体験場所:愛知県N市の和食店
これは、私が勤める和食店の『小宴会場』での出来事です。
愛知県N市にあるそのお店には、大小複数の宴会場があり、店の一番奥まった所には20名ほどを収容できる小宴会場があります。
その部屋は、目の前の廊下に暖房を入れているにも関わらず、扉を開けて中に入ると、いつもゾッとするほど冷たくて、他の部屋と比べ明らかな温度差があることを全従業員が感じていました。
ある日のこと。
若い人が亡くなられたお葬式の後の会食の席が、その小宴会場で設けられました。
私も接客係として就くことになったのですが、座の真ん中程に座っていた女性に食事や飲み物を提供しようとすると、なぜかその場所だけビール瓶が倒れたり、食事の器が傾いて中身がこぼれてしまう、などといった現象が繰り返し起きてしまうのです。
自分の不注意だと思った私は、その女性に何度も謝罪した後、その席の接客を他の従業員に代わってもらいました。
ですが、接客係が代わっても、やっぱり何故か同じように皿やビール瓶が動くなどの現象が起こり続けたんです。
いつまでも続くその怪現象に、とうとう私の代わりに就いていた接客係が「怖い…」と言い出してしまい、結局、私が再びその席の担当に戻りました。
そんな風に、私たち従業員があたふたと接客している時でした。
突然そこに座っていた女性が泣き出してしまったのです。
私は慌てて女性から話を伺うと、どうやら亡くなられた若い方というのは、その女性がお付き合いしていた相手だったようなのです。
そして、その彼は交通事故で亡くなったものの、まだ自分が死んだことを理解できず、私のそばで合図を出しているのだと女性は言うのです。
「彼が『俺はここにいる』と言って、ビールを倒したりしているので、決して接客さんのミスではありません」
と、その女性に言われました。
その後も、女性の前に色々とお給仕するのですが、やっぱりその席だけは器やビール瓶が動いたりを繰り返すので、私も流石に怖くなってしまって…
これはまた別の日の話です。
上述の出来事から数週間後のことです。
その日の営業時間も終わりが迫り、いつものように閉店準備をしていたんです。
すると、誰もいないはずの例の小宴会場から呼び出しの音が鳴りました。
(またあの部屋か…)
と、怖くなった私は店長を呼びに行きました。
店長と一緒に裏方に戻り、再び呼び出しテーブルが表示されているボードを確認すると、本来、呼び出し席の番号しか表示されないはずのボードに『HELP』という文字が点滅していたんです。
「そんなはずはない!」
正直血の気が引いていたのですが、とにかく店長と共に例の小宴会場に向かい、勇気をふり絞り部屋の扉を開けました。
やはりあの、嫌になるほどの冷気を感じました。
ですが、部屋には誰もいないし、テーブルのベルも正常でした。
でも、私には、部屋の一番奥に白い影がくっきりと見えてしまったんです。
「店長!誰かいる!」
咄嗟にそう叫びましたが、店長には何も見えないようで、「気のせいだ」と言われた後、
「もしかして、ベルの故障かなにかの時に『HELP』とボードに表示されるんじゃないか?明日業者に聞いてみるよ」
と、店長に軽くあしらわれてしまいました。
翌日、業者の人が来て調べていましたが、やはりボードは席番号を表示するだけで、文字を表示することは無いとのこと。
ですが、私たちはハッキリと『HELP』という文字を見たと伝えると、
「何かの見間違いでしょう。」
と苦笑されるだけでした。
その後も、他の接客係たちから、
『部屋に白装束の人が入っていった』
『ひとりで片付けに入ると寒気がする』
『影膳を備えた写真の位置が動いてる』
等と、あの小宴会場での怪現象の報告が絶えず、今ではみんな怖がって担当するのを避けたがっています。
店の立地は、桶狭間の戦いの合戦場跡地にほど近く、地元の方の話では「以前そこは墓地だった」とか、「昔からその辺は湿地帯だった」等と聞き、絶対に土地の因果が何か関係してると思えてしょうがありません。
とにかく、他の宴会場のスペースでは決して起こらないことが、店の一番奥の小宴会場でだけ起きるので、今では従業員は皆、部屋に誰もいなかったとしても、扉を開ける時には「失礼します」と声をかけたり、二人以上で部屋に入るようにし、気休めとは言え少しでも精神衛生上の対策をとるようにしています。
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