【怖い話|実話】短編「騒がしい病院」心霊怪談(兵庫県)

兵庫県:騒がしい病院
投稿者:藤田 さん(19歳/女性/学生)
体験場所:兵庫県K市の某病院

これは、私の姉が兵庫県神戸市の某病院で体験した話です。

当時、私より三つ年上の姉は看護師をしていて、呼吸器病棟に勤務していました。

今は辞めてしまっているのですが、その原因の一つが今から話す体験にあります。

姉が勤めていた病院の業務には、看護師は月に数回、夜勤の日がありました。昼過ぎに出勤して次の日の朝に帰って来るというのが、夜勤の日の姉の勤務形態でした。

夜勤の場合は勤務時間も長くなるので、一応休憩時間が設けられていて、他の看護師と交代で仮眠を取るのだそうです。

ある日の夜勤でのことです。

その日、姉は少し苦手な先輩看護師と一緒に夜勤を担当することになり、少し憂鬱な気持ちで仕事に向かいました。

その先輩看護師というのは、別に意地悪というわけではないのですが、口数が少なく会話が続かないのだそうです。だからその日もほとんど会話はせず、ほぼ無言で仕事をこなしていたそうです。

夜の病院の業務は少し気味悪かったりして、そんな時に誰かと会話できると、一人ではないことを強く感じられるので、夜勤では特に人と会話することが重要と姉は言います。

ですが、その日の夜勤はほぼ無言。
時間も経つにつれ、まるで一人ぼっちで夜の病院に取り残されたような気分になり、姉は少し心細く感じていたそうです。

病棟看護師は、担当する患者さんの病室を定期的に見回り、ナースコールがあれば病室まで確認しに行かなくてはなりません。会話がなく心細く感じていた姉も、仕事なので仕方なく、時間が来るといつものように病室を一つ一つ見回りに行きました。

姉が勤めていた呼吸器科は、肺ガンの方や、高齢の患者さんが多く、そのほとんどは寝たきりの方ばかりでした。

中でもAさんという60代の女性の方は、肺炎をこじらせ、起き上がるのも困難なほど衰弱していました。
それでもAさんはいつもニコニコされていて、看護師さんにも優しく接してくれるので、姉もお話しさせてもらうことがよくあったそうです。

その夜、Aさんの病室を見回りに訪れ、扉を開けた時のことを、姉は「自身の生涯で一番驚いた」「声も出なかった」と言います。

なにしろガラッと扉を開けた目の前にAさんが突っ立っていたと言うのだら、無理もありません。

真っ暗な病室の真ん中で、起き上がることも出来ないはずのAさんがこっちを向いて立ち尽くしている。

「驚きすぎると逆に冷静になるみたい…」

そう教えてくれた姉は、その言葉通り、直ぐにAさんの元に駆け寄り、

「Aさん、どうかされたんですか?とりあえず座りませんか?」

そう促したのだそうです。
もし仮に転倒して大怪我なんてことになると大問題ですから。

それなのに当のAさんは、姉には目もくれず、開け放たれた扉にのろのろと近づくと、廊下に顔を出し、辺りを見渡していたそうです。

「どうかされたんですか?」

Aさんの体を支えながら、もう一度姉が聞くと、Aさんはいつものようにニコニコと笑って、

「今日はなんだか賑やかね」

と、嬉しそうに言ったそうです。

姉の話を、固唾を飲んで聞いていた私は、真夜中の、暗く静かな病院の廊下を想像して、背筋がゾワっとするのを感じました。

それを直に見ていた姉は、私とは比較にならないほど身が竦む思いだったでしょうが、

「なにか聞こえましたか?今は静かですよ?」

出来るだけ冷静に答えました。

でも、Aさんは首を横に振って、

「子どもがたくさん走り回ってるじゃない」

いつもの笑顔でそんなことを言うんです。

余りに気味が悪くて、咄嗟に部屋を飛び出したくなった姉ですが、グッと踏み止まり、

(もしかしたら夢と現実が入り混じって、幻影や幻聴が出ているだけかもしれない。)

そう思い、必至にAさんをなだめ続けました。

とにかく怪我をしてしまうことが心配で、ベッドに横になってもらうことだけを考えました。

「子どもはいないですよ。まだ夜中だからもう少し寝ましょうね。」

そう言って、ようやくAさんをベットに横にして布団をかけると、姉は眠るまでそばで見守り続けたそうです。

Aさんが目を瞑ってから数分後、ようやく一息付けた姉は、懐中電灯を手に立ち上がると、再び巡回を続けようと部屋の扉に手を掛けました。そのた時です。

「あなたの子どもがまだここにいるわよ」

Aさんの声が耳元で聞こえた気がしました。

驚いてすぐに振り返ると、Aさんはベットに横たわったまま目を開いていて、姉をジッと見つめていたそうです。

いつもニコニコ顔のAさんが、まるで別人のような怖い顔だったと姉は言います。

Aさんの目が、まるで感情のこもらないビー玉のようで、それが怖くて、姉はすぐに背を向けて巡回の続きに向かったそうです。

後日、Aさんの言葉がどうしても引っ掛かっていた姉は、婚約者と一緒に産婦人科に行きました。するとそこで、医師から思いがけないことを伝えられました。

姉は、重度の不妊症だったそうです。

その治療に専念するために、姉は仕事を辞めました。

「Aさんが教えてくれたから、早く治療を始めることができたんだよ」

姉はそう言ってAさんに感謝しているようなのですが、私は本当にそんな優しい話なのかと考えてしまいます。

「あなたの子どもがまだここにいるわよ」

Aさんのその言葉って、姉の子供が、夜の病院を走り回る子供たちに付いて行ってしまった、あるいは連れて行かれてしまったとか、そんな意味の可能性も無いのだろうかと…

私の考えすぎかもしれませんが、今でも思い出してはモヤモヤしてしまいます。

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