体験場所:東京都E区の某病院
去年まで働いていた東京都E区の某病院で実際に体験した話です。
様々な病棟があるその総合病院では、すぐに退院される方もいれば、何年も入院したまま一度も外に出ることなく亡くなってしまう方もいて、そこで私は60人程の患者さんが入院している療養病棟に勤めていました。
療養病棟とは、もはや積極的な治療はせず、苦しまないように最後の時間を療養する為の病棟です。
月に何人かの患者さんが亡くなることもあり、だからと言ってはなんなのですが、その病棟では心霊現象といわれるような出来事が度々起きていました。
私個人としては、それまで日勤夜勤に関わらず、幽霊や心霊といった類の現象に遭ったことは無かったので、他の職員の体験談なども「どうせ気のせいだろう」と思っていたのですが…どうやらそうも言えなくなってきたのです。
ある患者さんから、「あなたの後ろにいる子は、あなたの子?」と聞かれたことがありました。
直ぐに振り返って見たものの、子供の姿なんてどこにもありませんし、病棟内には子供の患者もいませんでした。
それに私には子供はいませんでしたし、いたとしても職場内を連れて歩くはずもありません。
恐らくは薬の副作用で幻覚でも見えているのだろうと考えたのですが、もしかしたら本当に何か見えていたのかも…と、思わざる負えないようなことが起きたんです。
ある日のこと、多くの患者さんが同じものを見たと言って、一斉に騒ぎ出したことがありました。
「病棟内を歩く黒い服を着た集団を見た」
患者さん同士で照らし合わせたわけもないのに、突然多くの患者さんの口から同時にそう聞かされたのです。
私の後ろに子供が見えたという患者さんと同様、副作用で幻覚が見えるお薬を飲まれている患者さんや認知症の方だけなら、それで説明が出来たのかもしれません。
しかし、そうではない患者さん達も「黒い服を着た集団を見た」などと訴えているのです。
病院の職員は基本的に黒い服は着ていませんし、患者さんのご家族も『集団で』となると考えにくいです。
これは本当にもしかして…と、その時は私も妙に気味が悪くなりました。
そんなある日のこと。
「夜中に車椅子が勝手に動いているところを患者さんが動画に撮った」
と、リハビリ病棟のスタッフが言い出したのです。
動画を撮った患者さんは40代の男性の方で、幽霊などは信じていないものの、夜中に実際、目の前で車椅子が勝手に動いているのを見て怖くなり、病院スタッフに伝えるために撮影したとのことでした。
動画を見ると、ベッドの上から撮影したようなアングルで、カーテンで区切られた患者さんのベットスペースが映し出されています。
消灯後なのか部屋は真っ暗ですが、月明りと常夜灯に照らされ多床室であることが分かります。
問題の現象は、その映像の中心辺りに捉えられていました。
銀色に反射する車椅子が、誰も乗っていないのに、ベットの横で独りで動いているのです。
ただ前進するのではなく、前後に動くそれは、後ろに切り返す練習をしているようにも見えました。
暗闇の中、キィキィ音を鳴らしながら勝手に動く車椅子の姿は酷く不気味で、私は思わず両腕をさすりながら映像に見入っていました。
そのまま5分ほど車椅子は同じ動作を繰り返した後、まるで人が降りたかのようにスッと動きが止まり、そこで動画も途切れました。
その後、病院のスタッフの間で瞬く間にその動画は広まり、しばらくの間「うちの病棟でも同じようなことがあった」と、奇妙な話が色々と飛び交うようになりました。
因みに動画を撮ったリハビリ病棟の患者さんは、退院までの間、度々その現象に悩まされたらしいのですが、とくに実害はなく、3ヶ月ほど経った後に退院されたそうです。
リハビリ病棟は若い患者さんが多く、私が知る限りでは全ての患者さんが回復し、元気に退院されているものと思っていたのですが、過去には3人ほど亡くなった方がいらっしゃったそうです。
本来ならばリハビリを終えて元気に退院する予定だった方々ですが、体調が急変し、亡くなってしまったのだと…
もしかしたら、この世に未練を残して亡くなった患者さん達が、今もリハビリを続けていたのかもしれませんね。
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