体験場所:東京都浅草
何年前だったかは忘れてしまったのですが、家族でお墓参りに行った時の話です。
コロナ禍もあり、この何年かはすっかり足が遠のいてしまっていましたが、以前は月命日の度に行ったりと、私の実家は割とお墓参りに行く家だったんじゃないかと思います。
その日もお墓のある浅草のお寺さんに到着すると、いつものようにご住職とそのご家族にご挨拶をし、本堂でのお参りも済ませ、さてお墓の掃除をしよう、となった時のこと。
なんせ都内のお寺の墓地です。
お墓が並んでいるところの道が、ものすっごく狭いんです。
人ひとり通るのがやっと、どころか、もしかしてふくよかな人は通れないのでは……と思うくらいで、そんな狭いところで墓参りするものですから、一度祖母の上着にお線香の火が燃え移って慌てて消したり、なんてこともありました。
そんな道の狭い墓地なので、本当にあるお墓参りのお作法なのかどうかは分かりませんが、私の実家では、「お墓では一方通行で進まなくてはいけない」「後ろに戻る時は、そのまま進んで出口を出て、もう一度入り口から入ってこなくてはいけない」というルール(?)があって、それを律儀にみんな守っていました。
そうやってものすっごく狭い道を出たり入ったりしながらなので、ただお線香の灰を片づけて、水を替えて花を活けるだけでもずいぶん時間がかるんです。
更にうちは祖父と祖父の弟の折り合いが悪かったため、お墓が二つに分かれていたこともあり(祖父の代で新しく別のお墓を建てた)、一度の墓参りで30分~1時間くらいはゆうに掛かっていたように思います。
そんな墓参り中のことでした。
母と伯母がお線香の灰をほうきとちりとりで掃く横を通り過ぎ、私は手桶に水を汲みに行きました。
このくらいあれば大丈夫だろう、というところまで手桶に水が溜まったあたりで、ふと、自分の後ろに誰かが並んでいることに気がつきました。
「すみません」
と言いながら脇によけ、しかし……
振り返るとそこには誰も立っていませんでした。
ぼやっと誰かいたような気がして、なんとなくその背格好も記憶にあるんですが、よくよく考えてみれば自分の背中の向こうに立つ人の姿が見えるわけがありません。
ただ、場所が場所だし、もしかして……見てしまったのかも……?と思いながら、お墓を掃除している家族の元に戻り、早速さきほど見たような人影のことを話しました。
「灰色のスラックスに、黄色いポロシャツを着ててさ。背中越しなのにそんなに細かいところまで見てるのもヘンだよねえ?」
すると伯母が、「もしかしてお父さんじゃない?そういう服よく着てた気がするよ。帰って写真見てみようか」とか言うので、みんなして「おじいちゃん寂しかったのかねぇ~?お盆でもないのに会いに来てくれたのかねぇ」なんて呑気なことを言っていたのですが……
墓参りを終えて家に帰った時のことでした。
なんと留守番をしていた私の弟が倒れているではありませんか。
みんな大慌てで救急車を呼ぶやら病院へ行くやらで、そのあとは大変な騒ぎになりました。
書き添えておくと、弟は無事で、今も元気に過ごしています。ご安心ください。
今では家族の間で、私が墓場で見た?謎の人影のことを、「あれは祖父が早く帰れ!と知らせてくれたに違いないね」ということになっています。
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