体験場所:埼玉県戸田市のマンション
これは私が転勤で埼玉へ引っ越した時の話です。
それまで大阪で会社勤めをしていた私は、転勤で東京支部に移ることになりました。
引っ越し先を探すにあたり、部屋は都内の職場に近い場所に決めたかったのですが、やはり都心は家賃が高く、あれこれ妥協を重ねるうち、結局契約したのは埼玉県戸田市の物件、3階建マンションの2階にある部屋でした。
引っ越し当日、順調に作業は進み、隣人への挨拶も済ませ、夕方にはあらかた荷物も片付きました。
久々の肉体労働で疲れてしまった私は、その日は近くのファミレスで夕食を済ませ、帰宅後テレビを見ながらゆっくりしているうちに、いつの間にか眠ってしまったようでした。
『タッタッタッタッタ』と音が聞こえ、私は目を覚ましました。
「あ~寝落ちしちゃったなぁ~」と独り言をいいつつ、先ほどの音はなんだろう?気のせいかな?と考えていると、
『タッタッタッタッタ』
と、さっきと同じ音が今度ははっきりと聞こえてきました。
どうやら上の階から聞こえるその音は、小さな音が短い間隔で繰り返される感じで、まるで小さな子供が走り回る足音のように聞こえました。
「上の部屋の子供が騒いでるんだろうな~。」
と思って時刻を確認すると既に23時を過ぎており、
「こんな時間まで子供を起こしてないで早く寝かせろよな」
なんて思いつつ、引っ越しで疲れた体を引きずるようにお風呂に入り、そのまま就寝しました。
翌日、私は昼過ぎまで寝ていました。
職場は明後日からの出社予定だったので、元々その朝はゆっくりするつもりでしたが、それにしても寝すぎたかなと、グ~と伸びをして私は起き上がりました。
その日は必要な日用品の買出しに行くと決めていたので、起き抜けに私は早速身支度を始めました。
出掛ける用意をしながら昨日のことを思い返すと、「子供がいるなら日中も騒がしいことがあるかもしれないな。あまりうるさいようなら一言声をかけないといけないかな~」と考えていました。
トイレやキッチン用品など大量に買出し、その日は夕方頃に帰宅しました。
帰って早々に私は夕飯の支度を始め、食事を終えて片付けも済ませ、入浴後、お風呂から上がったくらいの時でした。
『タッタッタッタッタ』
上の階からまた子供の駆け回るような足音が聞こえてきました。
「あ~また走り回ってるな~」と思いながら時計を確認すると、23時05分。
寝る前に決まって何かやっているのかな?と疑問に思いながら、子供だし仕方ないかなと諦めてそのまま就寝しました。
仕事が始まってからは日中家にいることがほとんどなくなりました。
上の階の足音は相変わらずで、決まって私が就寝する23時頃に鳴り始めました。
そんな日が続き、出社し始めてから数週間が経った頃でした。
私は仕事でミスをしてしまい上司からこっぴどく叱られてしまいました。
その日はストレスを溜め帰宅、家で遅くまで一人やけ酒を飲んでいる時でした。
『タッタッタッタッタ』
いつものように上の階から子供の走る足音が聞こえてきました。
私は仕事でのイライラと、お酒で気が大きくなっていたせいもあって、いつも以上に足音に腹が立ち、
「文句を言ってやる!」
と決意して部屋を出ました。
上階の部屋の前に到着し、ピンポーンとインターホンを押すと、
「はい?」
と、40代くらいの女性が応答しました。
「あの、いつも23時過ぎくらいになると足音がうるさいの、やめてくれませんか?」
「あ、うるさかったですか?気を付けていたんですけど、すみません。」
毎日夜中にうるさくしている人の割には丁寧な対応だなと感じ、私も少し冷静になりました。
「いえ、今後気を付けていただいたら大丈夫です。夜に子供と遊ぶのも程々にして下さいね。」
と、こちらも丁寧な口調で返答すると、
「子供…ですか?あの、どこか部屋を間違えているのではないでしょうか?私たちに子供はいませんよ?」
と、言われました。
どういうことなのか私は理解に苦しみながら、
「いやいや、毎日23時過ぎに子供が走り回る音が聞こえてましたよ!」
と思わず声を荒げて言うと、
「あの~ほんとに何のことか分かりません。子供はいませんので…」
と戸惑ったような声で女性は答えました。
こうして子供が居る居ないの押し問答を続けても埒が明かないので、私は後で大家に確認することにして、とりあえずその場は引き下がりました
次の日、上の階の部屋に関して大家に確認してみると、本当に女性の一人暮らしで子供はいないということでした。
そんなはずはないと思いながらも、正直、私は薄気味悪さを覚えました。
それでは、今まで私が聞いていた足音は何だったのだろうと…
それと同時に、私は昨晩の上の階の女性の言葉を思い出し、更に寒気を覚えたのです。
大家が言うには、あの部屋の女性は一人暮らしだということでしたが、昨晩女性はインターホン越しにこう言っていました。
「私たちに子供はいませんよ?」
『私たち…』『子供は…』
とりあえず、私は上の部屋のことをそれ以上詮索するのをやめました。
その日も夜になると、いつものように子供が走り回る音が聞こえ、それからも私が引っ越すまでの間ずっと、足音は毎晩のように聞こえました。
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