
体験場所:東京都内の某中学校
これは僕が高校生だった頃、霊感体質だという同じクラスの友人K君から聞いた話です。
K君は中学生の頃、東京にある中学校に通っていたのですが、そこで奇妙な体験をしたそうなのです。
ある日の放課後のことでした。
他に誰も残っていない教室で、K君は仲の良い男女数人でワイワイ話していました。
すると、その中の一人が、
「ねえ、コックリさん、やらない?」
と言い出しました。
霊感体質だというK君は、過去にコックリさんで怖い目に遭ったことがあるらしく、
「いや、なんか嫌な予感がするし、やめとこうよ」
そう言ってやんわり断ったらしいのですが、男友達に「え?怖いの?」と冷やかされ、女子の前でカッコ悪い姿は見せられないと、仕方なく了承したのだそうです。
「コックリさん、コックリさん、〇〇君が好きなのは△△さんですか?」
なんて思春期の中学生らしい質問をして、それをこっそりU君という男子がコインを誘導して答えたりして、盛り上がっていたのだそうです。
もちろんコインを動かしているのはU君だと誰もが分かっていました。ですが、そこは暗黙の了解というか、面白いからいいやと、別にわざわざ指摘することは誰もしなかったそうです。
みんなコックリさんに夢中になっていて、気付いた頃には教室にも夕日が差し込んでいました。
(そろそろお開きかな…)
なんて思っていると、突然みんなの指を乗せた10円玉が勝手に動き出したのです。
誰も、何も質問していないにも関わらず。
(お?U君、新しいパターンだな。)
誰もがそう思って10円玉の行く末を見守っていると、
「これ、俺は動かしてないけど…誰が動かしてるの…?」
U君がそんなことを言って、みんなの顔を窺います。
その間にも10円玉は特定の文字を踏みながら移動しています。
(…え?…本当にU君じゃないの?)
U君も10円玉に指を乗せてはいますが、その視線は紙ではなく、みんなの顔を見ています。確かにそれでは10円玉を目的の文字に誘導するなんて出来るはずありません。
(…じゃあ、誰が動かしているんだろう?)
みんなが顔を上下させながら、お互いの顔を見回しつつ、10円玉がなぞる文字の行方を追いかけました。
すると、なめらかに紙の上を滑り次々と文字を踏み進んでいた10円玉が、遂に止まりました。
『な』の文字の上でした。
すると女の子の一人が、10円玉がなぞった文字を思い出し、コックリさんが示した言葉を声にしました。
『こ・ん・も・ん・い・る・な』
みんなの認識も同じでした。
「こんもんいるな・・・え?何それ?どうゆう意味?」
言葉が示す意味が分からず、一同ポカンとしている時でした。
『ダッダッダッダッッダッダッダッダッダッ…』
教室に面する廊下を誰かがもの勢いで走る音が聞こえたかと思うと、
『ドンドンドンドンドンドンドンドンドンドン』
と、今度は教室の壁の四方八方を叩く轟音が鳴り響きました。
「きゃあ!!」「うわぁぁ!?」「うおぉ!」
とみんなが驚いて声を上げる中、U君だけが急いでドアを開けて廊下に飛び出し、辺りを見回しました。
「誰も、いないぞ…?」
U君がそう言った時には、壁を叩く音も止んでいました。
何が起きたのか全く頭が追いつかず、誰もがその場に立ち尽くしていました。
コックリさんの紙は床に落ち、当然みんなの指も10円玉から離れていました。
すると突然、
「きゃあああ!!!」
と、窓際にいた女子の一人が外を指差し悲鳴を上げました。
反射的にみんながその子の指差す先に目を向けました。
教室の窓から30mほど先の校門、その前の道路をユラユラと歩いている女性の姿が見えました。
前に歩いているのか後ろに歩いているのか、歩幅も定まらないユラユラした足取りの女性。よく見ると信じられないほど顔が真っ赤に染まっています。どうやら頭からすごい量の血を流しているようなのです。
「え!?嘘でしょ…」
みんながその異様な光景に釘付けになっていると、K君がゴクリと生唾を飲み込み言いました。
「こう(ん)もん、いるな…」
「あ・・・」
さっきコックリさんが示した言葉が「校門、いるな」だとみんなが理解した瞬間、一斉にカバンを手に取り、全員ダッシュで教室を出て学校の裏口から外に飛び出して行きました。
その後、女子の一人は1週間ほど学校を休んでしまったそうです。
後日、校門の前をユラユラと歩いていた女性について判明したことがあるそうです。
女性は決して幽霊などではなく、生身の人間だったそうなのですが、あの日、学校の近くで暴行事件があったらしく、あのユラユラと歩く女性はその被害者だったそうなのです。
K君が言うには、テレビニュースでは報道されなかったが、新聞の夕刊で確認したということでした。
自分の部屋で、僕にそんな中学時代の世迷い言を話していたK君は、少し興奮しているように見えましたが、急にガックリうつむいたかと思うと、
「俺のせいだ…俺がコックリさんなんかやったから、あの女の人が…」
そう言って、自称霊感体質のK君は自分を責めているようでした。
なんでも、K君のお姉さんにも不思議な力が備わっているらしく、
「この力はな、この家系の宿命なんだよ…」
と、K君は自分の血を呪い、吐き捨てるようにそう言いましたが、僕には一段と自己陶酔している様にしか見えません。
正直なところ僕の本心は、「いやいやいやいや、ないないないない」と、9割りがたK君の話を信じていませんでした。
ですが、「その話、本当?」、なんて少しでも疑う素振りを見せようものなら、K君は一気に機嫌が悪くなり、怒って出ていく激情型タイプの人間だったので、僕は笑ったり反論したくなる自分をグッと押さえ、黙ってK君の話を頷きながら聞いていました。
丁度そんな時、1階にある玄関の扉が開く音がしました。
「ただいま」
外から帰ってきたK君のお姉さんの声が聞こえたかと思うと、ドドドドドドと階段を駆け上がる音が聞こえ、『バン!』と突然K君の部屋の戸が開かれました。
そこには怒った顔のK君のお姉さんが立っていて、
「おまえ、その話やめろ!」
そう言ってK君を睨みつけたかと思うと、フンっと鼻を鳴らしてお姉さんは自分の部屋に戻っていきました。
お姉さんが立ち去った後、シュンっと小さくなっているK君を見て、僕はまた笑いをかみ殺さなければなりませんでした。
それにしても、K君のお姉さんは帰ってきたばかりだったのに、どうして僕たちの会話の内容が分かったのでしょう?それに、どうしてこっくりさん話にあんなに怒っていたのでしょうか?
なんか面倒だったので詳しく聞くことはしませんでしたが。
それにしても今になって思うと、面白い奴でしたよ。K君は。
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