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【怖い話|実話】短編「痛みの中で」不思議怪談(滋賀県)

【怖い話|実話】短編「痛みの中で」不思議怪談(滋賀県)
投稿者:ハカセ さん(40代/男性/在宅ライター)
体験場所:滋賀県〇〇市の某病院

これは、私が数年前に入院した時に体験した、今でも忘れることのできない出来事です。

その年、私は滋賀県○○市のある病院で、手術を受けることになりました。

それほど珍しい手術ではありません。

医師からも、必要以上に心配することはないと言われていました。

それでも、やはり手術というのは怖いものです。

私はそれまで入院した経験がほとんどなく、病院という場所そのものにも慣れていませんでした。

特に苦手だったのが、夜でした。

昼間は看護師さんや患者さんの声が聞こえ、病院の中にも人の気配があります。

ところが消灯時間を過ぎると、その雰囲気が一変するのです。

静かな廊下を歩く足音。

遠くから聞こえてくる、医療機器の電子音。

時折、どこかの病室から聞こえる咳払い。

そんな音ばかりが、妙に耳につきました。

そして、手術当日。

朝から準備を済ませた私は、手術室へ向かいました。

緊張で、全身に力が入っていたのを覚えています。

けれど、麻酔をかけられてからの記憶はありません。

次に気がついた時には、私は病室のベッドに寝ていました。

「手術、無事に終わりましたよ」

看護師さんがそう声をかけてくれました。

その言葉を聞いて、私は心から安心しました。

ぼんやりと病室を見回しました。

どうやら、その部屋には私しかいないようでした。

ベッドはいくつかありましたが、使われているのは私のベッドだけ。

まだ麻酔が残っていたのでしょう。

体は鉛のように重く、頭もぼんやりしていました。

少し眠れば、楽になるだろう。

その時は、そう思っていました。

ところが――

時間が経つにつれて、傷口が痛み始めました。

最初は、少し気になる程度でした。

しかし、麻酔が切れてきたのでしょう。

痛みは、だんだん強くなっていきました。

ズキン。

ズキン。

脈を打つたびに、傷口の奥から響いてくるような痛みでした。

寝返りを打とうとしても、体に力が入らない。

少し姿勢を変えようとするだけで、傷口に激痛が走る。

私はじっと耐えるしかありませんでした。

いつの間にか、外はすっかり暗くなっていました。

病室の中も薄暗く、聞こえるのは、廊下を通り過ぎる足音と、遠くで鳴っている機械の音だけ。

痛みのせいなのか、一分が十分にも感じられました。

その時、ふとナースコールのことを思い出しました。

「そうだ……看護師さんを呼ばないと……」

私は手を伸ばそうとしました。

ところが、ナースコールが微妙に遠いのです。

あと少し。本当に、あと少し手を伸ばせば届きそうなのに、そこまで腕を動かすことができない。

無理に体をひねろうとすると、傷口に激痛が走りました。

「痛っ……」

声を出したつもりでした。

けれど実際には、息が漏れる程度の声しか出なかったと思います。

誰か来てくれないだろうか。

誰か、気づいてくれないだろうか。

そう思いながら、私は薄暗い天井を見つめていました。

その時です。

「……大丈夫ですか?」

すぐ近くから、声がしました。

誰の声なのか分かりませんでした。

私はゆっくり顔を横に向けました。

すると、そこに一人のおばあさんがいました。

白髪の、小柄なおばあさんでした。

年齢は七十代くらいでしょうか。

穏やかな顔をして、心配そうに私を見ていました。

不思議なのは、その人がいつ部屋に入ってきたのか、全く分からなかったことです。

ドアが開いた音も、足音も、聞いた覚えがありません。

おそらく、昼間には気付かなかっただけで、同じ病室の患者さんなのだろうと思いました。

ただ、その時の私は痛みでそれどころではありませんでした。

おばあさんは、私の顔をのぞき込むようにして言いました。

「痛いんでしょう?」

私は声を出すことができず、小さく頷きました。

すると、おばあさんはベッドの横を見て、

「あれ、押しましょうか?」

そう言いました。

ナースコールでした。

私はもう一度、頷きました。

正直、泣きそうなくらい嬉しかったです。

あれほど心細かった病室で、自分を気遣ってくれる人がいる。

それだけで安心しました。

おばあさんはナースコールへ手を伸ばし、ボタンを押してくれました。

しばらくすると、看護師さんが病室へ入ってきました。

私は痛みがひどいことを伝えました。

看護師さんはすぐに状態を確認し、痛みを和らげるための処置をしてくれました。

しばらくすると、あれほど強かった痛みも、少しずつ落ち着いてきました。

私はようやく息をつくことができました。

看護師さんが病室を出ていこうとした時、私は思い出しました。

そうだ。おばあさんにも、お礼を言わないと。

私は隣を見ました。

けれど――

病室には、私の他に誰もいませんでした。

「あれ……?」

さっきまでいたはずのおばあさんが、いないのです。

病室の中を見回しました。

けれど、どこにもいません。

その時は、それ以上深く考えませんでした。

痛み止めが効いてきたこともあり、私はそのまま眠ってしまいました。

翌朝。

目を覚ますと、前日の夜よりずっと体が楽になっていました。

そして、昨夜のおばあさんのことを思い出しました。

ちゃんと、お礼を言いたい。

そう思いました。

おそらく同じ病室に入院している患者さんだったはず。

けれど、病室を見回しても、他のベッドに人はいませんでした。

そこで、病室に来た看護師さんに聞いてみました。

「あの……昨日の夜、ここにいたおばあさんなんですけど」

看護師さんは首をかしげました。

「おばあさん?」

「はい。白髪の、小柄な方です。私が痛くて動けなかった時に、ナースコールを押してくれて……」

そう説明すると、看護師さんは不思議そうな顔をしました。

「……同じ病室の患者さんですか?」

「たぶん、そうだと思うんですけど」

すると、看護師さんは少し黙りました。

そして、こう口にしたのです。

「この病室、昨日はあなた一人だけですよ」

一瞬、何を言われたのか理解できませんでした。

「え?」

「他の病床には、今は誰も入っていませんよ」

私は思わず言いました。

「いや……でも、いましたよ」

自分でも驚くほど、はっきりした声が出ました。

「白髪のおばあさんです。ここにいて……ナースコールを押してくれたんです」

看護師さんは困ったような顔をして、病室の中を見回してから言いました。

「でも、この部屋には何日も、他の患者さんは入っていないんですよ」

その言葉を聞いた瞬間、背中が、すっと冷たくなりました。

だったら――

昨日の夜、私の隣にいたあのおばあさんは、誰だったのでしょう。

他の病室の患者が入り込んだのでしょうか。

術後で意識が混乱していたのでしょうか。

麻酔の影響で、幻でも見ていたのでしょうか。

それとも、全て夢だったのでしょうか。

それが一番、説明がつくのかもしれません。

でも――

どうしても腑に落ちないことがあります。

もし夢だったのなら、あの時、誰がナースコールを押したのでしょう。

私の手は、どうしてもボタンまで届かなかったですし、実際ボタンを押した覚えもありません。

それに、あのおばあさんの声も、私を心配そうに見つめていた表情も、今でもはっきり覚えています。

不思議なことに、私はあのおばあさんのことを怖いとは感じません。

むしろ、感謝しています。

あの夜、一人きりの病室で、痛みに耐えていた私に、

「大丈夫ですか?」

と声をかけてくれた人。

あのおばあさんが何者だったのか、今でも分かりません。

おそらく、答えを知ることは、もうできないでしょう。

ただ――

一つだけ、私の中で確かなことがあります。

あの夜。

誰もいないはずの病室で、確かに私は助けられたのです。


恐虫リリー
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