【怖い話|実話】短編「女の記憶」心霊怪談(長野県)

投稿者:椿 さん(23歳/女性/無職)
体験場所:長野県I市
【怖い話】心霊実話|長編「女の記憶」長野県の恐怖怪談

これは1年ほど前の夏に体験した話です。

ちょうどお盆の時期の終わり、送り盆が済んだ頃でした。

当時、私は車で通勤していました。勤め先は駐車場から少し離れていて、車を停めた後、そこから歩いて職場に向かうという日々でした。

徒歩で職場に向かう途中、墓石数20基ほどの小さな霊園がありました。

もともと多少霊感のようなものがあった私は、その霊園の前を通る度に謎の違和感を感じていました。ですが私の霊感なんてそんな大それたものではなく、「何か分からないけど何かいる…」というボンヤリとしたようなものでした。

そんなある日の仕事帰り、いつも通り駐車場までの道を歩いていると、件の霊園の方から誰かに見られているような気配を感じました。
すぐにそちらに視線を向けましたが、誰もいません。
でも変な寒気もしますし、私は気味が悪くなって足早に車へ向かい家路に付きました。

その日から、私は異様な感覚に悩まされるようになりました。

寝ても起きても近くに何かがいる感覚が抜けず、お風呂や台所、鏡の前、パソコン作業中など、いつでもどこでもその感覚が付いて回りました。

時には視界の隅を”何か”黒いものが通り過ぎることもありました。それはちょうど大型犬と似た大きさの、毛むくじゃらの塊のようなものでした。慌ててそちらに目をやっても、やっぱり何もいない。代わりに変な寒気に襲われるという毎日が続いていました。

そんなことがしばらく続いたある日、職場で仕事をしていた時です。

突然その”何か”が体の中に入り込む感覚に襲われました。
それと同時に私の体感温度が壊れ始めました。

暑い、寒い、暑い、寒い、が繰り返され、さらに上半身の皮膚の内側を虫が這っているようなムズムズとした感覚を覚えたんです。

私は咄嗟に「体が奪われる…」という思いに駆られ、これから起こる可能性を次々と想像して、恐怖とむず痒さに身悶えました。

すると周りの同僚が私の様子がおかしいのに気付いてくれ、私は同僚たちに促されるまま会社のベットで少し休憩させてもらいました。

しかし横になったとはいえ不安が消えることはなく、とにかく体の中を虫が這うような気持ち悪さで、ベットに体を擦り付けてのたうち回るしかありませんでした。

でも、しばらく経つとその感覚が消えました。

「ようやく落ち着いた…」

そう思い、体を起こそうと頭を上げた時でした。

“何か”によって体が勢いよくベッドに押さえつけられました。

そこは同僚たちがいる職場とは簡単なカーテンで仕切られているだけだったので、すぐに声をあげて助けを呼ぼうとしました。

でも口は動くのに何故か声が出せません。

すると今度は私の首が勝手に回転を始めました。抵抗すると首に耐え難い痛みが走ります。そのまま無理矢理に顔を横に向けられたかと思うと、その正面からざらついた声が話しかけてきました。

「助けて…」
「寂しい…」
「ひとりぼっち…」
「なんで…私…だけ…」

ボソボソと話すその声は初めて聞く声でしたが、その主が私に取り憑いている”何か”だということは分かりました。

目を閉じると、目の前にぼんやりと立っている女性の姿が見えました。

背丈は私がベッドに腰掛けた時の高さと同じくらいで、かなり低かったと思います。

青白い顔を長い髪が覆い、僅かに見える頬の辺りを涙が流れていました。

その痕を辿ると、目玉がえぐられたような黒い穴があり、そこから涙が溢れていました。

白い和装姿でしたが、その1枚しか着ていないのか肩の線が浮き出ています。

視線を足元に向けると、その姿は更にぼやけていてよく見えませんでした。

すると、女性はこちらに手を伸ばし、その指先が私の肩に触れました。

触られたところにヒンヤリとした感覚が走り、それと同時に私の頭の中に何かが流れ込んできました。

それは女性の記憶のようでした。

随分と裕福そうな家の中に、細身で髭の生えた男性と化粧の濃い女性がいて、その二人の向かいに小太りの少年が座っているのが見えます。

しかし私に取り憑いている女性はそこにはいません。女性がいたのは別の離れのようなところで、古びた建物の中にござのように薄い布団が敷かれ、そこに寝そべって泣いていました。

女性の身体は垢まみれで、その匂いに引き付けられたのか、虫が布団の上まで這い上がってきていました。

それは私が体験したこともないような、凍えるように冷たくて寂しい、病気に苦しむ記憶でした。

目を開けると、体の自由が効くようになっていました。

どうやら私は1時間ほどその記憶を見ていたようでした。

ようやく解放されて安心したはずなのに、頭の中には女性の記憶がはっきりと焼き付いていて、私はしばらく涙が止まりませんでした。

嗚咽が出るほど泣き続けていた時、私の異常に気が付いた同僚が駆けつけてくれて、直ぐに早退の手続きをしてくれました。

職場を飛び出した私は、霊園の方に顔を向けないように車まで走りました。

「今は早く、母に会いたい。」

それは毎日顔を付き合わせている母に対して抱いたこともない感情でした。

通院中だった母は、その時間、病院にいるはずでした。

どうにか車の運転は出来たので、私はすぐに母がいる病院に駆け込みました。

そこには欠伸をして診察を待っている母の姿がありました。

母は私の姿を見て驚いたものの、私が困惑しながらさっきの体験を話すと、横やりも入れずにそのまま聞き入ってくれて、私はまた涙が出てきました。

母が抹茶アイスを買ってくれて、1口、2口と食べていたら、ふっと体から何かが抜ける感覚がしました。

辺りを見渡すと、すぐ横にあの女性が立って私を見ています。

もう体に入るつもりは無いようでした。

すると「ごめんなさい…」と一言聞こえ、女性の姿は消えて気配だけが残りました。

ようやく私は安堵したのと一緒に、女性への同情が溢れ返り、また涙が流れてきました。

その後、「このままには出来ない」と思い、私は家の近くのお寺に行って、住職にその話を聞いて頂くことにしました。

すると住職は私の顔を見るなり、

「成仏されたのですね。」

と、一言呟きました。

そこでお経をあげて頂き、私は心からあの女性の成仏を願いました。

以上が私の体験談です。

因みにこれは後日談になりますが、あの件があって以来、私の霊感は覚醒してしまったのか、今では意思のある霊ならしっかりと見えるようになってしまいました。

ですがあそこまでの霊障は後にも先にもありません。

今はその女性が空の上で穏やかに過ごしていることを願って、時々お寺に行ってはお経を上げて頂いています。

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