体験場所:愛媛県今治市
これは、私が高校入学の前に体験した話です。
当時、高校受験も終わり、入学までの暇な春休みを過ごしていた私は、ふと思いつきで近所の山を散策してみようと考えました。
昔から冒険好きだった私ですが、家の近くに未だに行ったことのない山があり、それはよくある田舎の小さな山なのですが、改めてそこを散策してみることにしたんです。
リュックサックに適当なお菓子と懐中電灯を入れ、昼の明るい時間帯に早速その山に向かいました。
山の周りはほとんどがみかん畑で、初めて踏み込んだ山の中は、道が舗装されていたりと割と人の手が入っていて歩きやすく、私は順調な足取りで山道を上へと登って行きました。
おそらく、山の中腹まで来たという時でした。
大きな鉄製の門を見つけたんです。
門は頑丈に閉ざされていて、更に門から先の辺り一面をぐるりと藪が囲っていて、藪の木々には有刺鉄線が張り巡らされていてと、そこには如何にもな雰囲気が漂っていました。
それでも、多分当時の私は怖いもの知らずだったのかもしれません。好奇心の赴くまま、門のすぐ脇から有刺鉄線をかわすように藪の下に潜り込み、門の内側に入りました。
そこは、不自然なくらい静かな場所でした。
今思うと、その時点で私もおかしいと気付いていたと思います。
ただ、当時の私はそんなことお構いなしに、門の内側の舗装されていない道を奥へとずんずん進んで行きました。
歩き始めて2分ほど行った辺りで、ちらほらと小さな小屋が見え始めました。
(後から調べたのですが、この辺りにはもともと小さな集落があったそうです。)
そこから更にもう少し進んだ先に、少しひらけた場所が見えてきたんです。
そこには3軒の小屋があって、そのうちの1軒は2階建てで、2階の部屋にはそこそこ大きな窓があるのが遠目にも分かりました。
「あそこに何かないかな?」と好奇心を剥き出しにして、そのひらけた場所に足を踏み入れた瞬間でした。
なんとも不思議な感覚に包まれたんです。
なんというか、寺の仏堂や神社の神殿の中に入った時のような、あのなんとも言えない厳かな感じを更に強くしたような感覚。
初めての感覚に少し困惑しつつも、それでも私は2階建ての小屋の中を絶対に物色しようと近付いて行ったのです。
小屋の前まで来て、ふと2階を見上げた時でした。
2階にある大きなの窓から覗く部屋の中に、『それ』がいるのが分かったんです。
四足歩行の、獣のような姿がそこにありました。
ただ、不思議なのは、それ以上の姿がハッキリとしないんです。
森の中とはいえ、そこは比較的ひらけた場所。窓の奥にもさんさんと昼間の明るい日差しが差し込んでいます。
それにも関わらず、なぜか『それ』だけは周囲に闇をまとっているような感じ?がして、シルエット以上は顔も肌の感じも詳細な姿は全く認識できないんです。
「…なんだ…あれ?」
と、みけんに眉を寄せて数秒、少しづつピントを絞るように凝視した次の瞬間、『それ』と目が合ったのが分かりました。
顔も見えないのに、なぜかはっきりと、『それ』と見つめ合っている事が分かる。
途端に背筋が凍る感じがして、ボツボツボツともの凄い勢いで鳥肌が浮き立つのと同時に、私は猛ダッシュで逃げました。
がむしゃらに走りまくって、とにかく走って、門の前まで辿り着くと滑り込むように藪の下を通り抜け、ようやく舗装された山道に戻ることができました。
家に帰り、あの辺りの地域について色々調べてみたのですが、山の中には元々集落があった、ということ以外の情報は何一つ分かりませんでした。
結局、私があの小屋で見た存在は一体何だったのか、未だに謎のままです。
ただ、この世には絶対に踏み込んではいけない領域というものが存在する。それだけは理解することが出来た体験でした。
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