【怖い話|実話】短編「廃墟団地の部屋」不思議怪談(神奈川県)

【怖い話|実話】短編「廃墟団地の部屋」不思議怪談(神奈川県)
投稿者:椎名ともや さん(30代/男性/フリーライター)
体験場所:神奈川県川崎市〇〇区の某団地

大学を卒業して間もない頃、地元の友人と一緒に「団地の廃墟探索」を趣味にしていた時期がありました。
といっても、心霊スポットに行こうという感覚ではなく、あくまで“人の生活の痕跡”を辿ることに興味を持っていた感じです。

当時、川崎市〇〇区のとある大規模団地の中に、取り壊しが決まって封鎖された棟がありました。
入り口にはバリケードと立ち入り禁止の看板が立っていました。
とはいえ、ネットで見た限り多くの探索者がそこに入った記録を上げていたので、僕らも興味本位で行くことにしたんです。(みなさんは絶対に真似してはいけませんよ)

季節は秋。
空気が澄んでいて、昼でも日陰は肌寒く、廃墟の団地を見上げると、それ特有のどこか張りつめた雰囲気が漂っていました。

封鎖された棟の裏側には、ほんの少しだけ破れたフェンスがあり、そこから身体を横にして滑り込む形で侵入しました。

中は思ったよりも綺麗でした。
ゴミの散乱も少なく、誰かが住んでいた当時のままのような部屋が多いのが印象的でした。
古い洗濯機に黄色く変色したポスト、ポスターが貼られたままの壁。僕らは、まるで時間が止まったまま、人だけが消えた空間を散策しているような気持ちでした。

その日は5階まで上がり、最後に一番奥の部屋に入りました。
ドアの鍵は壊れていて、押すと自然に開きました。

中に入った瞬間、ふわっと生活臭がしました。
食べ物の匂いというより、洗濯洗剤やシャンプーのような香りです。

すると友人が「おかしくない?」と、ぼんやり呟きました。
確かに、明らかに部屋の中は“今誰かが住んでる”ような雰囲気なんです。

部屋の隅にある脱衣カゴには服が入っているし、カーテンも新しい。それにカレンダーは現在の月に合っています。そしてなにより、ガスコンロの上には鍋が置かれていて、しかもまだ温い。

僕らは顔を見合わせました。

「人がいるぞ、これ…」

と友人が口にした瞬間、誰かが玄関のドアノブをガチャッと回しました。

反射的に僕らはベランダへと逃げ、隣室の仕切りをよじ登り、そのまま隣室から部屋を出て階段を駆け降りました。

団地から出たところで、後ろから誰かが追ってくるような足音は聞こえず、ホッと胸をなでおろしたものの、部屋の中にあった“今”の空気感だけが脳裏から離れませんでした。廃墟団地の探索において、全く想定していなかった違和感に遭遇し、しばらく心臓がバクバクと鳴り止みませんでした。

その後、団地は取り壊されました。

あとになって調べてみたのですが、取り壊し前の「一時的な住みつき」や「不法占拠」のような記録は見当たらず、工事関係者からも特別な証言はないとのことでした。

ただ、あの匂いや温もり、整頓された部屋の生活感は、空き巣や物好きが一時的に作れるものじゃないと思います。

それなら僕たちが目にした5階奥の部屋の光景は一体なんだったのか?
あの生活感の原因が「住みつき」ではないとするならば、もしかしたら団地の記憶にでも迷い込んでしまったのでしょうか?
もはや取り壊された今となっては知りようもありませんが。

ただ、あの一件以来、僕は空き家や廃墟というものに対する考えが変わりました。
“無人”という前提を持ってはいけない。そこには誰かが生活していた時間があり、もしかすると、今も“誰か”が生活している可能性もある。

現実なのか、非現実なのか、どちらにしても、そう思わざるを得ない体験でした。

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