体験場所:大阪府太子町の一軒家
私は白蟻防除業の会社で働いているんですが、大阪近郊あちこち出張しては年間で500件ぐらいの家の床下に潜って作業しています。
それで15年くらい前の話になるんですけど、随分と日も高くなった初夏の頃の事でした。
その頃、少し年上の先輩と一緒に工事に回っていたのですが、その日、先輩と訪問した先が、大阪府の太子町という田舎町にある一軒家でした。
70㎡ぐらいの築30年程の普通のお宅だったんですけど、違和感を感じたのは、昼間だというのに家のほぼ全ての窓のカーテンが引かれていた事なんです。
階段とかお風呂の窓みたいに構造上カーテンが取り付けられないところ以外は全て、光を遮る分厚いカーテンで窓という窓が閉ざされていたんです。
だから家の中に入ると外の日差しとのギャップもあって極端に薄暗く感じ、それにとても静かでした。
家には奥さん(40代くらい?)が一人で在宅していて、ご主人は近くの自動車修理工場で働いているそうでした。
奥さんは物静かな人のようで、工事の説明など私たちと少しやり取りした後は、玄関の横にある和室でじっとしていました。
その和室の窓にも分厚いカーテンが引かれていて、薄暗い部屋に佇む奥さんの姿は少し異様にも見えました。
作業中も説明のため何度かその和室を訪ねましたが、部屋の中までは足を踏み入れる気になれず、入り口でサッと用件だけを伝え、すぐに部屋を離れました。
先輩が床下の作業、私が床上の作業を行って工事は進んでいったのですが、如何せん暑い。
窓を閉め切っているから風も通らないし、どこもかしこも薄暗いしで、なんとも雰囲気の重たい現場だったと思います。
床下では先輩が削岩機を使って基礎の囲まれた部分に入るための穴を開けていたので、家中にずーっとコンクリートを削る音が響いていました。
すると突然、ドンっと、下から床板を突き上げるような音が聞こえたんです。
どうしたんだろう?と思うと同時に、床下から「痛っつ!」という先輩の声が聞こえてきました。
どうやら頭を床板にぶつけたみたいだな、可哀そうにって思いながら、私はそのまま作業を続けました。
しばらくすると、先輩が床下から出てきたんですけど、それが少し落ち着かない様子でこう言うんです。
「もう暑いから、休まずに一気に工事を終わらせてしまおう」
突然そんなことを言われ(え?急に言ってくるなぁ。何か急いでいるのかな?)と思いながらも、私もとにかく休みなしで急ピッチで作業を進めていったんです。
ようやく工事も終わりが見えてきた頃、家のご主人が仕事場から様子を見にやってきたので話をしたんですけど、なんか変わってるというか、やけにテンションの高い人だなと感じました。
とりあえず、いつもより急ぎ足な感じで工事を終え、アフターサービスの説明まで済ませると、ご主人からお礼を言われ、お茶ももらいました。
ご主人が来た後は、奥さんは対応を全て任せたらしく、あの和室にずっと居たようでした。
やっぱり最後まで暗い家だなという印象を残したまま、私たちはその家を後にし、車に乗り込み帰路に就きました。
その道中、先輩はずーっと無言でタバコを吸っていました。
それで20分くらい走った頃だったと思います。先輩がおもむろに口を開きました。
「…なあ。あの家、何か変だと思わなかったか?」
急にそう聞かれたので、「なんか暑苦しかったですね」と言うと、先輩はまた黙り込んだかと思うと、少ししてこんな話を始めたんです。
「床下でずーっと基礎を削っていた時にさ、ふっと換気口を見たら、そこからじーっと子供の顔が覗いていたんだ。それでびっくりして頭を床板にぶつけて、その時の音は聞こえただろ?それでとにかく早くこの家を離れたくて、急いで工事を進めたんだ。」
そんなことを言うんです。
無論その家に子供の姿なんかありませんでしたし、少なくとも床上で作業していた私は見ていません。
気味悪いことを言う人だなと疑いの目で先輩を見ていると、ふと一つ思い出したことがあったんです。
奥さんがいたあの和室、薄暗い中でかろうじて分かったんですけど、和室のあの部屋の柱だけが、神社の鳥居みたいに真っ赤に塗られていたんですよね。
なぜかは分からないんですけど。
もちろん先輩が見たという子供と関係があるのかも分かりません。
ただ、色々と気味の悪い現場だったので、後で思い返すと妙にゾッとしてしまいます。
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