【怖い話|実話】短編「10階です」心霊怪談(長野県)

【怖い話|実話】短編「10階です」心霊怪談(長野県)
投稿者:Yuri さん(26歳/女性/主婦)
体験場所:長野県長野市〇〇団地

これは私(ゆきな(仮))が20歳の夏に体験した話です。

母子家庭だった私の家は、当時、長野の県営団地の10階に住んでいました。

私が使っていた部屋には、建物の通路に面した窓があったのですが…

ある夏の暑い夜のことでした。

私の部屋にはエアコンがなく、扇風機が1台あるだけだったのですが、その夜は余りに暑苦しくて、私は通路に面した窓を開けたまま、当時付き合っていた彼と遅くまで電話をしていました。

深夜1時を過ぎた頃でした。

『チンッ10階です』

窓の外からエレベーターが止まる音が聞こえてきました。

(ああ、お母さんが帰ったんだな)

その頃、母はスナックに働きに出ていて、帰宅するのはいつもだいたい深夜の1時を回る頃でした。

母の帰宅を他所に、私はそのまま彼との電話を続けていました。

それから30分ほど経った頃です。

『チンッ10階です』

再びエレベーターが止まる音が聞こえました。

(あれ?こんな時間に、誰だろう?)

と思いながらも、特にそれ以上気にすることもなく、時間も時間になってきたので彼との電話を終え、ベットに入って眠ろうとした時でした。

『ッパンッッッ』

まるで拳銃のような何かが破裂する音が外から聞こえ、ハッと私は飛び起きました。

何だか気味が悪くなり、そのまましばらく様子を窺うようにして起きていると、数十分後、

『チンッ10階です』

また10階でエレベーターが止まる音が聞こえたかと思うと、

『ピンポン♪』

今度は家のチャイムが鳴ったんです。

ドキッとして(こんな時間に誰が…)と思いながら自室を出ると、廊下には怪訝な顔で玄関扉を見つめる母がいました。

母も起きていたのかと少しだけホッとしたものの、それでも女二人、深夜の来訪者にビクビクしながら私たちは恐る恐る玄関扉を開けたんです。

外には、複数人の警察官がいました。

「つい先ほど、数十分くらい前のことで、この10階から女性の飛び降りがあったのですが、何かお気付きのことはありませんでしたか?」

警察官にそう聞かれ、私も母もひどく驚きました。

おそらく、さっき聞こえた拳銃のような破裂音、あれが、人が飛び降り地面に激突した音だったのでしょう。
そのことに気付いた瞬間、私も母も震えが止まらなくなりました。

しばらく警察官と話した後、部屋に戻っても『あの音』が耳から離れず、結局その日は寝付くことが出来ませんでした。
その事件以降、しばらくの間、私は夜に窓を開けることが出来ませんでした。

それから2週間が経過したある日の夜のことです。

その日もかなり寝苦しいような熱帯夜でした。
事件から2週間が経過して多少は恐怖も薄れていた私は、さすがにこの暑さは堪らないと、久しぶりに窓を開けて眠ることにしたのです。

その夜は、私にしては珍しく日を跨ぐ前にベットに入り、スマホで動画を見ながらウトウトしていました。

すると、深夜の12時半頃でした。

『チンッ10階です』

10階でエレベーターが止まる音が聞こえました。

(・・・え?誰?)

あの夜の『あの音』の記憶が甦り、耳の神経が妙に過敏になっていたと思います。

エレベーターから足音がコツコツと近付いて来るのが分かります。

すると、足音は我家の玄関前で立ち止まったかと思うと同時に、ドアノブをガチャガチャ回す音が聞こえてきたのです。

私はビックリして飛び起き、スマホを握りしめたまま窓からソッと顔を出し、玄関の方を覗きました。

そこには、珍しく早く帰宅した母が鍵を開けるのに手間取っている姿がありました。

(もう~脅かさないでよ~)

その後、安堵のせいか一気に睡魔に襲われ、ベットに横になると直ぐに寝てしまいました。

それからどのくらい経った頃でしょうか。
私は急に目が覚めました。
スマホで時間を確認すると、まだ深夜の1時40分でした。

(変な時間に起きちゃったなぁ~)

もう一度寝ようと窓側に背を向けるように寝返りを打った瞬間でした。

《ブワッ》と全身に鳥肌が立ち身体が動かなくなりました。

目は開き、声も出せるのですが、どうしても身体だけが動かないのです。

一体何が起きているのか分からず、とにかくどこでもいいから身体の一部を動かそうと必死に藻掻いていると、

『チンッ10階です』

エレベーターが止まる音が聞こました。

(えっ!?このタイミングで、誰…)

そう思った直後でした。

「ゆきなー・・・」

私を呼ぶ、か細く小さな声が聞こえました。

気のせいだと思いたかったのですが、声はすぐにまた聞こえ、それが徐々に大きくなるので、恐らくこちらに近付いてきていることが分かります。

「ゆきなぁ~」

「ゆきなぁあ~」

血の気が失せるような心地でしたが、私はあることに気が付きました。

私を呼ぶその声音が、母の声と全く同じものなのです。

ただ、普段私を呼ぶ時の声とは少し雰囲気が違い、とても優しく、少し甘えたような声でした。

なんだ、またお母さんが酔っぱらって帰ってきて私を呼んでいるのだろうと、ホッと胸を撫でおろし返事を返そうとした瞬間、私はふと思い出しました。

(あれ?…さっき、お母さん帰って来なかった?え?今、家にいる、よね…)

そう思った瞬間、窓のすぐ前で、

『ゆきなぁぁあぁあぁ!!!』

ものすごい大きな母の叫び声が上がり、私の身体に電気の流れるような衝撃が走りました。

私が覚えている記憶はここまでです…

目が覚めると、いつもと変わらない朝でした。

母に、夜中に私の名前を呼んだか確認してみると、「は?…呼んでないわよ」と言われました。

結局、あの夜、私を呼んでいた声は誰のものだったのか、何も分からないままです。

2週間前に飛び降りた女性が化けて出たのでしょうか?
それとも単に、飛び降りの記憶による私の中の恐怖心が見せた夢なのか?

どちらにせよ、私にとってはとても怖い体験だったことは事実です。

だって、それ以来、どんなに暑苦しくても、窓を開けることが出来なくなってしまったのですから。

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