体験場所:高知県高知市の家の前の道
私は小さい頃、よく一人で家の庭で遊んでいました。
一人っ子だったし、近所に同年代くらいの子供もいないしで、私は仕方なくシャボン玉をしたり、だんご虫を探したり、一人で出来るあらゆる遊びをしていたのです。
その日も私は、いつもの様に一人で家の庭で遊んでいました。
理由は覚えていませんが、父も母も家を留守にしており、私は一人でした。
ちょうどその頃に夜店でゲットしたばかりだったスーパーボールを持って庭に出て、そこにある車庫の平らな壁にぶつけて跳ねさせて遊んでいました。
すると手元が狂ってしまったのか、スーパーボールは急に軌道を変えたかのようにとんでもない方向に跳ねてしまい、運悪くそのまま庭の外に転がり出てしまったのです。
「庭から外には絶対に出るな」と両親からはいつも言われていたけれども、私は少し考えた後、ついそれを回収しに庭から出てしまいました。
スーパーボールは、よその家の壁と壁の隙間に転がり込んでいました。
手を伸ばしたら取れそうな距離だったので、私は壁に体を押し当てるようにしてスーパーボールに手を伸ばしました。
だけど、子供の短い手だと、あとちょっとが届きません。
一度手を引っ込めて、もう一度、今度は思いっきり勢いを付けて隙間に手を突っ込みました。
その時、スパーボールに触れるより先に、冷たい手に強く腕を掴まれる感触がして、ビクンと慌てて手を引っ込めました。
一瞬のことでしたが、隙間に引きずり込まれそうなくらい強い力で引っ張られたと思います。
態勢が態勢たっだので、一体何が私の腕を引いたのか、目で見て確認することは出来ませんでした。
もう一度隙間を覗いてみても、少し先にスーパーボールが転がっているだけで、他に何もありません。
急に辺りが静まり返ったような気がして、なんだか怖くなってしまい、私はスーパーボールを諦めて家の庭に戻ろうと駆け出しました。
するとその瞬間、突然後ろからドンっと突き飛ばされるような衝撃がありました。
びっくりしてすぐに後ろを振り向いたけれども、誰もいません。
キョロキョロと辺りを見回してみても、私を突き飛ばした相手などどこにもいませんでした。
息を殺すように、今度は周囲の様子を確認しながらゆっくりと庭に戻ろうとした時、また背中に同じような衝撃が走り、私は思わず前につんのめりました。
もう本当に怖かったです。
だって近くには誰もいないはずなのに、誰かが私を後ろから突き飛ばすのですから。
その恐怖はどのように表現していいか分からないくらい、とにかく動くことも出来ずに私はその場で固まってしまいました。
そしたら突然「ウギャーッ」というような悲鳴が聞こえ、ビクッと驚いて私は思わず声のする方を振り向きました。
そして後悔しました。
スーパーボールが入り込んだ壁と壁の隙間から、数人の知らない子供たちが顔を半分覗かせていて、ぞわりと鳥肌が立つのを覚えました。
子供とはいえ、その隙間は人が入れるような空間じゃありません。
私の腕がギリギリ入るような極狭なスペースです。
そこから複数の子供が顔を覗かせているのだから、もう何が起きているのか理解不能でした。
あまりにホラーな光景に、私は思わず悲鳴を上げて走り出し、顔見知りだったご近所さんの家に助けを求めて駆け込みました。
後になってそのご近所さんが言うには、私が駆け込んできたその時、家の犬がものすごい勢いで吠えていたそうです。
その犬とは普段から仲が良く、すっかり私に慣れているはずで、ましてや吠えられたなんてことはそれまで一度もありませんでした。
だから、もしかしたら犬は、私以外の何かに向かって吠えていたのかもしれません。
その後、帰ってきた両親が隙間に転がっているはずのスーパーボールを回収しに行ったのですが、どこにもスーパーボールなんて無かったそうです。
もしかしたら、あの子供たちが持って行ってしまったのかもしれない、やっと得た遊び道具を返したくなかったのかもしれない、と、そんな風に私は思ったのです。
あの壁の隙間にはきっと何かがいる。
それが怖くて、その体験以来、私は隙間を覗くことに躊躇してしまうようになったのです。
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