
体験場所:京都府京都市左京区 叡山電鉄沿線の古い集合住宅
これは、私の職場の同僚Aさんから聞いたお話です。
彼女が就職を機に京都で一人暮らしを始めたばかりの頃の体験なのですが、今思い出しても背筋が凍る思いだったとAさんは当時を振り返ります。
当時、新卒で手取りも少なかったAさんは、家賃の安さに惹かれ、叡山電鉄沿いにある築40年近い古いアパートを借りました。
条件の良い部屋が借りられて満足したAさんでしたが、ただちょっとだけ気になった点がありました。1Kの間取りに見合わず、玄関から居室に続く廊下が妙に長いそうなのです。夜、居室の窓から入る街灯の灯りも、長い廊下の奥までは届かず、電気を点けず覗く廊下の先は、まるで泥を溜めたように真っ暗闇だったのが印象的だったとAさんは言います。
その部屋に入居して一週間が過ぎた頃でした。Aさんは、誰かに見られているという奇妙な感覚に悩まされるようになったそうです。
最初は慣れない仕事や一人暮らしによるストレスが原因と考えたそうなのですが、視線は日を追うごとにハッキリと、鮮明なものになってきたそうです。
そんな日が続いた、ある晩。
仕事でクタクタになって帰ってきたAさんは、電気も点けず、そのままベットに倒れ込み、スマートフォンを眺めていました。
ふと、廊下の扉のわずかな隙間に目が向きました。
隙間から、誰かがこちらを覗いています。
目と目が合ったわけではありません。でも、隙間の奥の暗闇に、人間の顔の輪郭がハッキリ実体を持って存在しているのが分かったそうです。
Aさんは恐怖で心臓が止まる思いでした。
でも、そのままやり過ごすわけにもいかず、勇気を振り絞り廊下へ向かうと、電気を点けました。
誰もいませんでした。
さっきまで存在していた何者かも、その視線も、電気を点けた途端にスッと消えたのです。
ただ、足元のフローリングに薄っすらと、濡れた足跡のようなものが一つ残っていたそうです。
それからというもの、不可解な現象が加速して発生するようになりました。
夜中にふと目が覚めると、枕元に誰か立っている気配を感じ、怖くて目が開けられないまま朝まで毛布の中で震えて過ごしす。またある日の帰宅時のこと、間違いなく鍵を閉めて出たはずなのに、部屋の真ん中に、見覚えのない古い女性用のヘアピンがポツンと落ちていたり。
他にもいろいろあってAさんはすっかりノイローゼのようになり、職場の昼休みに私に相談してきたのです。
私は趣味で心理学の本をよく読むのですが、「慣れない一人暮らしによる不安が見せる幻覚や錯覚、いわゆるパレイドリア現象ではないか」と、その時は答えました。独居による未知の不安。脳はそれを認知できるパターンに落とし込み、無理やり理解しようとする性質があります。
しかし、Aさんがスマートフォンで撮影したという部屋の映像を見せられ、私は言葉を失いました。
Aさんが部屋の真ん中でスマートフォンを構え、ぐるりと体だけ一周させ、室内の様子を撮影している動画でした。基本的にはなんの変哲もない映像なのですが、一か所だけ、おかしなものが映り込んでいました。
ぐるっと室内を撮影する中程で、部屋の窓が映るのですが、その窓ガラスに映るAさんの背後に、明らかにAさんとは背格好の違う人影が立っていました。
人影はぼやけているのですが、それが女性であることは分かります。あやふやな存在もその視線だけはハッキリとした意思が感じられ、窓ガラス越しにAさんの向けるスマートフォンをジッと凝視していました。
それから一ヶ月を待たず、Aさんはその部屋を解約しました。
解約の際、不動産屋に事情を話してみると、担当者は顔をひきつらせ、「あそこは以前、女性二人がルームシェアをしていたのですが、片方の方が…」と言いかけ、そのまま黙り込んでしまったそうです。
退去する日、最後に空っぽになった部屋を振り返ると、少し開いていたクローゼットの隙間から、細い指が一本だけスッと出てきて、内側から扉をパタンと閉めたそうです。
Aさんは今でも背後に視線を感じると、無意識に髪を触る癖がついています。あのヘアピンが自分の髪に刺さっている気がして、不安になるようです。
もし皆様が、京都で相場より家賃が安く、やけに廊下が長い部屋を見つけたら、注意して下さい。まずは居室の窓ガラスをよく確認されることをお勧めします。

他にも「京都府の怖い話」複数ございます。
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