体験場所:群馬県S市
私は現在30代の男です。
これは私が大学時代の頃に体験した話です。
私は群馬県の田舎町にある小さな大学に通っていました。
田舎の大学ですから、よく聞くような華やかな学生生活ではありませんでしたが、バイトもして車もあり、それなりに楽しい生活を送っていました。
当時、私は大学の軽音楽部に所属し、バンド活動をしていました。
バンドメンバーは4人で、私はギター、そしてボーカルはKという友人でした。
Kとは大学の軽音楽部で初めて知り合ったのですが、Kには大学に入る前から歌手になりたいという夢があり、「いつかテレビで歌いたい」と、話していたのが印象的でした。
Kは、高校卒業後、歌手を目指そうとしていたようなのですが、両親に「何とか大学までは行ってくれ」と頭を下げられ、嫌々大学に通っていたようです。
そのため、Kにとって大学は、バンド活動するために通っているのであって、授業はそのついでみたいなものでした。
ただ、幼い頃から歌手を目指しているだけあって、Kの歌唱力は確かなものでした。
そんな彼から、ある日の夜、急にこんな電話があったんです。
「自主製作でCDを作ったから、お前に聞いて欲しい」
Kには幼馴染で一緒に歌手を目指す友人がいました。
その友人とお金を出し合い、自分達でCDを作ったと言うのです。
私は急いで車でKの家に向かうと、
「すぐに聞いて感想を聞かせてくれ」
そう頼まれ、1枚のCDを渡されました。
念願の歌手になるための第一歩を踏み出したためか、Kは大変興奮していて、早く第三者の意見を聞きたい様子でした。
その昂ったKの雰囲気に当てられた私は、
「帰ってすぐに聞くよ」
と即答し、急いでCDを持って自宅に戻りました。
自宅に着いた私は、早速Kから受け取ったCDをプレイヤーに入れ、聞いてみました。
やはり素人が制作したものですから、音割れや録音の不具合が多少はあります。
ただ、それでも余りあるほどKが創り出した歌や音楽は素晴らしく、私はすぐにKに電話して、そのままの気持ちを伝えました。
「良かった~」
Kから発せられた言葉はその一言だけでしたが、それはKの喜びや安堵の気持ち、その表情が容易に想像できるほどのものでした。
私も、真っ先にKがその曲を聞かせてくれたことに、喜びと誇らしい気持ちが芽生えていました。
それから1週間後でした。
Kが亡くなったという知らせを聞いたのは。
実はKは、1年前に脳に腫瘍が見つかり、治療を続けていたようなのです。
ただ、治療の効果は期待できず、余命1年を宣告されていたそうでした。
その時が近付く恐怖の中、Kは何とか夢を形にしたいと、自分の音楽をCDに吹き込み、そのまま静かに息を引き取ったのです。
私の手元に残ったそのCDは、彼の遺作になりました。
1週間前にKから受けた連絡とのギャップに私の理解が追いつけず、めまいがするほどの混乱を覚えました。
葬式では彼のCDが流されました。
ラップ調のその曲は、お坊さんのお経と嫌にリズムが合っていて、もしかすると笑ってしまうシーンなのですが、私を含め参列者は全員、彼の早すぎる死に涙を流し続けました。
Kが亡くなってからも、私はそのCDを時々聞いていましたが、1年もすると本棚の奥に入り込み、その存在を忘れてしまっていました。
そんな頃でした。
ある日、部屋でふと見ていたテレビの歌番組で、視聴者歌手オーディションという企画を目にした時でした。
『カタンッ』
と、本棚の方から音がして、フッとそちらに目をやると、KのCDが床に落ちていました。
CDは本棚の奥に埋もれていたはずで、それだけがズレ落ちるようなことは考えられません。
その時、私は確信しました。
これは、Kの抱いていた夢なのだ、と。
私は迷うことなくそのCDをテレビ局に送りました。
そのCDができるまでの経緯を手紙にしたためて。
その番組は、実際に応募し、選ばれた視聴者だけが番組出演し歌を披露する形式のオーディション番組でした。
もはや亡くなってしまったKにチャンスがないことは私も分かっていました。
結果は落選。
まあ当然といえば当然ですが、私は自分のことのように残念に思いました。
ですが、奇跡が起きたのです。
テレビから、Kの歌声が聞こえてきたのです。
Kの歌が、手紙にしたためたエピソードと共に、番組内で流されたのです。
番組側の配慮で、特別な形でKの歌が採用されたようでした。
「いつかテレビで歌いたい」
そのKの言葉を思い出し、私はテレビの前で手を合わせて祈りました。
コメント
久々にYouTubeを見たんですがもう更新する予定はないんですか??
こうしてサイトもいつも見ていますがまた動画での投稿も見たいです。お時間等余裕が生まれた時は待ってるので更新してください
コメント頂きありがとうございます。
現在、動画も誠意制作中ではございますが、なかなか作業が進まず難航しております。
もうしばらくお待ち頂ければ幸いです。
何卒よろしくお願い致します。