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【怖い話|実話】短編「背の高い男」心霊怪談(青森県)

【怖い話|実話】短編「背の高い男」心霊怪談(青森県)
投稿者:りんご大好き さん(30代/女性/会社員)
体験場所:青森県 母方の実家

これは、私が六歳の頃に体験した話です。

当時、私たち家族は青森県にある母方の祖父母の家で暮らしていました。

もともと私たちは東京に住んでいたのですが、祖父が定年退職後に脳梗塞を患い、介護が必要になったため、母の実家へ移り住むことになったのです。

祖父には、歩行障害と言語障害がありました。

私がまだ幼かったこともあり、祖父と一緒に遊んだ記憶はほとんどありません。

私の記憶に残っている祖父は、いつもリビングに置かれたベッドの上にいました。

私が床におもちゃを広げて遊んでいると、祖父はベッドから、ただ静かにこちらを見ていました。

言葉を交わした記憶はありません。

それでも、祖父が私を見つめる目は、いつも優しかった。

幼い私にも、それだけは分かりました。

母は懸命に祖父の介護を続けていました。

しかし、その甲斐もなく、祖父は亡くなりました。

それから数日が過ぎた頃のことです。

葬儀なども終わり、家の中が少しずつ普段の生活に戻り始めていました。

当時は平成の初め頃。

場所も青森の田舎だったため、今とは生活の感覚もずいぶん違っていました。

母が祖母を病院へ連れて行く間、私と、三歳年上の姉だけで留守番をすることが時々ありました。

その日も、そうでした。

母と祖母が出かけ、家には私と姉しかいませんでした。

姉は二階の子ども部屋にいました。

私も一緒に二階にいたと思います。

特に何をするでもなく過ごしていると、

突然――

「ピンポーン」

玄関のチャイムが鳴りました。

私は少し驚きました。

今ならチャイムが鳴ること自体、何も珍しくありません。

けれど当時、あの辺りでは、近所の人が訪ねてきてもチャイムを鳴らすことは、ほとんどありませんでした。

玄関先まで来て、

「ごめんください」

と声をかける人が多かったのです。

だから、チャイムの音を聞いた私は、

「誰だろう?」

と思いました。

宅配便かもしれない。

あるいは、知らない人が訪ねてきたのかもしれない。

ただ、母からは何度も言われていました。

「大人がいない時は、絶対に玄関を開けちゃだめ」

だから、扉を開けるつもりはありませんでした。

それでも、誰が来たのか気になりました。

私は一人で階段を下りていきました。

東北地方にお住まいの方ならご存じかもしれませんが、青森では雪や寒さ対策のため、玄関扉が二重になっている家が多くあります。

祖父母の家の玄関も同様でした。外扉があり、内扉があります。

内扉にはにはモザイク状のガラス扉が使われていました。

内扉の前まで入っていれば、人影くらいは分かります。

ただし、顔や服装までは、はっきり見えません。

私は階段の途中から、玄関の方をのぞき込みました。

すると――いました。

内扉の向こうに、人が立っていました。

背の高い人でした。

モザイクガラス越しなので、顔は見えません。

服装も分かりません。

ただ、大人の男の人のように見えました。

私はその人影をじっと見ていました。

向こうからも、私の姿が見えていたかもしれません。

少なくとも、家の中に誰かいることくらいは分かったはずです。

ところが、その人は何も言いませんでした。

「すみません」とも、「宅配便です」とも言わない。

もう一度チャイムを鳴らすこともない。

ただ、扉の向こうに立っている。

じっと、立っているだけでした。

子どもながらに、だんだん怖くなってきました。

私は慌てて二階へ戻りました。

「お姉ちゃん、誰かいる」

そう言って、姉を呼びました。

姉は最初、面倒くさそうにしていましたが、私があまりに怖がるので、一緒に見に行ってくれることになりました。

二人で階段を下りました。

私は姉の後ろについて、さっきと同じ場所から玄関を見ました。

でも――

もう、誰もいませんでした。

「いないじゃん」

姉はそう言いました。

私は、帰ったんだと思いました。

でも、すぐに変だと気づきました。

祖父母の家の玄関は、外扉が特に古く、かなり重たいものでした。

しかも錆びついていたため、開け閉めすると、

ギィィ……

ガタン。

という大きな音がしました。

二階にいても分かるくらいの音です。

まして、私たちは玄関のすぐ近くにいました。

なのに――

何も聞こえなかった。

扉が開く音も、閉まる音も。

足音さえ、聞こえませんでした。

考えてみれば、入って来た時もそうでした。

私が玄関を覗いた時には、既にそこに人影がありました。

ただ、さっきまでそこにいたはずのその人影だけ、音もなく消えていたのです。

しばらくして、母と祖母が帰ってきました。

私はすぐに、さっきの出来事を母に話しました。

知らない人が来たこと。

チャイムを鳴らしたこと。

私が玄関まで見に行ったこと。

母は最初、

「大人がいない時に玄関へ行ったら危ないでしょう」

と、私を叱りました。

私は、

「でも、開けてないよ」

と言いながら、見た人のことを説明しました。

「男の人だったと思う」

そう言うと、母が聞きました。

「どんな人だったの?」

「分かんない。ガラスで見えなかったから」

「大きい人?小さい人?」

私は少し考えてから答えました。

「大きい人」

すると、母の表情が少し変わりました。

「どのくらい?」

私は母を玄関まで連れて行きました。

そして、さっき人影が見えていたモザイクガラスを指さしました。

「このくらい」

私は、人影の頭があった辺りを示しました。

それを見た母は、しばらく何も言いませんでした。

怒っていた表情が、少しずつ変わっていきました。

そして、ほんの少し嬉しそうな顔をして、こう言いました。

「……おじいちゃんだったのかもね」

私は驚きました。

「おじいちゃん?」

私の知っている祖父は、ずっとベッドの上にいた人です。

自分の足で立っている祖父など、想像したこともありませんでした。

すると母は教えてくれました。

その時、私は初めて知りました。

病気になる前の祖父は、随分と背の高い人だったそうです。

私が見た人影の高さは、生前の祖父の背丈と、よく似ていたそうです。

もちろん、本当に祖父だったのかどうかは分かりません。

知らない誰かが訪ねてきて、私たちが気づかないうちに帰っただけなのかもしれません。

幼い頃の記憶ですから、私が何かを勘違いしている可能性だってあります。

ただ、大人になってから、もう一つ知ったことがあります。

あの日は、まだ祖父の四十九日を終える前だったそうです。

それを知ってから、私は時々考えるようになりました。

もしかすると、あの日の人影は、本当に祖父だったのではないか。

亡くなる前は自分の足で歩くことすらできなかった祖父が、元気だった頃の姿で、もう一度、自分の家に帰ってきたのではないか。

そう考えると、不思議と怖くはありません。

むしろ、私たちの様子を見に来てくれたのなら、少し嬉しい気さえします。

ただ――

どうしても、一つだけ分からないことがあります。

もし、あの日玄関に立っていたのが、本当に祖父だったのなら。

どうして祖父は、自分の家なのに、玄関のチャイムを鳴らしたのでしょう。

中にも入らず、何も言わず、ただ扉の向こうに立っていただけ。

あれから長い年月が経ちました。

それでも私は、時々あのチャイムの音を思い出します。

「ピンポーン」

あの日、祖父は帰ってきたのか。

それとも――

玄関の向こうに立っていたのは、祖父ではない別の何かだったのか。

今となっては、確かめる方法はありません。


恐虫リリー
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