体験場所:東京都N区

以前、東京N区の同じ職場で働いていた女性の話です。
その女性は出身地方が主催するミスコンを中心に、いくつものミスコンタイトルを持っていました。
当然ながらスタイルが良く、美人で、ハキハキとした、第一印象から魅力的な方でした。
ある時など、お昼休みにランチに出た先の人混みの中で見かけた時は、周囲がかすむくらい彼女が目立つので驚いたことがあります。似たような年齢、似たような服装のOLたちがひしめくビルの谷間で、大げさではなく、本当にまるでそこにだけ光が射したように彼女の姿がはっきり見えるのです。
それくらい圧倒的な美しさを持った女性でした。
仮に名前をMさんとしておきましょう。
Mさんは上京して一人暮らしをしていました。
当時勤めていた会社は時間的に不規則で、しばしば帰りが遅くなることもありました。
終電が終わった場合はタクシーで帰宅することもあったのですが、そんな時はもうヘトヘトで、夕食を作る気力なんて出るわけがありません。
そんな夜はMさんは自宅マンションからほど近いコンビニエンスストアの前でタクシーを降りて、お弁当やおかずを買い、徒歩で1~2分、ほんの目と鼻の先にあるマンションへと帰るのでした。
わずかな距離とはいえ、深夜にそんな美人が一人歩きすることを誰もが心配しましたが、背が高く運動経験も豊かだったことが気を緩ませるのか、Mさん本人はあまり気にしていないようでした。
おおらかな土地柄の地方出身だったことも関係しているのかもしれません。
結局Mさんは周りの心配を他所に、深夜でも構わずいつも同じコンビニエンスストアに寄って、いつも同じルートで家に帰っていたそうです。
ただ、仕事がら時間は不規則で、コンビニエンスストアに立ち寄るタイミングは日によって3~4時間は前後するのが常でした。
ある夜、Mさんがコンビニエンスストアを出ると、
「あの、すみません…」
見知らぬ男にそう声を掛けられ、道を聞かれたのだそうです。
もちろん社交的なMさんは親切に笑顔で対応しました。
ところが、その翌日も、
「あの、すみません…」
と、昨日と同じ男が道を聞いてきたのです。
Mさんは(あれ?)と思ったものの、かといって大して気に留ることもなく、昨晩と同じように笑顔で対応したそうです。
ですがそれからというもの、その翌日、さらに翌日も、それから毎晩Mさんは同じ男に道を聞かれるようになったそうなのです。
そんなことが半月ほど続いた頃、流石に寛容なMさんもおかしいと気が付いたのでしょう。職場で私たちにそのことを話してきたのです。
しかし、それでもMさん本人にとっては、少し不思議だなと思う程度の事のようで、ごくごく軽い世間話のように、笑いながらそんな気味の悪い話をしていたのが印象的でした。
そんなMさんの様子とは対照的に、話を聞いた私たちの方が驚いて、痴漢やストーカーかもしれないから直ぐに警察に相談することを勧めたんです。
その夜も仕事がなかなか片付かず、Mさんの帰宅が遅くなりそうでしたので、話を聞いていた周囲が気を使い、Mさんは早めに帰されました。
いつもより早い時間だったので、Mさんは電車で帰路につき、駅からの道を歩いていつものコンビニエンスストアへと向かいました。
そして買い物を済ませて店を出ると、
「あの、すみません…」
やっぱりまた同じ男が道を聞いてきたのです。
周囲の注意もあり、さすがに警戒していたMさんは、よくよく相手を見てみました。
すると、毎日同じ道を聞いてくる男性は、同じ男であるだけでなく、服装も毎日同じであることに気が付きました。
その日も男はいつもと同じ駅までの道を聞いて、いつもと同じように会釈をして駅へと向かって行きます。
ただMさんはその日、たった一つ違うことに気が付きました。
時間です。
一昨日とは4時間以上、昨日とだって3時間は帰宅時間が異なっています。
考えてみると、これまでもなんなら6時間以上帰宅時間がずれていたこともあった・・・
それなのに、いつも私がコンビニエンスストアに立ち寄る度にこの男性は声を掛けて来る…
つまりこの男は私に道を聞くために、毎日何時間もここで待っているのかもしれない・・・
しかもこんな夜遅くに・・・
そのことに気が付いたMさんは流石に怖くなり、コンビニエンスストアに戻って店員さんに助けを求めました。
すると、実は店員さんも、毎日何時間も店を出たり入ったりを繰り返している男がいて、不審に思っていたと言うのです。
流石にこれはMさんに対するストーカー行為だろうと思った店員さんが、コンビニエンスストアの店長さんへ相談。店長さんの計らいで、その晩は店長さんの奥さんが自宅まで付き添ってくれることになりました。
それから数日の内にMさんはお付き合いしている男性の家へ引っ越し、ついでにそのまま結婚してしまったのでした。
その後、男の姿を見かけることはない、とMさんは言います。
もしかしたら、最初は本当に道を聞いただけだったのかもしれない。
でも、美しいMさんがハキハキと笑顔で親切に対応してくれたことが嬉しくて、毎日話しかけるようになり、結果的にストーカーになってしまったのではないか・・・
後になってMさんは、旦那さんからそのように指摘されたそうです。
以後Mさんは強い防犯意識を持つようになったようです。
実際のところ、その男の目的が何だったのか、今も分からないままです。
ですが、仮にその男がやっぱりストーカーだったとして、Mさんに声を掛けるためだけに、毎晩、毎晩、何時間もコンビニエンスストアをうろついていたのかと思うと、そういう執念って、少しぞっとします。
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