体験場所:埼玉県K市の自宅
私が幼稚園の年少の頃に両親が離婚し、それからは埼玉県のK市で母と2人で暮らしていました。
私が中学2年生の頃、母に彼氏ができました。
母は久しぶりの恋愛だったためか、毎日すごく楽しそうにしていました。
私としては、今まで母と2人3脚でここまでやってきたので、母に彼氏ができた事は嬉しい反面、少し寂しくも感じました。
そんな私の感情とは反対に、母と彼氏の関係は順調で、遂に我が家で同棲することになったんです。
気が付くと、3人で暮らし始めてから3年程が経過していました。
その朝のことでした。
母と彼氏が喧嘩をしていたのです。
「いつものことか…」
と思っていた私は、特に気に留めることもありませんでした。
ですが、翌日になっても母と彼氏の喧嘩は収まっていませんでした。翌日まで喧嘩が長引いているのは初めての事です。
「仲直りしないの?」
私が母にそう聞くと、
「今回は仲直りしたくない」
の一点張り。
それに、何を聞いても喧嘩の理由は教えてくれませんでした。
「どうしよう…」
なんだかいつもと違う雰囲気に、子供ながらに不安を感じていました。
喧嘩が始まってから5日程が経っても、まだ母と彼氏は仲直りしていませんでした。
そして6日目の朝のこと、
「早く荷物をまとめて!」
母がいきなり怖い顔で私に言ってきたのです。
母の言っていることが理解できずアタフタしていると、そんな私をよそに、母が私の荷物をまとめだしました。何が何だか分からない私は、荷物をまとめている母をただただ見ていました。
私の荷物をまとめ終わると、母は私の腕を掴んで車に乗せ、そのまま車を発進させました。
車を走らせ始めて数分が経った時、
「ごめんね。ママ、あの人と別れる…」
母がそう言ったのです。
話を聞くと、どうやら別れる原因となった切欠は、私が毎日のように遊び歩いていることを彼氏が母に指摘したことなのだのそうです。
ウチには厳しい門限がなく、21時頃までに帰っていれば、母は私に対し特に何か言うこともありませんでした。
母がそう彼氏に説明しても、
「お前の育て方が悪い!」
と、彼氏は一方的に母をなじってきたのだそうです。
母はそれに耐えきれず喧嘩となり、家を飛び出したのでした。
でも、正直私は、また母と2人で暮らせることが嬉しくてたまりませんでした。
母と2人で暮らし始めてから半年程、穏やかな日々が過ぎていきました。
ですが、毎月恒例のお墓参りに行った時のことです。
祖母のお墓の前に、封筒に入った手紙が置いてありました。
恐る恐る封筒の中を見てみると、
『あんな良い男を手放したら後悔するよ?今すぐよりを戻しなさい。』
そんのことが書いてあったのです。
「なに…これ?」
と私が聞くと
「知らない。もしかして…アイツじゃない…?」
と、気味悪そうに母は言いました。
そしてその翌月、また祖母のお墓の前には封筒に入った手紙が置いてあったのです。
『もうよりを戻した頃ですか?あなたにはあの人しか居ません。』
中にはそう書いてありました。
更にその翌月のお墓参りでも、
『娘はそろそろ高校を卒業するし、あの人と2人でまた暮らしても良いんじゃないですか?』
という内容の手紙が置いてありました。
結論から言うと、この手紙の犯人はやっぱり母の元カレでした。
あたかも私の祖母からの手紙を装い、あの世からのありがたいメッセージかのように母に届け、母とよりを戻すことを企んでいたんだと思います。
とても幼稚な考えです。
もちろん初めから母は元カレの仕業だと気が付いていたので、何度手紙を手にしようが特に何があるわけでもなく、毎回破り捨てるだけでしたが…
その翌月のことです。
今度は我が家のポストに無記名の封筒が入っていたんです。
母と一緒に恐る恐る封筒を開けてみると、
『おばあちゃんです。せっかく手紙を書いたのにお返事をくれないのですか?寂しいです。あの人に連絡はしていますか?あなたには本当にあの人しか居ないの。あの人を失ったらもう終わりよ?』
という内容でした。
しつこく祖母からのメッセージを装う手紙にも狂気を感じますが、何より怖いのは、この幼稚な手を使う母の元カレが、新しい我が家を知っているということです。
母と私が引っ越した先は、前に3人で住んでいた家と同じ市内ではあったものの、そこから車で30分程もかかる場所のアパート。決して近くはないんです。そのアパートの部屋番号までもがバレている気味の悪さ。
そして無記名の封筒ということは、郵便物で届けられたのではなく、元カレが自分でこの家に来て投函したということになります。
私と母は恐怖しました。
祖母のふりをして手紙を書き、毎月祖母のお墓にそれを置き、今度は我が家の場所を調べ上げ、直接ポストに手紙を投函している。
その母の元カレって、60歳なんです。
普通に考えれば、分別盛りの大人の年齢です。
それなのに、こんな幼稚なことをして母の気を引こうとしている60歳の男性。
それは私たちにとってもはや恐怖以外のなにものでもありませんでした。
きっと男の行為はさらにエスカレートしていく、このままこのアパートに住み続けたら何をされるか分からない。
そう予感した母と私は、すぐに引っ越しを決意しました。
母に対する異常な執着。
これって本当に愛情なんでしょうか?
私たちは恐怖しか感じませんでした。
隣町に引っ越してからは自宅ポストにも祖母のお墓にも手紙は置かれなくなりました。
ですが、私たちは引っ越してからもしばらくは、もしかしたら誰かに見られていないかと、オドオド生活していたことを今でも思い出します。
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