体験場所:千葉県にある公立高校
これは私が高校2年生だった頃に体験した話です。
当時、私が選択授業で専攻していた音楽の授業は、学年全員合わせても女子9人男子2人の計11人の生徒しかいなく、こじんまりとしたものでしたが、みんな仲が良く、授業は穏やかに進んでいました。
受け持ちの教員は、20代半ばの女性教員で、近くにある古い学校から赴任してきたばかりの先生でした。優しくて面白い人だったので、私たち生徒もよく懐いていたのを覚えています。
ただ、そんな先生に対して私が唯一抵抗を感じていた点が、『霊が見える』というところでした。
初めの内は先生がそんな話をしていても、私たちを怖がらせるためのちょっとした冗談だろうと笑っていました。
しかし、先生の話を聞くうちに、次第にそれが冗談ではないことが分かってきたのです。
と言うのも、先生が以前に勤めていた学校は、私たち生徒の間でも『古くて怖い学校』として、度々話題に登るようなところで、悲しいことに自殺してしまう生徒も数年に一度は出る、といった具合に、決して明るいイメージが持てるような学校ではありませんでした。
そんなこともあってか、先生がその学校で体験したと言う心霊話は、私たちにとって妙に信憑性が高いものに感じられたのです。
先生の話によると、その学校で残業があった夜、帰る前に一通り校内を見回ると、一人の女の子が残っていたので声を掛けたのだそうです。
でも、先生はすぐに(コッチの人じゃない)と感じ取り、走って逃げ帰ったそうなのですが、家に帰るとお母さんに、
「…その子、どこで拾ってきたの?」
と言われゾッとしたそうです。
それからも車のボディに反射してその女の子が写っていたり、部屋の窓が勝手に開いたりと、今も継続してその女の子にまつわる心霊現象が繰り返されていると言うことでした。
その話を聞いた時、私たちは怖さ半分、面白さ半分と言った具合でワイワイしていましたが、先生を囲むように半円状に並べていた真ん中の机が、突然大きな音を立てて倒れ、教室中がパニックになりました。
先生に憑いていると言う女の子のことが、正に証明されたかのようでした。
それからというもの、音楽室での授業は謎のすきま風や奇妙な音などに悩まされていましたが、半年も経つ頃には次第にみんな慣れていったんです。
そして2年生の最後のテストがあった日のことです。
と言っても、音楽の授業ではこれといったテストもなく、私たちはその時間を持て余し、音楽室でダラダラとしていたんです。
それなら折角だからと、以前にみんなで合唱している時の姿を撮影した映像を、この時間を利用して鑑賞しようということになり、先生と私たちはモニターの前に集まってワイワイおしゃべりしながらその映像を見ていたんです。
すると突然、
「オーブだ!」
と、一人の生徒が叫んだのです。
映像には、確かにぼやぼやとした光の玉の様なものが映っていました。
「何かに反射してるのかな?」
「光が射し込んでるだけだよ」
と、最初の内はみんな半信半疑でしたが、しばらく映像を見ていると、その光の玉はストーブの下に潜り込んだり、生徒の足を縫うようにして動いたり、まるで意思を持つかのようなその動きに、私たちは驚くと同時に何時の間にか興奮していました。
それまでも授業中にポルターガイスト現象のようなものはありましたが、目に見える姿で何かが現れたのは初めてだったので、怖いというよりも興味の方が勝っていたのです。
しばらくの間、オーブは出たり消えたりを繰り返していまいしたが、3回目に現れた時のそれは、黄色い姿をしていたんです。
(色を変えられるのか!)と私が感心していると、
「緑になったね」
と、隣の男の子に嬉々として話しかけられ、
「え!?」
と思わず大きな声で私は驚いてしまったのです。
すると、みんな堰を切ったように口々に、
「さっきと変わらないじゃない!」
「青にしか見えないでしょ!」
「私も黄色に見えるよ!」
と、それぞれが別の色に見えると騒ぎ出したのです。
こんなに面白い授業はないとばかりに全員が興奮していると、
「赤に見える。」
と、誰かが突然そう言ったのです。
流石にこればかりは、
「なんか怖いー!」
「赤って、それ大丈夫なの?」
と、みんなに突っ込まれていましたが、ビデオが終わったタイミングでチャイムが鳴り、私たちは興奮冷めやらぬまま音楽室を後にしたのです。
同じクラスメートの3人で教室に戻る最中も、私たちはどうしてもさっきの映像のことが気になり、オーブについてスマホで検索してみたんです。
すると、人によってオーブの色の見え方が違う事はたまにあるらしく、
『黄色に見えると金運アップ!』
『緑は健康運が良くなる予兆で…』
といった様な、子供だましのおみくじみたいなことが書かれていて、思わず私たちは3人で笑ってしまいました。
でも、「赤」だけは別だったんです。
『赤に見えると大きな病気、怪我をする。更には死に至る場合もある。』
そう書かれていたんです。
あまり信憑性のある情報ではないとは思ったものの、ここは親切心で、赤に見えたと言う子に一応注意しておいてあげようということになったのですが、そこで私たちはお互いの顔を見合わせ青ざめました。
「…誰…だったっけ?」
赤に見えると言った声の主が誰だったのか全く分からないんです。
女の子の声だったことは間違いないと思うのですが、1年間一緒に楽しく音楽の授業を受けてきた11人の内、女子は9人。その内の3人がここにいるのに、その声が誰のものだったのか私たちの誰もが分からないのです。
この妙な違和感を言葉に出来ないまま、私たちは思わず押し黙ってしまいました。
その日の掃除の時間、私たちは居ても立っても居られず、私たち以外の音楽のメンバー一人一人に聞いて回りました。
ただ結局、他の子たちも口を揃えて、
「私じゃないよ、でも誰か他の女子が『赤』って言ってたよね」
と、言うばかりでした。
それから1週間後には春休みに入り、3年に上がると、私と一緒に音楽を選択していたクラスメートの一人は英語を選択し、音楽を選択する生徒は10人になり、あの先生も結婚を機に休職してしまい、受け持ちは他の教員になっていました。
その頃には、もう誰もオーブの話はしていませんでした。
高校生は飽きるのが早いのです。
3年生になってからの1年間は、全く心霊現象は起きませんでした。
やっぱりあの先生が音楽室を去ったからなのでしょうか。
先生は今は旦那様と娘さんの3人で新居で暮らしているそうですが、何も災いが起きていない事を願っています。
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