【怖い話|実話】短編「優しいワンちゃん」不思議怪談(千葉県)

【怖い話|実話】短編「優しいワンちゃん」不思議怪談(千葉県)
投稿者:TAKEJIN さん(53歳/男性/広告デザイナー)
体験場所:千葉県四街道市

母は、私が3歳の頃に病気で亡くなりました。
若干26歳という若さでした。
それからは職人である父と二人きり、父子だけで小学3年生まで生活していました。

亡き母との思い出は、ハッキリと連続した記憶はないものの、点の記憶として、日常での母との日々を不思議とたくさん覚えています。その思い出の一つ一つ全てが、亡き母の沢山の愛情を感じられるものばかりです。
私が50歳になった今でも、3歳までの母との思い出が鮮明に思い浮かぶというのも、わずか3年という短い間だけでも、どれだけの愛情を注いでくれたのかが分かります。

先述で、父と二人きりの生活は小学3年生までとお伝えしましたが、丁度、私が小学4年生に上がる前に、父は再婚しました。

相手の方には、娘が二人いました。

正直、私は父の再婚に反対でした。
お金は潤沢ではありませんでしたが、その時の生活に不満はなく、父との関係も良好だったからです。

しかし、父は職人でした。家事を任せられる伴侶がいれば父は仕事だけに集中出来るのでは、との思いから、私は父の再婚を肯定しました。

継母は明るい方で、大きな声で笑う陽気な人だったので、私も直ぐに馴染めると思っていました。
しかし、再婚してからというもの、継母の裏の顔が徐々に垣間見えるようになりました。

父と私の関係に嫉妬し、父のいない時には罵詈雑言を浴びせられ、私と父の関係を壊していきます。
全てにおいて自分の連れ子を最優先し、私はいつもないがしろにされていました。

でも、父の前では良き母を装うため、私は父に相談することも出来ず、「私には頼る人もいない…」と、孤立無援の絶望を感じ、毎日泣いている日々を過ごしていました。

そんな時、ある出来事があったのです。

冬の寒い雨の日の事でした。

泥まみれの見知らぬ子犬が一匹、ポツンと庭で震えていたのです。

継母達は買い物に出ており、家にいたのは私と父だけ。
私たちは直ぐに震える子犬を抱きかかえ、風呂場で体を洗った後、タオルに包んでストーブの前で抱いていました。

帰ってきた継母は、子犬を見て、あまりいい顔をしませんでした。
ですが、父がいいと言うならと、その子犬を飼うことを了承してくれました。

それから数か月が経つ頃には、子犬は立派な成犬となっていました。
不思議なのは、ご飯を上げるのはいつも継母だったにも関わらず、何故か犬は私や父にばかり懐いていました。

我が家に犬が来たからといって、継母と私の関係が変わるわけでもありませんでした。
むしろ、犬が懐かない事で継母は余計に苛立っている様にも見えました。

それからと言うもの、私の孤独で薄ら寂しい心は、このワンちゃんによって救われるようになりました。

継母の事で落ち込んでいると、何故かいつも私の横に来て、スリスリしてくれたり、ペロペロしてくれたりして励ましてくれました。まるで、心から私を心配してくれて「大丈夫?」と、声を掛けてくれている様に感じました。

継母から不条理な怒りをぶつけられている時には、継母に対して一生懸命に吠えるのです。まるで、私のことを「いじめるな!」。そう怒ってくれている様に感じました。

私が布団の中で泣いていると、部屋に来て私が泣き止むまでジッと傍にいてくれます。

そのどれもが、私のことを優しく包み込んでくれている、そんな温かい感覚にさせてくれるのです。

そんな日々が1年ほど続いていました。
気が付くと私は、「このワンちゃんがいるから私は孤立無援ではない」そんな風に思えるようにまでなっていました。

そんなある日、継母が内臓疾患で緊急入院、大きな手術をすることになりました。

苦手な継母とはいっても、生死が掛かった重大な出来事です。
毎日の様に家族で病院に通い続け、その間、継母を激励している自分がいました。

ここまで変われたのは間違いなくワンちゃんのおかげです。
もしワンちゃんと出会っていなければ、私は継母が入院した時に、良くない思いを抱いていたかもしれません。
全てはワンちゃんとの出会いから私は変わっていけたのです。

家族の献身があってか、継母の手術は無事に成功し、入院してから三カ月後には退院することが出来ました。

退院後、無事に継母は自宅に帰ってくると、大粒の涙を目に溜めて私を抱き、「今までの振る舞いを許してほしい」と、謝罪してくれたのです。
三カ月という時間が冷却期間となって、継母の思いも変化したようでした。

それからというもの、家族にも笑顔が増え、継母との関係も日々改善していきました。

そんな時でした。
一家和楽を見届け、安心したかの様な寝顔を残したまま、突然ワンちゃんは亡くなりました。

私の孤独を救ってくれたワンちゃんとの、突然の別れに耐え切れず、悲しみに明け暮れ、落ち込む日々を送っていた私に、ある時、寡黙な父がこう語りかけてきました。

「もしかしたらあの犬は、おまえのお母さんだったのかも知れないね。本当なら来世に生まれ変わる準備をしている時に、お前があまりに元気がなかったから、お母さん心配して、ひと時だけ犬に生まれ変わって目の前に現われてくれたのかもしれない。それで、お前が(もう大丈夫!)って思える時まで、一緒にいてくれたんじゃないかな…」

本当にそうだと思いました。
そうでなければ辻褄が合わないような事も沢山ありました。

「もう大丈夫!」って、私が立ち直ることが出来たから、お母さんは使命を全うして静かに亡くなっていったんだ。そう思ったのです。

生まれ変わりに関しては賛否両論あるかもしれません。
それでも私は信じたいです。

実際に不思議な体験をした者として、そして、母との再会で変わることが出来た人間として。

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