体験場所:奈良県Y市の某ビジネスホテル
これは今から29年前、実際自分の身に起きた心霊体験です。
当時私は大学一回生になったばかりで、夏休みにバイトをしていました。
この頃はバブル崩壊前だったので、かなり景気の良い時期でした。バイト代の時給は高く、条件も良い物が多かったんですよね。
私は地元で電気工事のバイトをしていたのですが、「奈良県の現場で人が足りてないから行かないか?」と親方に誘われました。
地元でも日給12000円もらえていたのですが、奈良の現場だと日給は20000円。
しかも日帰りではなくビジネスホテルでの泊り仕事で、その宿泊費用と食事代も出るとの事でした。
それに期間も一週間とそれ程長くありません。
お金に目が眩んだ私は即OKし、奈良県へ行くことになりました。
行きは親方の車で、私ともう一人のバイトAも同乗し、三人で向かいました。
親方は初日だけ参加してそのまま帰り、一週間後にまた迎えに来てくれるとのことでした。
早朝から奈良県のY市に向かって出発し、そのまま現場へ直行。
仕事を終えてから予約していたビジネスホテルへと向かいました。
因みにこのビジネスホテルは近鉄Y駅の近くにあり、一時期騒がれた元1級建築士の〇歯〇次がデザインしたビジネスホテルでした。
昔の事なのでホテル名は忘れてしまいましたが、ニュースで〇歯のデザインしたホテルの画像を紹介しているのを見て「あ!ここだ!」と分かりました。
近鉄Y駅付近で高層のビジネスホテルってここしかなかったので、地元の方なら知ってると思います(すでに潰れてしまっているので今はありませんが)。
無事にホテルに到着し、私とAはチェックインを済ませそのまま宿泊。
親方は「一週間後に迎えにくるから」と、そのまま車で帰っていきました。
こうしてビジネスホテルと現場を往復するだけの、仕事漬けの一週間が始まりました。
私たちが宿泊したのは5階でした。
Aが角部屋、私はその手前の部屋で隣同士でした。
宿泊初日から異常はありました。
あくまでも、今思うと…ですが。
この日は疲れていたこともあり、すぐに床に就いたのですが、夜中に廊下を歩く音で目が覚めました。
(多分Aの足音だろう。慣れない所で寝付けないのかな?)
なんて考えている内に、私は再びウトウトと眠っていました。
翌朝、Aと合流して仕事へ向かいます。
二日目も順調に仕事を終え、ホテルへ戻ってきました。
一週間の間、私もAもずっと同じ部屋を予約しており、その日も昨日と同じ部屋へとそれぞれ向かいました。
すると二日目の深夜、またしても物音がするんです。
(昨夜も妙な時間に起こされたし、落ち着けよA!)
と思い、多少イライラしつつも、再び眠りにつきます。
その後もこれが連日で続きました。
6日目の朝、何度も夜中に起こされイライラが溜まっていた私は、Aに言ってしまいました。
「夜中、妙な時間に起きてない?足音が部屋まで聞こえてくるんだけど?」
すると、Aの顔からなぜか血の気が引くのが分かりました。
「ああ、聞こえていたか・・すまん。今日は、部屋を変わってくれないか?」
と、妙なことを提案された私は、
(ああ、Aは自分のベッドじゃないとなかなか眠れないタイプで、俺の部屋のベッドも試してみようとしてるんだな。なら早く言えばいいのに…)
と思いながら、部屋の変更を承諾。
今から思えば、スタッフにAの部屋を変えてもらうように言えば良かったと後悔していますが、この日は6日目の最終日でしたし、わざわざスタッフに言う程の事でもないなと思ったんですよね。
こうして6日目の夜に、私はそれまでAが宿泊していた角部屋に泊まることになったのです。
その夜、ドアが閉まる音で目が覚めました。
(あれ?彼女でも来たか?あいつに合い鍵渡してたっけ?)
寝ぼけていた事もあり、そんな事を考えながらウトウトしていました。
ですが、意識がハッキリするにつれ、この異常性に気が付きました。
(あれ?ここ家じゃないし…ていうか俺、ドアのカギ掛けたぞ…もしかして、ホテルスタッフが入ってきたのか?)
焦る頭でそんなことを考えていると、誰かが部屋の中を歩いている気配を感じるのです。そして、その気配がそのままゆっくりと、私の眠るベッドに乗ってきました…
私は横を向いて眠っていたのですが、その気配は私の背中にピッタリ張り付くような感じで寄り添ってきます。
(これはヤバイ!)
そう思って起き上がろうとするも、体はまったく動きません。
(金縛り!?)
それに気づいた瞬間、背後から女性の笑い声が聞こえてきました。
『お前はもう逃げられないんだよ!』
という悪意が込められたような不快な笑い声です。
何度も起き上がろうとしますが、体はまったく動きません。
背中からは寒々とした気配を感じます。
(これはまずい…Aの顔色はこのせいだったのか…)
(こんな時どうすればいいんだ?とりあえず…)
私に出来る事は、頭の中で念仏を唱える事だけでした。
そのまま私は意識を失い、気が付くと朝になっていました。
その朝、Aと会うと、私の顔色から分かったんでしょうね。
「…すまん。俺の気のせいかもしれないと思ったが、違ったか…」
そんな風に言われました。
この体験を期に、私は心霊というものを信じるようになったのです。
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