
体験場所:東京都豊島区東池袋
これは私が池袋のとあるアニメグッズのお店に行った時の話です。
私は昔からアニメが大好きで、大人になった今でもその気持ちは変わっていません。
今からかれこれ5年くらい前、友人のAくんから突然「今度、池袋のアニ〇イトに行かない?」と誘われました。有名なアニメショップでしたが、私はそれまで一度も行ったことがなかったので、すごく嬉しくて「行く行く」と即答しました。
約束の日曜日、池袋駅でAくんと待ち合わせました。
私は最寄り駅から電車を一つ乗り継いで池袋駅に到着。駅前で待っていると少しして「お待たせ」と言ってAくんがやってきました。この日が楽しみで仕方なかった私は「全然待ってないよ」とご機嫌に返しました。
目的地のアニ〇イトは駅からすぐのところにありました。歩いて大体5分で到着。私は高鳴るテンションを抑えAくんに「ここがアニ〇イト?」と聞くと「そうだよ」と答えてくれました。
店内に入ると、本当にアニメグッズの宝庫でした。たくさんのグッズで溢れかえっていて、正直興奮しましたね。ふとAくんを見ると、彼もまた興奮している様子で瞳がキラキラ輝いていました。
お互いに好きなアニメが違っていたので、「1時間後に入口で待ち合わせよう」と約束して、一旦その場で別れました。
まず私が向かった先は、日常系アニメというジャンルのブース。しげしげとグッズを吟味していると、その中に目星のキャラのフィギュアを発見しました。ただちょっと値段が高かったので、いったん買うのを躊躇しました。
どうしようかと悩み、しばらく推しのフィギュアを凝視していると、
「これ、いいな~」
「買っちゃおうかな~」
私の横に50代中盤くらいのおじさんがいて、ブツブツ独り言を言っています。
その姿を見て私は(何、この人、気持ち悪っ)と思い、すぐさまそこから離脱。他にも見たいアニメのブースがあったし、また新作アニメのグッズも探したかったので、とりあえず店内をウロウロすることにしました。その途中、推しアニメの可愛いクリアファイルとボールペンを発見し(これなら値段も安いし買える!)と購入を決断。
そんな時、ふと背後に気配を感じ、何の気なしに振り返ると、すぐそこに先ほどのフィギュアのおじさんがいてめちゃくちゃ驚きました。私は気持ちを落ち着けて(偶然、好きなアニメが被っただけだろう)と、それ以上は詮索せず他のブースへ移動しました。
一通り回っていると、気がついたらあっという間に一時間が経過していました。Aくんとの約束の時間なので、私は一階の入り口へと足早に向かいました。
入り口には既に買い物を済ませたAくんが待っていました。
「ごめん、待った?」と言うと、Aくんは「全然」とあっけらかんと返してくれました。
Aくんもかなり本気の買い物に臨んだようで、大量のアニメグッズが詰まった袋を両手に持っていました。「結構買ったね」と言うと、Aくんは「ちょっと買いすぎちゃった」と苦笑い。そのまま二人とも満足して店を後にすると、私はまたしても不穏な気配を感じ取りました。
辺りを見回すと、近くの駐輪場に先ほどのおじさんがいて、今度は間違いなく私のことをジーッと見つめています。
(え?なんなのホントに?ストーカー?付きまとい?)
なんだか気味が悪いなと思いながら、私はおじさんと目が合ってしまったことを後悔し、すぐに視線を逸らしました。
「ちょっと、近くでお茶しない?」
この状態で一人になるのが心細かったので、私はそう言ってAくんを誘いましたが、
「ごめん、この後ちょっと用事があって」
Aくんはそう言うと、すぐにタクシーを止めて行ってしまいました。
一人になってしまった私は、仕方ないので帰ることにしました。おじさんの視線は未だ感じてはいましたが、私は敢えて何食わぬ顔で平静を装い、駅方面へ足を向けました。
駅に向かっている間もなんだか嫌な気配を感じるのですが、また目が合ってしまったら怖いので、後ろを確認することもできません。すると運悪く、横断歩道の赤信号に捕まってしまいました。
(後ろは一体どうなってるんだろう?まさか付いて来てないよなぁ…)
そんな不安に駆られ、私は一秒でも早く信号が切り替わってくれることを祈っていました。
するとすぐ背後から、自転車の走行音が近付いてきました。
(まさか、あのおじさんじゃないよな…)
祈るような気持ちでゆっくりと頭半分だけふり返り、横目で後ろを覗くと、案の定、あのおじさんが付いて来ています。嫌な汗が流れます。正面を向き直し、フーッと溜め息を吐くと同時でした。
キッ!と、おじさんの自転車が私の横に止まりました。
私にはそちらを振り向くことが出来ませんでした。願わくば、たまたまおじさんの帰り道がこっちなだけで、私とは関係ないことを切に願いました。
すると突然、おじさんが謎の小包を私の前に差し出してきたのです。
「これ、どうぞ」
そう声を掛けてきたおじさんの顔は何故かイキイキしています。
「…な、なんですか?これ」
怯えてしまって、私の声は自分でも驚くほどか細いものでした。
するとおじさんは、すこぶる元気に言いました。
「あなたが欲しがってたもの!」
内心(この場から一目散に逃げようか)と考えましたが、おじさんは自転車、徒歩のこちらは分が悪いと諦め、仕方なくその小包を受け取り、中を確かめました。そうしなければ、おじさんは立ち去ってくれそうもなかったので…
中に入っていたのは、先ほど私が店で買おうかどうか考えあぐね居ていたフィギュアでした。
「…え?どういうことですか?」
おじさんに聞くと、
「ずっと見てたから…」
そう一言呟くと、おじさんはそのまま自転車で横断歩道を渡って行ってしまいました。
「え?え…?何?どうするの、これ・・・」
フィギュアと一緒にその場に残された私は、なんだかとても気持ち悪くて、そのまま立ち尽くしてしまいました。確かにめちゃくちゃ欲しかったモノではありましたが、見ず知らずのおじさんから贈られると、正直これほどまで違ったモノに見えるのかと戸惑いました。
とりあえず、このフィギュアをどうしようかと考えながら、ひとまず駅まで歩きました。
「でも、やっぱり、気持ち悪いよな…」
という結論に達し、私はフィギュアを駅構内にあるゴミ箱に捨てました。
その後、自宅方面に向かう下り電車のホームへ行くと、私は再び驚いたのです。
そこに、同じホームで電車を待つおじさんの姿があったのです。
フィギュアは捨ててしまったし、今あのおじさんに自分の姿を見られたら絶対トラブルに発展すると思い、ひとまず私はホームの柱の陰に隠れ、おじさんが電車に乗り込むのを見届けることにしました。
数分後、電車が到着。
おじさんは、私と同じ方角の電車に乗り込み行ってしまいました。
その後、私も次の電車に乗り込み、無事自宅に帰ることができたのですが、ずっとモヤモヤした気持ちが残り、その夜はなかなか眠れませんでした。
あのおじさんは何が目的で私にフィギュアをくれたのか?
ただ善意での贈り物だったのか?
そのことを深く考えれば考えるほど、結局おじさんの目的が全くわからず、今でも漠然とした気味の悪さを拭えずにいます。

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