体験場所:東京都青梅市
これは私が高校生の時に体験した話です。
8月の暑い日でした。
当時お付き合いしていた彼と「暑いから川へ行こうか」という話になりました。
私が住んでいた場所から自転車で15分ぐらいのところに誰でも気軽に入れる川が流れていて、彼が漕ぐ自転車に二人乗りをしてそこへ向かいました。
川に着くと、いつもなら釣り人やお子さん連れの家族で賑わっている場所なのですが、その日は誰もいませんでした。人っ子一人いないんです。
まだそんなに遅い時間ではなかったので不思議に思ったのですが、「そういう日もあるんだな。空いててラッキー!」ぐらしにしかその時は感じませんでした。
彼と石投げをしたり、裸足になって川に足を入れたりして遊んでいました。
すると、ふと何か視線を感じ、そちらに目を向けると、川を挟んだ向こう岸に誰かいるのが見えました。
最初は大きな鳥かな?と思ったのですが、それが段々とこちらに近付いてきたので分かりました。
ぼんやりとしていましたが、それは明らかに人でした。小柄な女性です。
でも、おかしいんです。
向こう岸に行ける手段は私たちが遊んでる場所のすぐ近くに架かる橋を渡る以外にないのです。
ここにきて2時間以上経っていましたが、最初から私達以外に誰もいませんでしたし、その後も誰も来ていません。
それなら向こう岸に見える女性は誰なのか?
もしかしたら私たちが来る前から向こう岸にいた人なのかな?とも思いましたが、一人でそんな長い時間いるような場所ではないし、不自然です。
「ねぇ、向こう岸に誰かいるよね?」
と、私はなんとなく気味悪くなって彼に尋ねました。
すると彼はこう答えたんです。
「ん?どこ?誰もいないよ?」
その時、直感しました。
(あ・・・これは、ヤバいやつだ)
そう思ってすぐに彼に「帰ろう!」と声を掛け、そのワケも話さず彼の腕を引っ張って自転車まで戻ると、「来る時は〇〇(彼)が漕いでくれたから、帰りは私が漕ぐね!」と言って、彼の返事も待たずにサドルに座りました。
でも、慌てている私を見て動揺したのか、彼がなかなか後ろに乗ってくれません。
「早く!乗って!」
そう何度か急かすと、ようやく彼が後ろに乗ってくれたので、急いでペダルを漕ぎ出そうとした時、彼の頭が私の背中にうなだれてきたんです。
「…え?どうしたの?」
「大丈夫?具合悪い?」
「自転車、走ってもいい?」
そう話しかけても返答がありません。
おかしいと感じて振り返りましたが、うなだれているため彼の顔が見えません。
ハンドルから手を離して座り直し、彼の方に体ごと向けて、
「大丈夫?どうしたの?」
と、彼の両肩を揺らしながら声を掛けました。
すると、ハッ!と顔を上げた彼は、キョトンとして、
「どうしたの?」
と聞いてくるので、
「いや、私のセリフだよ!そっちがどうしたの?」
ともう一度聞くと、彼はこう言いました。
「どうしたのって、お前・・・俺は、ずっとお前と話してたよ!」
ゾッとしました。
彼には全くふざけている様子はありません。
だとしたら彼はうなだれている間、あるいはそれ以前から、私と全く別の状況を体感していたのだと思いました。
とにかく、今は一刻も早くこの場から立ち去らなければいけないと思い、私は急いで自転車を漕ぎ出しました。
後になって彼にもう一度あの時何があったのか聞いてみましたが、川で遊んでいた記憶はあるが、その後が曖昧でよく覚えていない。小柄な女性についても見ていない、と、言っていました。
因みに、川に遊びに行ったあの日はお盆の時期でした。水辺に近付いてはいけないと言われる時期です。そう思うと、あの日の川辺に誰もいなかったのも当然と言えば当然なのかもしれません。
でも、そうなると余計に私が見たあの小柄な女性は一体誰なのか…
そして、彼が私と思って話していたのは一体何者だったのか…
未だに分かりません。
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