体験場所:高知県高知市の某公園
子供の頃の話ですが、高知市にある有名な公園で、よく鳩を追いかけたりパンくずをあげたりしていたことがありました。
その公園にはよく叔父に連れて行ってもらったのですが、ベンチに座ってパンを出すと、人間馴れした鳩がエサを求めて自然と集まってくるような場所でした。
ある日、いつものように鳩にパンくずをあげようとすると、普段となんだか様子が違いました。
いつもならパンくずを撒くとバサバサァッと一斉に群がってくるはずの鳩が、その日は不思議なくらいこちらには目もくれず、向こうの一か所に集まったままでした。
何か食べ物でもあるのだろうかと子供ながら不思議に思って、私は誘われるように鳩が集まる場所へと近付きました。
私がやってくると、一匹の鳩がまるで私のことを認識したようにクルッとこちらを振り向いたかと思うと、その鳩がバサッと飛び立ち、それを追いかけるようにして他の鳩たちもバサバサァッと一斉に飛び去りました。
鳩たちが飛び去った後のその地面には、小さな石っころが落ちていました。
鳩が集まる中心にあったその石が、なんだか私には神々しく見えて、気付くとその石を自然と拾い上げてポケットに入れて持ち帰りました。
家に帰ると、私は魅入られたようにその石を眺めました。
何の変哲もないごく普通の石ころでしたが、私にはなんだかすごく神聖で素敵なものに見えていた気がします。
家にあった綺麗に装飾された小物入れに大事にしまって、その日から私は時間があればその石を眺めるようになりました。
しかし、私の大事にするその石を見た弟が「気持ち悪りい」と言ったことがありました。
その時私は強い怒りを感じ、この綺麗な石になんてことを言うんだと頭に血が上り、弟と取っ組み合いの喧嘩になりました。
また、その石を持ち帰ってから変わったことがありました。
家の庭に頻繁に動物がやってくるようになったのです。
入れ代わり立ち代わり庭に野良猫や野良犬が集まり、小鳥やカラスもよく現れたし、なんならハクビシンみたいなものまで出るようになりました。
しかも不思議なのは、「あの動物たち、窓から家の中を覗いている気がするの」と主婦だった母が気味悪そうによく呟いていたのです。
母のその言葉を聞いていた私は、庭に集まる動物たちはあの石を探しているんじゃないかと疑うようになりました。
そのうち、自分が学校に行っている間に石が奪われてたりしないか不安を感じるようになり、それからというもの私はあの石を肌身離さず持ち歩くようになりました。
今考えると、私の奇行も庭に集まる動物たちも、おかしいことだらけでしたが、当時の私はそれがおかしいとは考えもしなかったのです。
石を持ち歩くようになって数日後、それを見た友達に「何?その薄気味悪い石」と言われました。
またすぐ私はカッとなって、一体どこが薄気味悪いのかと怒りのままに友達を問いただすと、こんなことを指摘されたのです。
「だって、石の表面に顔みたいなのが彫ってあるよ」
確かにそうでした。
友達に言われるまでなぜ気付かなかったのか、私はそこで初めて石に浮かび上がる顔のような模様を認識しました。
今まで自分で気付かなかったのが不思議なくらい、その模様は確かに人の顔のようで、それがまるでマジマジと石を眺める私のことを睨んでいるように見えたのです。
「気持ち悪りい」
以前に弟がそう言った理由も、その時やっと分かったような気がしました。
それから急に石のことを気味悪く思うようになった私は、その週末に叔父に頼んで再びあの公園に連れていってもらいました。
持って来たパンくずを撒くと、いつものように鳩たちがバサバサと集まってきました。
私はその中心にポケットから取り出したあの石ころを置いたのです。
そしたら不思議なことに、それまで一生懸命パンくずを食べていた鳩がピタリと動きを止め、次の瞬間一斉にあの石に向かって群がり出したのです。
すると空からもバサバサ鳩が降りてきて、気付いた時には石を中心に集まったもの凄い数の鳩に私も取り囲まれ、身動き出来なくなっていました。
その尋常じゃない鳩の数は、ちょっとした恐怖を覚えるくらいです。
すると一匹の鳩があの石を咥えたかと思うと、クルッとこちらを向きました。
鳩に咥えられた石は、ちょうど顔の模様がこっちを向いていて、それがやっぱり私を睨んでいるように見えて、心の底からゾッとしました。
次の瞬間、バサッと石を加えた鳩が空に飛び立つと、まるでその後を追うように辺りの鳩もバサバサと飛び去っていきました。
急に日常に戻った公園には、地面に手つかずのパンくずだけが残っていて、私は撒き終える前のパンくずを手にしたまま、その場でしばらく放心してしまいました。
今もこの時の体験を思い出すとゾクッとします。
あの石が結局なんだったのかは分かりません。
ただ、私がそうであったように、見るものを惹きつける何か呪いのようなものを持っていたのかもしれません。
石を手放してからは、庭に集まっていた動物もピタッと現れなくなりました。
なんとなく感じるのは、もしもあの石を今も持ち続けていたなら、今の私が無事だったとは到底思えないということです。
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