【怖い話|実話】短編「噂の病室」心霊怪談(静岡県)

投稿者:寒がり さん(20代/女性/看護師)
体験場所:静岡県S市の某病院

私の大学時代の同期で、看護師をしているA子が体験した話です。

A子は静岡県S市のとある病院で、血液内科病棟に勤務していました。
入社した時からその病棟に配属されており、その頃は既に看護師歴4年となっていました。

看護師が夜勤で働く際は、その日の勤務者の中から婦長の代わりに病棟のリーダー業務を行う看護師が一人選ばれます。
A子は1年前からそのリーダー業務を任されるようになっており、その日もA子を含める3人の看護師のリーダーとして夜勤に就いていました。

8月も終わが近付いていたその日は、お盆の時期に具合の悪かった人が連れ立つように数人亡くなっていたこともあり、その日の受け持ち患者は十人程と少なかったそうです。
そんな理由もあって、いつもは重病者でいっぱいの個室にも数室の空きがあり、消灯時間を過ぎた病棟は静かなものだったそうです。

その空き部屋の一つに、A子が入社する前から『幽霊が出る』と長年言われ続けている病室がありました。

幽霊が出る病室がある
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A子は見たことありませんでしが、病棟に長く勤めている先輩看護師達は、誰もが軒並その病室で怪現象に遭遇したことがあると言っており、数年前には、霊感があると言っていた患者が「この個室だけはすごく嫌な感じがするから近寄りたくない」と漏らしていたこともあったそうです。

それでも、人生で一度も心霊体験をしたことがないA子がその手の話を信じることはなく、空き部屋となっているその病室のことも気にせず夜勤業務をこなしていました。

その日の夜中、3時頃でした。

一緒に夜勤をしていた看護師の一人は休憩に入っており、もう一人の看護師は受け持ち患者の点滴が漏れてしまい、針の差し替えに付きっ切りになっていて、A子はナースステーションで一人、自分の業務をこなしている時でした。

突然ナースコールが鳴り、A子は慌てて廊下に出て、どの病室から鳴らされているのか確認しました。

すると、空き部屋になっているはずの例の個室のコールランプが点灯していたのです。

コールランプ
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(あれ?どうしてあの部屋から…?)

A子は不思議に思いましたが、特にそれ以上詮索することもなく、ピッチ(ナースコールを受信する携帯電話)で、コール点灯を解除しました。
そのままナースステーションに戻ろうとした矢先、A子を呼ぶように再びその個室のナースコールが鳴り響きました。

(え!?どうして!?ありえない…)

とA子は咄嗟に思うと同時に、ようやくその病室が幽霊部屋と呼ばれていることを思い出しました。

しかし、二度もナースコールが鳴ったからには、なぜ鳴ったのかを確認しなければいけません。
さすがのA子も、誰もいない病室から鳴り響くナースコールと、幽霊の噂に怖気付きましたが、幽霊が怖いから病室の確認をしないなどとは自分自身が許しません。それに怖いからと言って他の看護師を呼ぶなんてこともA子のプライドが許さず、結局、A子は一人で病室へ向かう事にしたのです。

一旦ナースステーションに戻って夜間巡視用の懐中電灯を持ち、その病室に向かったそうです。

時々、認知症の患者さんが徘徊し、自分の部屋と間違えて他の部屋に入ってしまうことがあるから、そういう類のことだといいな、とA子は思っていました。

使っていない病室は、当然電気は消えていて、ドアも閉めてあります。
A子はドアを少しだけ開け、懐中電灯だけをドアの隙間からそっと差込んでみました。

隙間から中を照らす
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中からは物音一つしません。

それでも、もし認知症の方が間違えて入り込んでしまっていたらと考えると、部屋全体を確認しないわけにはいきません。
A子は手探りでドア横にある電気のスイッチを入れると、思い切ってドアを全開に開きました。

入り口から部屋を見回す限り、特におかしな点は見当たりません。

ホッとしたのと同時に、明るい部屋を前にしたA子はさっきまでの恐怖感が逆に可笑しくなり、他の二人の看護師達に後で笑い話として話そうと思いました。

とりあえず、ベットと窓の間の死角となっているスペースを確認するため、A子は病室の中に入りました。

ベッドの前を横切り窓際まで行って確認しましたが、やっぱり誰もいません。

A子はそれこそ笑いが込み上げてきて、とりあえず部屋から出ようとドアの方を向いた、その時でした。

懐中電灯を持っていない方の手首を明らかに何かに引っ張られたそうです。

手首を引っ張られる
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「え!?なに!?」

ベッドの枕元辺りにいる誰かに、引き寄せられるように手首を引かれた感覚だったそうです。

同時に、またナースコールが鳴り響きました。

ゾワゾワッと全身から再び恐怖心が湧き上がってきたA子は、電気も消さずに逃げるようにして部屋を出て、ナースステーションに向かって走り出しました。

すると、点滴の差し替えをしていた看護師がナースコールの音を聞き付けて、ちょうど廊下をこちらに向かって来ているところで鉢合わせました。

その看護師は、例の病室から顔面蒼白になって出てきてA子を見て、

「手首、引っ張られた?」

と聞いてきました。

この病室では沢山の看護師が怪現象を体験したと言っているわけですが、実は誰もが一様に、

「手首を引っ張られて、ベッドの方に引き寄せられた…」

と、体験談を語っているらしいのです。

今はA子も結婚退職をして、その病院を辞めています。

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