体験場所:奈良県東吉野村
まず断っておきたいのは、これから話す内容はわざと場所や詳細を曖昧にしている個所があります。
と言うのも、この話は私だけではなく、他にも関る人がおり、その人たちには何も断りなくこの話をしております。ですので、仮にその誰かがこの話を目にした際に私が特定されることを避ける為ですので、それを承知の上でこの話に付き合って頂けたら幸いです。
話は数年前に遡ります。
当時、私は縁あって奈良県某所にある、とある施設で働いていました。
そこではもちろん私以外にも複数のスタッフが働いており、いつの頃からか私はその内の1人と仲良くなっていました。
彼女とは親友と言ってもいい間柄となり、よく一緒に町まで出かけてはカフェを楽しんだものです。
そんな彼女と一緒だったからこそ、私たちはあの職場を辞めることが出来たのだと思います。
世間では『辞めた職場の悪口は言ってはいけない』と言いますが、あえて言わせてもらうなら、あの職場は最低でした。
なぜそこまで悪く言うのかと言うと、オーナーのせいとしか言いようがありません。
詳しいことは言えませんが、私たちはそのオーナーの態度に我慢できず辞職したのです。
…少なくとも私はそう思っていました。
幸い退職に当たっては大きなトラブルもなく、思いの外スムーズに辞めることが出来たのですが、その後、一緒に辞めた彼女の退職理由が、オーナーのことだけではなかったことを私は初めて知ったのです。
それを知ったのは、職場を去り1年以上経過した頃でした。
退職後は私は地元に戻り、彼女は兵庫県に引っ越し、それぞれ頑張っていました。
ある日、その彼女から連絡があり「是非会いに来て欲しい」と言われ、私は彼女が住む神戸に足を運ぶことになったのです。
と言っても、2泊3日の旅の前半は、彼女と落ち合い一緒に京都観光を楽しんでいました。
その京都観光の折、左京区にある『哲学の道』を歩るいている時のことです。
どちらからその話題を持ち出したのか、いつの間にか私達の話は、一緒に辞めたあの奈良の職場の話になっていたんです。
すると、それまで楽しそうにしていた彼女はふと顔を曇らせ、
「実は、黙っていたんだけど…」
と言って、おもむろにある秘密を告白し始めたのです。
その施設には、古い建物をそのまま利用したスタッフ用のエリアがありました。
そこは共同玄関からも大分離れた奥まったところにあり、まるで倉庫の様な薄暗い場所でした。
実際に倉庫として使われている部屋の他に、スタッフに解放されたフリースペースもあり、外部から勝手にお客様が入ってこられないように、幾つも扉をくぐり、長い廊下を渡らなくては辿り着けないようになっている場所でした。
私が来るより以前からその職場で働いていた彼女は、ある日、そのスタッフ用のエリアを掃除していた時、その奥に今まで気が付かなかった階段を見つけたのだそうです。
建物の最も奥まった場所にあったその階段を、彼女は訝しく思いながらも、恐る恐る登ってみたそうなのです。
「その中段辺りにね、扉があったんだよね…」
彼女が言うには、その扉はまるで壁に埋め込まれたような感じの隠し扉になっていたと言います。
隠し扉とは何だか気味の悪い話ですが、こともあろうか彼女は、その扉を開けて中を確認したのだそうです。
扉の先には空っぽの部屋があったそうです。
「奇妙な部屋だった…」
と彼女が言うその部屋は、天井が極端に低く、女性でも首を傾けないと立てないくらいだったそうです。
そして何より彼女が気味悪く感じたのは、その部屋が持つ独特の雰囲気だったと言います。
「座敷牢っていうの?あの部屋はそんな感じだった。投獄されたのは女性かな?なんか、その人がまだいるような気がして…」
それですぐに扉を閉め、彼女は階段を駆け下りたのだそうです。
女性が投獄された座敷牢だと、断言めいた彼女のもの言いに私は薄ら寒さを感じました。
そんな部屋があったなんて知らなかったと彼女に伝えると、
「そりゃそうだよ。あそこの階段に続く扉はいつも閉めていたし、誰にも知られないように気を付けていたからね。幸いあそこは奥まりすぎていて、誰も近寄らない場所だったから。」
そんな事をあっけらかんと話す彼女に、私は少し違和感を感じたんです。
なぜ今まで秘密にしていたのかと…
結局、その理由は聞けないまま、また、なぜそんな部屋があの職場にあったのかも謎のままです。
ですが、自分が働いていた職場にそんな部屋が存在し、しかも親友と思っていた彼女が、仮に善意からとは言え、私や他の誰にも知られないように部屋の存在を秘密にしていたことに、私はちょっとゾッとしました。
一体それがどこにある何の施設だったのか等、言えないことは多々ありますが、嫌な思い出ばかりの職場とは言え、後になって親友から聞かされた話のせいか、今でも何だか心にわだかまっています。
みなさんも自分の職場に謎の部屋や階段がないか、一度調べてみては如何ですか?
もしかしたら、自分だけが知らない秘密の部屋があるかもしれませんよ。
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