体験場所:神奈川県横須賀市
これは私が小学校3年生の時に体験した話です。
当時、私は神奈川県横須賀市に住んでいました。
今と比べると、当時は商業施設や飲食店も無く、家から少し歩けば山も海もあるような自然豊かな場所だったと記憶しています。
不思議な体験をしたのは、私の家から15分ほど歩いた場所にある裏山の中でした。
その頃、私がいつも一緒に遊んでいたのは、近所に住む2歳下と4歳下の従兄弟たちでした。
近くの海で貝を拾ったり、川ではザリガニを捕まえたり、山にお花を摘みに行ったりと、豊かな自然を目一杯3人で楽しんでいたような気がします。
また、時には別な遊びとして、心霊スポットとまでは言わないまでも、近所の子供たちの間で怖いと噂される場所に、ドキドキを求めて探検に行くこともありました。
その中の一つに、裏山の中のとある『沼』の噂がありました。
近付いた人間は沼の中から誰かに引きずり込まれると言われていて、一度引きずり込まれてしまうと二度と上がってこられない底なしの沼なのだと、近所の子供たちの間ではそう噂されていました。
それは暑い夏の昼下がりの事でした。
私たちはいつもの3人でその沼に行ってみることにしたのです。
一番年上だった私がリーダーのように先陣を切って山の中を進み、沼へと向かいました。
沼に近付くに連れ、真夏の暑さが嘘のように消え、徐々に空気が冷んやりしてくるのを感じました。
それにも構わずズンズン進むと、間もなくして、上から沼を見下ろすような場所に到着しました。
なんとなく薄暗いせいもあってか、上から見下ろす沼は確かに不気味で、涼を感じるには十分に気味悪かったと思います。
とは言え、しばらくいても特に何か起こるわけでもなかったので、数分後には私たちはその場を後にしていました。
なんだか拍子抜けしてしまったその帰り道、綺麗な花が咲いていたりして、「そうだ!この花を摘んでお母さんのお土産にしよう!」なんて、怖がりに来たはずなのに、むしろ私たちの間には楽しい空気が流れていたと思います。
お花を摘みながら山道を歩いていると、急にひらけた場所に出ました。
そこには沢山のお花が咲いていて、胸が高鳴った私たちはそれぞれに散らばって夢中でお花を摘み始めました。
すると、私がお花を摘んでいた少し先に、しゃがんでいる女の人の姿が見えました。
女性は頭からスカーフを巻いて下を向いています。
「私たちと同じようにお花を摘んでるのかな?」
そんなことを思っていると、すくっと女性が立ち上がりました。
そのまま頭がスッとこちらを振り向いた瞬間、私はギョッとしました。
キツネでした。
ツンと尖がった鼻先に、顔の横まで開いた口。
体は人の女性の形をしているのに、顔だけがキツネなのです。
いわゆる神社のお稲荷さんのような、凛として霊妙な表情。
私はヒッと短く悲鳴のような呼吸をした後、大声で従兄弟たちに呼びかけ、大急ぎでその場を離れました。
そこから家に帰り着くまでの事はあまり覚えていません。
ただ、女性の顔だけはハッキリと記憶があります。
人間の女性の体の上に、神社に佇むお稲荷さんの顔が乗った不可思議な様相。
私は家族や従兄弟たちに私の見たものを懸命に説明したのですが、誰も取り合ってはくれませんでした。
その後、同じような体験をしたという話を聞く事もありませんでしたし、気付いた頃には「あの体験は何だったんだろう?もしかして夢だったのかな?」と思うようになっていました。
ただ、後に知ったのですが、以前はその裏山に稲荷神社があったそうなのですが、私たちが遊んでいたあの頃には既に取り壊されてしまっていたそう。
当時は驚きと恐怖で混乱するばかりでしたが、今では、もしかしたらその神社のお稲荷さんが人間の姿を借りてあの場所を守り続けてくれていたのかもしれない、と、そんな風に思うのです。
毎年夏が来ると思い出す、私が子供の頃に体験した不思議な思い出です。
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