体験場所:千葉県Y市の某病院
私は千葉県Y市の病院で看護師として働いています。
勤務シフトは夜勤を含めた3交替で、場合によっては帰宅が深夜になる事も珍しくありません。
そんな日は帰りにタクシーを利用するのですが、今回お話するのは、そのタクシーの運転手さんから聞いた話です。
その夜も、仕事終わりが深夜1時を回り、私はタクシーを呼んで帰路に就きました。
家までの乗車時間は3~40分ほどあります。
「お互いに遅くまでご苦労様です」なんて、少しだけ、最初は運転手さんとそんな他愛ないやり取りをしていたのですが、しばらくして、運転手さんが急に思い出したように、
「そういえば、お客さん。あの病院の、看護師さん…なんだよね?」
おもむろにそんなことを聞くので、
「え?…ええ。そうですけど。」
と、私は少し身構えてそう答えると、運転手さんはこんなことを話し始めたのです。
「そうそう、話してみたいことがあったんだよ、あの病院の看護師さんに。
いや、私ね、いつも仕事が終わるのが夜中の2時頃なんだけどね、会社の営業所から家まで近いからさ、いつも歩いて帰っているんですよ。
その時にね、〇〇病院(私の職場)の前を通るんですけどね、その門の前を通り過ぎる頃かな、ふっと私の前を自転車に乗ったお年寄りが横切ったり、門の前に女の人が立っていたりってね、いつも誰かしら見かけるんですよ。おかしいなぁ、こんな夜更けに、しかもこんな場所に人がいるなんて変だよなぁ、そう思ってね、振り返ってもう一度見てみるんですけど、もう居ないんですよ。私も仕事上がりで疲れているから、見間違えかな?っとも思うんですけどね…。」
運転手さんの話し声を聞く限り、悪い冗談を言っているようにも聞こえません。
かと言って、夜中はもちろん病院は閉まっているはずですし、近隣にはお店などもありません。
それに運転手さんの目撃時間は深夜の2時。病院の前は真っ暗な田舎道です。そんな夜更けにお年寄りや女の人がいるなんて、あまり考えられない事です。
辺りはシーンと静まり返った深夜、ほんの少し街灯があるだけの病院前の田舎道に、そんなちょくちょく人がいる?私も不思議に思って、
「それって、どの辺りですか?具体的に」
と、運転手さんに尋ねました。
「ほら、あの、門のところ。職員の方たちが出入りする駐車場の、入口のところだよ。あそこに白っぽい建物があるでしょう?いつもその辺りなんだよなぁ、誰かとすれ違うの。」
それを聞いて私はゾッとしました。
その白い建物とは、病院の建屋の奥の方に当たり、そこは霊安室が納められた建物です。
もしかして、運転手さんが夜中に見かける人たちって…
私は怖くなって、車窓を眺めていた目を伏せると、あることを思い出したんです。
その霊安室の近くには、女子職員の仮眠室が幾つかあるんです。
その中で、最も霊安室に近い奥の方の仮眠室がやばい、という漠然とした噂が病棟内にありました。
(なにがやばいのか…?)なんて私は思っていましたが、タクシーの運転手さんの話を聞いて、何となくそれが分かった気がします。
「でもね…」
と言って、運転手さんは話を続けます。
「そのお年寄りとか女の人を見ても、不思議と怖いとかは思わないんだよなぁ~。あれ?誰かいたよな?こんな時間に?おかしいなぁ、って思うだけで。」
そんな風に話す運転手さんに、
「その白い建物って、霊安室が入ってるんですよ」
と私が言うと、運転手さんはただ、やっぱりそうだったのかぁ、とだけ呟きました。
深夜の2時頃、病院の前に現われる人達って、一体誰なのでしょうか…結局は謎のままです。
ところで、この運転手さんのタクシーに乗り込んで病院から出た時、タクシーの車窓から見えた病院の門、その近くにいた女の人って・・・
その日はあまり考えないようにしながら眠りました。
コメント