心霊スポット:福岡県福岡市『福岡拘置所』
これは友人のYのところへ面会に行った時の話です。
10年ほど前のある日、高校の時から親しくしていた友人Yが、人身事故を起こし逮捕されたと聞きました。
昔からとても生真面目で誠実な性格のYは、決して危険な運転をするようなタイプではありませんでした。
ましてや普段から私たち友人の運転に対しても、「運転する時はちゃんと前を見て。よそ見だけは絶対にしないで、スピードも出しすぎるなよ」とたしなめていたくらいです。
そんな気質のYだったので、「もしかしたら何か別に事故の原因があるのでは?」と気になった私は、高校の時から付き合いのあった仲間たちと一緒に、Yから話を聞くため面会に行くことにしました。
しかし仕事や家の用事などで中々みんなの都合が合わず、ようやく面会に行けた時には既にYが逮捕されてから2カ月が過ぎていました。
その日、私たちはようやく福岡拘置所を訪ねました。
まず私たちはそれぞれの身分証を呈示して面会の受付を済ませ、面会室へと通されました。
しばらくして私たちの前に現れたYは、最後に会った3カ月前の時とは全くの別人に見えました。
体は痩せ細り、頬はこけ、顔色も悪かったです。
「大丈夫か?ちゃんと食べているのか?一体何があったんだ?」
変わり果てたYの姿に驚いた私たちは、一斉に質問ばかりしていました。
するとYは、
「大丈夫だよ…。すまんな…。こんな俺のためにみんな来てくれて…。」
と涙ながらに礼を述べています。
相変わらずいい奴だなと思いながらも、その様子が尋常ではない事はYのその姿を見るだけで一目瞭然です。
「何があったのか話してみろよ。何か悩みでもあったのか?」
するとYは恐る恐る口を開いて語り始めました。
「あの日、俺は家に帰ろうと、この福岡拘置所の前を通ったんだ…。そしたら思い切りスピードを出して突っ込んできた車がいて…。それで避けようと急ハンドルを切った先に、小さな子どもがいたんだ…」
「子どもは…大丈夫だったんだよな?」
と聞くと、
「うん…。幸い、軽傷で済んだと聞いた…。」
その返事に私たちは胸をなで下ろし、話の続きを促すと、
「その猛スピードの車、この福岡拘置所から飛び出してきたんだよ…」
と、青い顔を更に白くしてYが言うのです。
「いや…でも拘置所を出る車がそんなスピードで飛び出したりするか?」
「俺もそう思うよ…。だから油断してたんだと思う…」
Yはそう答えるのですが、その後の話が奇妙なんです…
「でも、俺が警察にそのことを話したら、監視カメラにはそんな車は映ってなくて、映像では俺が勝手に暴走して子どもに突っ込んでいたんだ…。」
正直、何を言っているのか分かりませんでした。
にも関わらず、Yは話を続けます。
「それに、その車が飛び出してきた場所っていうのが、本来車が通れるはずがないんだ…。」
もっと意味が分かりませんでした…。
Yの話を理解するには時間が掛かりました。ようやく無理矢理にでも咀嚼した頃には、面会時間が終わっていました。
最後にYは「お前たちは、連れて帰るなよ…。俺だけでいいんだからな…。」と、また理解のできないことを言っていたのですが、私たちはもはや聞き返すことも出来ませんでした。
その帰り際、受付の前を通った時でした。
「ちょっとあなたたち!面会は身分証を見せてからにして下さいよ!」
と、受付の方に呼び止められ、
「え?私たちはみんな来た時に身分証を見せましたけど…?」
そう答えると、受付の方の顔がサッと青ざめて、
「あ、あ…すみませんでした。は、早く帰られた方がいいですよ。」
と、急に煽るように帰宅を促され、私たちは首を傾げながら外へと出ました。
駅を目指して歩き始めてすぐ、車が猛スピードで飛び出してきたとYが言う場所がありました。
Yが言う通り、そこには慰霊碑らしきものがありました。
これでは確かに車が出られるはずがないと、私たちは皆黙り込んでしまいました。
面会に行った日から1カ月ほどして、Yは拘置所で亡くなりました…。
原因不明でした…。
後になって別の知り合いから、Yが言う車が飛び出してきた場所というのが、拘置所で亡くなった方を供養するところなのだと聞きました。
Yもそこに連れて行かれてしまったのでしょうか?
だとしたら、なぜYなのか。
今も釈然としないままです。
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