【怖い話|実話】短編「黒い人」心霊怪談(熊本県)

【怖い話】心霊実話|短編「黒い人」熊本県の恐怖怪談
投稿者:珠弓 さん(25歳/女性/会社員)
体験場所:熊本県熊本市

これは私が実際に体験した話です。

私がまだ幼稚園児だった頃のことです。

当時は熊本市にあるすごく古いアパートに、両親と弟と私の家族四人で住んでいました。普通に歩くだけでも床がきしむほど建物は傷んでいて、虫もたくさん出るような、そんなアパートでした。

間取りは確か2LDKだったと思います。
玄関から入ってすぐ、まっすぐ廊下があり、廊下の右手に台所、左手には寝室とトイレとお風呂。廊下の先にはリビングがあって、リビングの隣にもう一部屋ありました。台所に向かって右手には短い通路があり、その先は勝手口になっていたと思います。

ある朝のことでした。
家族の中で一番最初に目が覚めた私は、リビングに行って毎日見ていた子供番組を見ていました。

廊下を背にしたリビングの壁、そのちょうど真ん中あたりにテレビがあり、私は廊下を背にする形でテレビを見ていました。

テレビを見終わって、私はまだ寝室で寝ている父と母を起こしに行こうと思い、くるりと廊下のほうを振り向いた時でした。

真っ黒な人影が、ゆっくりと廊下を横切って行くのが見えました。
寝室から、台所の奥の勝手口の方へ向かうように。

本当に真っ黒で、目や服なんかは認識できませんでした。
ですが、なぜか男の人というのは分かりました。

怖いと思わなかったのか、私はなぜか追いかけてみようと思い、台所の奥に向かって走り出しました。

ですが向かった先に人影はありませんでした。
勝手口を使った気配もなかったのに。

とりあえず父と母に知らせなきゃと、両親を強引に起こして今見たものを伝えました。

すると、父と母はなぜか「それはお父さんだよ」としか言いません。

絶対に違う。今目の前にいる父とあれは、完全に別の人でした。それに人影は勝手口に向かったのに、父は今寝室にいるじゃないか。そうは思ったのですが、証拠があるわけでもなし、なにより目の前の父本人が「お父さんだよ」と言っているので、私は無理に納得するしかありませんでした。

もう一度見て確認したいと思っていたのですが、それ以来、黒い人影を目にすることはありませんでした。

それから時が経ち、私は高校生になっていて、昔見た黒い人影のことなどすっかり忘れていた時のこと。
ある日、親戚から連絡があり、父方の祖父が孤独死していると知らされました。

私にとっての祖父、父にとっての父です。
当然、私たち家族も葬儀に参列しました。

季節は真夏でした。
祖父の遺体は相当腐敗が進んでいたらしく、息子である父でさえ亡くなった祖父の姿を見ることは出来ませんでした。

火葬して荼毘に付し、祖父のお骨を拾い上げている時のことです。

祖父の喉仏の骨を拾った途端、急に何かゾワッとしたのを覚えています。
突然背筋に悪寒が走り、箸でつまんでいた喉仏の骨を落としてしまったのです。

落としてしまった骨をもう一度拾おうと、体をかがませた瞬間でした。

正面の視界の端に、幼稚園児の時に見た真っ黒な人影が立っているのが見えました。

前は横向きでしか見えなかったのですが、今回は真正面で見ることが出来ました。もしくは後ろ向きだったのかもしれません。前後の判断がつきにくかったように思います。

それはそこから動くこともなく、祖父の遺骨をジッと見つめているようでした。
それならやはり正面なのだろうと思うと同時に、私は何だか得体の知れない恐怖を感じ、誰か他の目撃者を求め、以前から霊感があると言っていた弟に耳打ちしました。

「ねぇ。ずっと前に話した黒い人影がそこにいるんだけど…」

すると、弟は目を少ーし細めたかと思うと、直ぐに「見えんよ」と返してきました。

もしかして私以外の誰にも見えないのかと不安に思っていると、突然横にいた父と母が、

「ほら、お父さんでしょ…」
「お父さんって言ってたじゃん…」

と、小声で言いました。

一体何を言っているのかと、父と母の方を振り向いて、私はゾッとしました。

父と母は黒い人影を指差しながら、

「ほら、お父さんでしょ…」
「お父さんって言ってたじゃん…」
「やっぱりお父さんだ…」
「ね、お父さんでしょ…」

と、何度も同じことを呟くようにブツブツと言っているんです。

そこでハッと思い出したんです。
小さい頃、私が見た黒い人影のことを、父と母が頑なに「お父さんだよ」と言っていたことを。

もしかして、あの時の父と母が言っていた「お父さん」って、祖父のことだったのでしょうか…?

結局、祖父の遺骨を見ていた黒い人影は、しばらくすると、すうっといなくなってしまいました。

あれから今に至るまで、あの黒い人影を見ていません。

祖父の葬儀の日、「お父さんじゃん」「お父さんだよ」と何度も何度も口にしていたことを、父も母も全く覚えていないと言っています。

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