体験場所:山形県最上郡
これは私が小学校低学年の時に体験した話です。
山形県にある私の地元は、一番近いコンビニまで車で15分ほどかかるようないわゆる「ド田舎」でした。
そんな所なのでやっぱり地価が安いためか、私の祖父も山に土地を持っていて、放課後になると私はよく友人たちと祖父の山へ遊びに行っていました。
山の中には赤い実のなる木(私たちはぐみの木と呼んでいました。)に囲まれた場所があって、仲良しのMちゃん、Hちゃん、Rちゃん、それと私の4人でその場所を「ぐみぐみ丘の秘密基地」と名付けて毎日のように遊んでいました。
ある日のこと、その日も4人で「ぐみぐみ丘」で遊んでいると、Rちゃんが「すごいもの見つけた!」と大はしゃぎで私たちを手招きしました。
言われるままRちゃんの後ろに付いて、いつもよりも山の奥へ入っていくと、そこには小石が積み上げられた小さな小さな祠のようなものがあったのです。
「これってきっと、この辺の神様のおうちだよね!何かお供え物しようよ!」
Rちゃんがそう言うので、次の日各自お供え物を持っていくことになりました。
祖父からも山の神様の祠の話なんて聞いたこともなかったのですが、なぜだか怒られてしまうような気がして、その祠を見つけたこと、それにお供え物を持っていくことは家族には内緒にしておきました。
次の日、Mちゃんは祠をきれいにするためのお水を、Hちゃんはお菓子を、私は手作りの花束(雑草で作ったものですが笑)をそれぞれ持ち寄りました。
祠の発見者のRちゃんは小さな女の子のお人形を持ってきていました。
なぜ人形なのか不思議に思っていると、Rちゃんは「神様って祠に一人でいるんだって!それじゃかわいそうだから、お友達用意してあげたの!」と自慢げに言って、その人形をお供えしていました。
その日の夜、私はとても不思議な夢を見たのです。
いつもの4人で「ぐみぐみ丘」で遊んでいる夢でした。
ただ、そこにもう一人、同年代くらいの知らない女の子が一人混じっているのです。
私の地元は非常に田舎なので、同級生はもちろん、その子の家族までほぼほぼ顔見知りです。つまり年の近い子で知らない子なんて身近にいるはずがないのです。
それにいつものメンバーは夢の中でも顔をはっきりと認識できるのですが、その知らない女の子だけは顔に白い靄がかかっているみたいで、なぜだかはっきりと顔が見えないのです。
それでも夢の中では、その知らない女の子とも一緒に私たちは楽しく遊んでいました。
翌朝、私は目が覚めると、昨夜の夢を思い出してなぜか寒気がして、早く「ぐみぐみ丘」のメンバーに話そうと決めて登校しました。
みんなに夢の話をしようとすると、その前にMちゃんが「聞いてほしいんだけど、変な夢見たんだ。」と話し始めました。
話を聞くと、Mちゃんが見た夢の内容というのが私と全く同じもの。しかも私とMちゃんだけではなく、HちゃんRちゃんも同じ夢を見たと言うのです。
なんだか不気味だね、と、私とMちゃんHちゃんは少し気味悪く思ったのですが、なぜかRちゃんだけはしきりに夢の中の女の子に会いたがっていました。
その日は出来ればぐみぐみ丘には行きたくなかったのですが、どうしてもRちゃんが行きたがり、一人で行かせるのも心配で、結局その日もいつも通り放課後4人でぐみぐみ丘に行くことになりました。
放課後になって、張り切るRちゃんに付き添うように、私たちは仕方なく重い足取りでグミグミ丘へ向かいました。
その途中でのことでした。
山の入り口あたりで、薄っすらと女の子の声が聞こえてきました。
何を言っているのかは聞き取れないのですが、なんとなく山の中に誘っているように感じる声でした。
私は怖くなってしまったのですが、「気のせいだ、気のせいだ、気のせいだ」と自分に言い聞かせて声は聞こえないふりをしていました。
他の子にも聞こえているのか分からなかったし、なんだか反応してはいけないような気がしたのです。
しかし、どうやらみんなにも声は聞こえているようでした。
Mちゃんが「なんかさっきから聞こえるのって人の声だよね….?」と聞いてきたのです。
するとHちゃんも「みんなも聞こえてたんだ….!なんか怖いよ、今日は帰ろ?」と提案してくれました。
私も怖かったのでHちゃんに便乗しようとしたのですが、Rちゃんだけが「ダメ!」と頑なに帰ることを拒むのです。
さらに続けてRちゃんが不思議なことを言いました。
「たぶんあっち(祠のある方)にみっちゃんが来てくれたんだよ!今日はみっちゃんも一緒に遊ぼう!」
そう声を上げると、Rちゃんはみんなの返事も聞かずにずんずんと山の中へ入って行ってしまったのです。
前述したように、近所の人はほぼ全員が顔見知りの田舎です。
ですが「みっちゃん」という子を私は知りません。
Rちゃんも同じコミュニティなので、そこにRちゃんだけが知っていて他の3人が知らない子がいるとは思えません。
もちろん過去にRちゃんから「みっちゃん」という友達を紹介されたこともありませんでした。
それなのにRちゃんは「みっちゃんと遊ぼう!」「みっちゃんが絶対待ってるんだよ!」とこちらの話に耳を傾けることもないまま、足を止めようともしません。
そのまま遂に祠のある場所までたどり着いてしまいました。
すると突然Rちゃんは虚空に向かって「みっちゃんおまたせ!」と手を振りながら走って行ってしまいました。
その背中を見ていた私とMちゃんHちゃんはもう身が凍る思いで、それ以上山の中には進めず、Rちゃんを置き去りにしたまま帰って親に相談することにしました。
いつもよりも私の帰宅が遅かったので、母親が心配して途中まで迎えに来てくれていました。
私はすぐさまRちゃんと祠の話を母親にすると、いつもはあまり怒らない母が、怖いぐらいに血相変えて携帯を取り出し、どこかに電話し始めました。
どうやら山の所有者である祖父とRちゃんの家族に連絡しているようでした。
これはまずいことになったと思い、きっと怒られるだろうと私は泣きそうだったのですが、なぜか怒られることはなく、そのまま家に帰ることになりました。
母親になぜ怒らないのか聞こうとすると、その前に母親が、
「今日のことは誰にも言っちゃいけないし、忘れなさい。そして今日はご飯食べてすぐ寝ること。いいね。」
そう冷たい声で言われました。
その日は母親の言い付け通りに過ごし、次の日いつも通りに学校に行きました。
Rちゃんは、お休みでした。
更に先生から、Rちゃんはこの先もしばらく休むことを聞かされて、私を含むぐみぐみ丘のメンバーは心臓がギュッと締め付けられる思いでした。
ですが数日後、Rちゃんは無事に学校に来てくれたのです。
Rちゃんは以前のように元気で、いつもの日常が戻ってみんなも胸をなでおろしました。
ですが、ただ一点だけ、前とは違ったんです。
Rちゃんだけが「ぐみぐみ丘」のことを全く覚えていなかったのです。
それ以来、ぐみぐみ丘に行くことはなくなりました。
だから全てが分からないままです。
「みっちゃん」って一体なんだったのか?
山の中の祠も謎のまま…
そもそも、あの手を振って「みっちゃん」のもとへ走っていったRちゃんに、あの後いったい何があったのでしょうか・・・
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