体験場所:京都府K市の某会社ビル
これは私が父から聞いた話です。
父は定年まで某大手セキュリティー会社に勤めていました。
新人の頃は夜間の警備に就くことも多く、当時の若かった父は、京都府K市にあるとある会社の、夜の警備を任されていたのだそうです。
基本二人体制で警備にあたり、夜の決まった時間になると交代で社内を見回っていたそうです。
その頃には父もその会社の警備を始めて一年ほど経っていたので、社内には会えば会話する程度に親しくしていた社員も何人かいたそうです。
ある夜、ほとんどの社員が退社した後、暗い車内を父が見回っていると、いつも優しく声をかけてくれる気さくな男性社員の方が、オフィスの自席に一人座って必死にパソコン作業をしていました。
「残業ですか?こんな遅い時間まで大変ですね。」
父がそう声をかけると、その男性は父の方を見て軽く頭を下げたそうです。
いつもなら、そこから軽い会話を交わすのに、今日はなんだか素っ気ないなと感じたそうです。
ひどく疲れた様子だし早く終わらせたいのだろうと、父はあまり気にせずそのまま宿直室へ戻りました。
ですが、次の警備スタッフとの交代時間も差し迫った頃、やはり父はさっきの男性社員の様子が気に掛かり、缶コーヒーを持ってもう一度オフィスに行ってみることにしました。
すると、そこには既に男性社員の姿はなく、パソコンの電源だけが点いたままになっていました。
もう夜中の二時も回っていたし、パソコンを消し忘れたまま帰ったのかなと、あまり深く考えることもなく、父はまた宿直室に戻ると、そのうち交代時間となり父は帰宅しました。
その翌日のことです。
父はその日、仕事は休みだったのですが、宿直室に忘れ物をしてしまったことに気が付いて、それを取りに会社に行くことにしました。
会社に着くと、社員の人たちがざわついていて、明らかに何かあったようでした。
みんながバタバタしている中、父は「何かあったんですか?」と近くにいた人に聞きました。
「〇〇さんが事故で亡くなられたそうです。」
「えっ!」
〇〇さんとは、父が昨夜見回り中に残業していた男性社員のことでした。
「いつですか?!」
「〇〇さんの奥さんが言うには、昨日の夜、〇〇さんは一度帰宅した後『まだ仕事が残っているから』と言って、夜中の一時頃にまた会社に向かったらしいのですが、その運転中、どうやら居眠りをしてしまったらしく、対向車線にはみ出しガードレールにぶつかって・・・即死だったみたいです。」
「夜中の二時頃、私、彼を見かけましたよ。ひどく疲れた様子で残業しているようでしたが…」
父はそう呆然と言い残すと、頭がボーっとし、夢でも見てるかのような心地でそのまま帰ったのだそうです…
家に帰って、一度落ち着いて、父は改めてゾッとしたそうです。
あの時見かけた彼は、その時間にはもうこの世にいなかったわけです。
後で思い返すと、顔も青白く、精気がないようだったと父は振り返りました。
少ししか話したことはないけど、その彼は仕事熱心で真面目な印象の人だったそうです。
よほど心残りな仕事があったのか、彼は自分が死んでしまったことにも気が付かずに、魂だけが会社に戻ってきたのだろうと、父は少し彼のことを哀れに思いながら、心から冥福を祈ったそうです。
父はそれから夜の警備が少し怖くなったそうなのですが、しばらくして日勤の辞令が出たそうで、ホッとしたと言っていました。
それからもう40年ほど経っていますが、このことは父の記憶に強烈に残っているらしく、今でもよく思い出しては怪談話が好きな孫に話しています。
「夜の警備では色々なことが起こる・・・」
と、父は今も口癖のように言っています。
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