【心霊スポット】福岡県|河内貯水池の怖い話「湖面の頭」実話怪談・短編

【心霊スポット】福岡県|河内貯水池の怖い話「湖面の頭」実話怪談・短編
投稿者:もか さん(30歳/男性/ライター)
心霊スポット:福岡県北九州市 河内貯水池

僕がその日、河内貯水池に行ったのは、ただの好奇心からだった。

地元では昔から「夜の河内貯水池には近づくな」と言われている。理由は曖昧で、誰もはっきりとは説明しない。ただ、「沈んだ村の祟り」とか「溺れた女の幽霊が出る」とか、そんな噂が囁かれていた。

その夜、僕は友人の大輔(仮名)と一緒にドライブをしていた。
夏の終わりの湿った風が、車の窓から吹きこんで来る。虫の声が絶え間なく響く夜だった。

コンビニで買った缶コーヒーを片手に、退屈しのぎに大輔が言った。

「なあ、河内貯水池行ってみるか?」

僕は一瞬ためらった。だが興味が勝った。「いいね」と軽く答えると、僕は河内貯水池へ向けてハンドルを切った。

貯水池が近づくにつれ、街灯は減っていった。舗装も荒れ始め、さっきまでずっと向こうに見えていた暗い森が道のすぐ脇まで迫っていた。その木々に押し出されるように進んだ先に、月明かりを受けてぼんやり銀色に光る湖面が姿を見せた。

路肩に車を停め、二人で降りる。
湿気を含んだ夜風は冷たく、肌にまとわりつく。

「静かだな」と大輔が言った。

その時だった。

遠くの水面に、ぽちゃん、と小さな音がした。
魚かと思ったが、すぐにまた、ぽちゃん、と音がする。

ぽちゃん、ぽちゃん、ぽちゃん・・・

音は何度も繰り返され、だんだんこちらに近付いて来るのが分かった。

すぐに車に備え付けていたライトを取り出し湖面に向けた。
ライトの光に驚いたのか、音は一度止まった。

ふたたび静寂が戻る。

ライトが照らす先の湖面で、何かが水に浮かんでいるのが見える。
丸いもの。頭のような形をしていた。

「……人か?」

冗談のつもりで言ったが、ぜんぜん笑えないような気もした。

次の瞬間、その“頭”がゆっくりと半分だけ沈んだ。
まるで水面から目だけ出して、こちらの様子を窺っているように見える。

「やばい、行こう!」

大輔がそう叫ぶと同時に僕は運転席に飛び乗りキーを回した。
でもエンジンがかからない。スターターが空回りするだけで何度回しても上手くいかない。お約束が過ぎると思った。

「なにしてんだ!早く!早く!」

大輔が助手席から煽ってくる。
僕は焦ってキーを抜き差しして何度も回した。

すると、窓を叩く音がした。

助手席の窓。
コン、コン、コン、コン・・・
一定のリズムで何回も。

体中からじんわり汗が噴き出てきた。
とてもじゃないが僕には窓を振り返ることは出来ない。
一心不乱にキーだけを回し続けていると、

「うあ、ああ、ああ゛あ゛あ゛――――」

大輔の悲鳴が聞こえ、僕は思わず振り向いた。

細くて、異様に長い指が、窓ガラスを撫でていた。

僕は必死にキーを回し続けた。
三度目でようやくエンジンがかかり、車を急発進させた。

その時、バックミラー越しに一瞬だけ見えた。
湖のほとりに、髪の長い女が立っているのを。
白い服を着て、首をかしげながらこちらを見ていた。

翌日、どうしても気になって僕は貯水池のことを調べた。

それで、定かではないのだが、かつてあの場所には小さな集落があり、貯水池建設のために立ち退きが行われたという。しかし、一人だけ移住を拒んだ女性がいた。「先祖の墓は動かせない」と言って最後まで集落に残り、水が溜まる直前に行方不明になった。

それ以来、夜の湖面に女が立つという噂が絶えないらしい…

それが事実かどうかは分からない。
ただ、あの夜見た光景が夢や幻だったとは到底思えない。大輔も一緒に体験したことだ。

あれ以来、大輔は車のエンジン音を聞くと動悸がするようになった。
僕も夜の水辺に近付けなくなった。

まるで嘘のような体験だが、今でも鮮明に思い出せるし、その度に背中が凍り付く。二度と体験したくない。

僕はもう、絶対に心霊スポットには近付かないことを決意して終わる。

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