体験場所:和歌山県白浜町 三段壁
私が今の夫の前に付き合っていた元彼と、和歌山県白浜町の三段壁で体験した話です。
彼とは同じ会社に勤めていたのですが、その年、一緒に夏休みが取れなかったので海外旅行に行けず、それならお互いに有給を使って一緒に旅行に行こうという約束をしていました。
ですが、当時私たちが勤めていた会社ではリコールやクレームが多発しており、さらに同時期に同じ部署の女の子が結婚退職すると言うことで仕事が立て込んでしまい、やっとお互いに共通の休みが取れたのは、結局10月末といった海のシーズンも全く関係ないという時期でした。
平日に有休を入れまくり1週間まるまる休みをもらえることになったのですが、彼のパスポートが失効していたため海外は不可。
それならむしろ『近場で楽しもう!』と、リーズナブルな旅行計画を立てました。
宿もキャンプや民宿、もしくはラブホテルに泊まって予算を抑え、近場の奈良県、三重県、和歌山県を楽しもうと言うことでプランが落ち着きました。
奈良県で1泊、三重県で3泊、和歌山で2泊という事だけを決めた雑なプランでしたが、予想以上に楽しく、道中、概ね盛り上がって旅が出来たのですが…
当時の私たちは心霊番組や呪いのビデオを見て「うわー怖いね、機会があれば行ってみようね(笑)」と言った、若いカップルにありがちなバカさ加減だったので、この長期休みは格好の心霊スポット巡りの機会でもありました。
しかし、怖いものには興味はあるけれども、本格的な大阪の有名心霊スポットの仕置き場などは怖すぎて足が向かず、観光地にもなっているようなソフトな心霊スポットへ向かおうという事で旅を始めました。
ですが、奈良県や三重県のトンネル、廃屋、ダムなどの心霊スポットにも寄りましたが、雰囲気があるだけで特に何も起こることはなく、心霊スポットには満足できないまま、ご当地の名物を楽しんだり観光を満喫していました。
旅も終盤に差し掛かった頃、和歌山の有名な観光地であり、心霊スポットでもある白浜の三段壁に向かいました。

到着したのは夕方の4時を少しすぎたあたりでしたが、平日という事もあり、周囲にはシニアの観光客がチラホラいる程度で、私たちはゆっくりと絶景を満喫していました。
その日も適当にラブホテルを探して宿泊すると言うプランだったので、時間には余裕があり、二人でゆっくりと三段壁の長い道を散歩したりして楽しんでいました。
すると、そろそろ薄暗くなってきたし車に戻ろうかと言う時に、日本酒のカップ酒を持った一人の老人(おじいさん)が話しかけてきました。

「おねえちゃんら旅行か?」
と尋ねられたので、
「そうです。きれいなとこですね。」
と、少しだけのつもりで世間話を始めました。
すると、
「ここはな、知ってるかと思うけど、自殺の名所やねんで。きれいなところやけどな、ぎょうさん死んだはるんや。」
そんなことを言うおじいさんに、私たちは、
「そうですか…」
と言葉を濁すしかありませんでした。
するとおじいさんは、
「おっちゃんな、ここに死ににきたねん。おっちゃんガンやねん。しんどいねんもう」
と、更にボソボソ続けて言い出しました。
私たちは返答に困り、
「おじさんが死んで悲しい人もいますよ。死なないでくださいよ」
と綺麗事を言うしかなかったのですが、おじいさんは続けて、
「おらんおらん、嘘や、今のは冗談や。忘れて!ほなな!」
と、独りごちたまま、我々が何を言う間もなく歩き去って行きました。
「後味悪いな…」
私たちはそう思いながら歩き去ろうとすると、
「何やお前ら死なんのかい。背中押したろおもたのに。」

と、背後からおじいさんの大声が聞こえてきたのが、本当に怖かった旅の思い出です。
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