけ一目散に走りだしました。
「え!?へ!?何!?」
走りながら上擦った声が口を突き、とにかく走ってエレベータに着いてボタンを押すと、ちょうど私たちが乗ってきたエレベーターがまだ動いてなくて直ぐに扉が開いたので、私たちは急いで中に乗り込みました。
「閉」ボタンを押し、ハーハーと肩で息をしながらエレベーターの扉が閉まるまで、扉の隙間から、そのフロアの廊下やホールが見えたのですが…
…そこには誰の姿もありませんでした。
完全に取り乱していた私たちは、ひとまず1番下の階まで下り、ロビーに並ぶソファーに腰を下ろして先ずは落ち着くように務めました。
「…あれ、何だった?」
「…おかしいよな?誰もいないはずだよな?」
「部屋の前までいっただけで、なんで扉が開くの?」
など、私たちは取り留めもなく言葉にしましたが、当然明快な答えなど得られるはずもありません。
「このあと、どうする?みんなには、何て言う?」
冷静にこのあとの行動を3人で話し合った結果、ここで大会に臨もうとする直前に、みんなをいたずらに怖がらせるのもどうかと思い、「何もなかった」と、平然を装って告げようということになりました。
とりあえず、みんなのいる部屋に戻り、「何もなかったよ。ちょっと、つ、ついでにトイレ行って…だから、遅くなった…」と私からみんなに伝えましたが、自分でも分かるくらいに声が上擦っていたので、正直、信じてもらえたのかどうかは分かりません。
以上が当時の私の体験談です。
今になり気になって、そのホテルのことを色々調べたところ、実は、廃墟ホテルの方は現地では結構有名な心霊スポットだったようで、どうやら昔、火事があって営業をやめてしまったホテルなのだそうです。
今はもう既に廃取り壊されていて、私たちが見たあの不気味な光景もなくなっているようですが。
それにしても、あの廃墟ホテルに火事の過去があったとは。
あの女子部員が見たという「真っ黒い男の顔」って…
それに私たちの目の前で独りでに開いた扉も…
もしかしたら、悲しい火事の記憶が、隣のホテルまで漂ってきていたのでしょうか?
少しまとまりがなく、長々となってしまいましたが、私の実体験です。
以上です。
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