体験場所:東京都足立区の祖父母の家
私が小学生の時、福島に住む母方の曾祖母が危篤だと連絡が来た。
少し前から何度か体調を崩しており、祖母は何度かお見舞いに行っていた。
そして今回、いよいよ本当に危険だと言われ私たちも一緒に福島へ向かうことになった。
祖父母は東京の足立区で叔母(母の妹)と一緒に暮らしている。
そこからそう遠くない場所に両親と私は暮らしていた。
祖父母と母と私の四人で車に乗り込み、東京を出たのはその日の午後だった。
母の仕事の関係で出発が少し遅くなってしまった。
叔母は仕事の関係でどうしても同乗できなかった。
曾祖母の家は福島の山奥だったが、入院していた病院は市内にあった。
その日の内にお見舞いに訪れるのは難しく、道中で一泊することとなった。
日が沈んだ頃にようやくホテルに到着し、すぐに曾祖母の世話をしてくれている親戚に電話して明日お見舞いに向かう旨を伝えた。
その夜、21時を少し過ぎた頃だった。
翌日は早朝に出発する予定だったのでそろそろ寝ようかと話している時、ホテルのフロントから連絡があった。
叔母から電話が掛かってきていると言う。
この当時、我家に携帯電話を持っているものはいなかった。
フロントに繋いでもらい電話を受けると、
「曾祖母が亡くなったと今連絡があった。」
叔母から落胆した声でそう伝えられた。
先ほどホテルに到着して直ぐに連絡した時には容体は安定していたはずなのに、突然急変してそのまま亡くなってしまったのだと言う。
近くまで来ていたのに、こんなことになるなら無理してでも会いに行けばよかったと、私たちは後悔した。
翌日のお見舞いの予定が葬儀へと変わってしまった。
無事に葬儀告別式が終わり、私たちが東京に戻ってからのことだ。
叔母から少し怖いような悲しいような、妙な話を聞かされた。
曾祖母が亡くなったと連絡があった日、叔母は仕事を終えた後、彼氏を家に招いて食事をしていたそうだ。
この彼と言いうのが多少霊感があり、見える体質なのだと言う。
食事を済ませリビングでゆっくり過ごしていると、彼は薄暗い廊下の方に何かの気配を感じたそうだ。
目を凝らしてそちらを見ると、ゆっくりと廊下を歩く腰の曲がったおばあさんが見えたという。
その直後に電話が鳴り、曾祖母が亡くなったという連絡が来たそうだ。
その話を聞いた時、腰の曲がったおばあさんは曾祖母だと全員が理解した。
曾祖母は晩年まで農作業に精を出していたためか、大げさではなく腰が90度近く曲がっていた。
ちなみに彼はもちろん曾祖母に会ったことはなく、もちろん葬儀に参列することもなかった。つまり曾祖母を見たことがない。
それなのに、明らかに曾祖母と思わしき人を見ているのだ。
曾祖母は祖母に会いに来たのだろう。自分の娘に。
それは直ぐに分かった。
曾祖母は自分の娘、つまり祖母のことを本当に偲んでいた。
夏休みなどに遊びに行くと、帰り際に自分も一緒に東京に行くと言って車に乗り込んで来ることがあった。お茶目な行動にも思えたが、半分は本心だったのだろうと思う。
そして亡くなる前にも、娘のいる東京に行きたいとしきりに言っていたと聞いた。
そして実際に東京の娘の家に現われたのだろう。
しかし、その時娘は母に会いに福島に向かっていた。
悲しいすれ違いが起きてしまったのだと思った。
あるいはどちらかがもう少し待っていれば、最後に会うことが出来たのに、それが余計に別れを辛くさせた。
叔母の彼氏に晩年の曾祖母の写真を見せると、
「この人です。誰か探すように家の中をきょろきょろしていたんです。」
そう言っていた。
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