体験場所:佐賀県三養基郡 某神社
佐賀県三養基郡に〇〇八幡宮という神社があります。
規模は小さいものの、724年に創建されたという歴史ある場所で、町の重要文化財にもなっています。
高校3年生の時、当時付き合っていた彼氏の家が、ちょうどその近くにありました。
その日、彼の家で一緒に受験勉強をしたり映画を見たりして過ごしていると、今では思い出せないくらい些細な理由でケンカになりました。
「もういい、帰る!」
そう言って私は彼の家を飛び出し、全く引き留めもしない彼氏に増々イライラしながら自宅に向かって歩き始めました。
5分ほど歩いて行くと、〇〇八幡宮が見えてきます。
鳥居の右脇には小さなお地蔵さまが並んでいて、地元の子供たちの間では、
「ここで首無し地蔵を3体見つけると死ぬ」
なんて噂もあるのですが、首の取れたお地蔵さまは何度数えても2体しか見つけられないそうです。
それを通り過ぎると、鳥居の間から100段以上ある長い階段が見えてきます。
いつもなら通り過ぎるだけの場所なのですが、モヤモヤした気持ちのまま家に帰るのも嫌だったので、私は軽い気持ちでその階段を登ってみることにしました。
最初は軽快に登り始めた階段もすぐにきつくなり、私は手すりに掴まって一休みしました。
微妙に斜めになっている幅の狭い階段。「あとどれぐらいあるのだろう」と上を見上げていると、ふらりと後ろに倒れてしまいそうな感覚がして、私は急いで姿勢を立て直しました。
オリンピックに出場したアスリートもトレーニングしていたというありがたい階段を、へとへとになりながら登り終えると、いまいち労力に見合わない(ごめんなさい)小さなお宮が目の前に現れました。
私は財布の中から10円玉を取り出して賽銭箱に投げ、2礼2拍1礼。
普段神社などに行った時には、「彼氏とずっと仲良くできますように」なんてのぼせたことをお願いするのですが、その日はかなりムカついていたので、「家内安全、無病息災!」と心の中で唱えました。
お参りを終えて、お宮の周りをぐるぐると散策します。
お粥の占いイベントがあるという〇〇堂や、白いハトが祀られているという〇〇稲荷を見て回っていると、ふと何かの視線を感じました。
平日の夕方5時過ぎ。
周りには私の他に誰もいません。
(気のせいか…)
と思って再びぶらぶら歩いていると、どこからか小さな鈴の音が聞こえることに気が付きました。
立ち止まって耳を澄ますと、鈴の音は鳴り止みます。
再び歩き出すと、また鈴の音が鳴ります。
(何だろう?)
と不思議に思いながらしばらく歩き、ハッと気が付きました。
(ついてきてる…?)
立ち止まると鈴の音は止み、歩き出すとまた鳴る。
走ると鈴もシャンシャンと音を立てて付いて来るんです。
でも、私のすぐそばまでは近付きません。
例えるなら、庭に閉じ込められている犬が、塀の外にいる人間を追いかけて庭の中をグルグル回っているような、そんな感じでした。
…動物でも飼っているのだろうか。
生き物が好きな私は気になって音の出所をウロウロと探します。
そして、お宮の建物に近付くと音が大きくなることに気が付きました。
ですが、お宮の短い階段を上がって、賽銭箱の裏をのぞき込んだりしましたが、生き物らしき姿は見えませんでした。
(きっと奥にいるんだろうな、残念…)
と、お宮を離れて帰ろうとした瞬間、お宮の建物の下、床板と地面の間の1mくらいの空間で、何か大きなものが動いたのが見えました。
やめておけばいいのに、気になった私は身を屈めると、建物の床下を木の柵の間から覗き込みました。
その暗闇の中には…
ぼさぼさの黒髪で、狛犬のような顔をした、赤黒い肌の6本脚の生き物がいました。
黄色っぽい大きな目で、ジッと私の方を見ています。
それが少し身動きをすると、シャンシャン、と鈴の音が鳴りました。
私はびっくりすると同時に走り出し、長い境内の階段を転げ落ちるように下ると、神社を振り返ることもなく家に帰りました。
それから特に何か良くないことが起こるわけでもありませんでしたが、(不幸にも大学に落ちて浪人することになった彼氏とは別れてしまいましたが)、あの生き物はなんだったのか、未だに分からないままです。
祀られていたのか…
閉じ込められていたのか…
気になって、その後3回ほど〇〇八幡宮を訪れましたが、あの生き物に再び出会うことはありませんでした。
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