体験場所:岐阜県G市
小学生の頃、私が通っていた小学校では4年生以上の高学年を対象に、毎年学校行事で1泊2日のスキー教室が行われていました。
短い時間とはいえ、親元を離れてみんなで寝泊まりするのはドキドキしました。
スキー自体はもちろんのこと、恒例行事のすき焼きに温泉やお楽しみ会、それに少し夜更かししてみたり、そんな全てが楽しみな学校行事だったのですが…
これは小学五年生の時のスキー教室での話です。
去年の楽しい時間をもう一度、と言わんばかりに浮かれながら晩御飯のすき焼きを食べていた時のこと。
仲の良かったクラスの女の子が、部屋に忘れ物をしたから取りに行くのに付いて来て欲しいと私に声を掛けてきました。
泊まっていた民宿は少し古く、確かに1人で部屋に行くのは心細かったのでしょう。なので私は快く付いて行ってあげることにしたのです。
ほとんど学校の貸切状態になっている民宿。
みんなは食堂で晩ご飯中なので、廊下に並ぶ宿泊部屋の戸は全て閉まっています。
そんな中を二人で横に並んで歩くのですが、赤黒いフェルト生地が敷かれた廊下は、歩くごとにギシギシ音を立てながら私達の居場所を伝え、水色の壁は薄暗い蛍光灯に照らされることで一層青白く見えました。
なるほど、確かに1人では怖いです。
ただ、怖いと言っても少し不気味というだけで、何か心霊的ないわくがあるわけではありませんし、長年お世話になっている民宿ですが生徒達の間でも特にそういった噂話も出回っておりません。
ただ、二人だけで使うにはその廊下は広すぎて、とにかく私たちは足早に部屋を目指すだけでした。
誰もいない廊下をそそくさと部屋に向かって歩いていると、突然でした。
ハッキリと聴こえたのです。
「あなたは何歳?私は6年生」
それは良く通るアニメのような声でした。
私たちはギャグ漫画のように顔を見合わせ、そのまま2秒の沈黙。
次の瞬間、忘れ物のことなんか忘れ、私たちは悲鳴を上げながら食堂へ向かって駆け出しました。
錯乱した様子で食堂に駆け込んできた私達を見て、驚いて最初こそ心配してくれたたクラスメイト達も、事情を話すと鼻白んだ顔して誰も相手にしてくれません。
「気のせいでしょ?」
「テレビの声じゃないの?」
そう言って笑い飛ばされるばかりでしたが、いえいえ、もう一度言います。
民宿は私たちの学校のほぼ貸し切り状態です。
そのみんなが食堂に集まっていたのだから、廊下に並ぶ宿泊部屋には誰もいるはずがありません。
それに部屋の扉は全て閉まっていたのだから、仮にそのどこかの部屋でテレビが付いていたとしても、大音量でも音はこもるはずです。
ですが私達が聴いた声は今思っても、目の前でそこそこ良い機材を使って再生されたようなハッキリと良く通った声でした。
それに、私には学校の誰かの仕業ではないという確信がありました。と言うのも、私の学校は人数が少なく、先生を含めてもあんな声優並みのハキハキしたアニメ声の持ち主なんか誰一人いないことを知っていたからです。
ですが、クラスメイト達が全く信じてくれないのも分かります。
だって、言ってる自分たちも訳が分からないのですから。
結局、この事件について誰にもまともに取り合ってもらえないまま、私たちは黙ってもう一度すき焼き食べ始めました。質の低いドッキリの仕掛け人扱いされるように、周囲からの冷たい視線を感じながら…
しかし、2人が聴いたセリフが全く同じだったことを考えても、その声が聞こえたという事実は間違いないはずです。
ですが、いくら不自然な状況が出揃っていても、テレビの声だったという説は捨て切れませんでした。
でも、もしテレビの音だったとして、それなら前後のセリフやBGMとか、他に何かしらの音が続くはずですよね?
でも私たちが聴いたのは、
「あなたは何歳?私は6年生」
このアニメ声の一台詞だけ。
それ以外は全く何も聴こえなかったのです。
後で思い付いたのですが、もし本当に何かのアニメのワンシーンだったとして、検索したらなんでも出てくるこのご時世。私はあのセリフをそのまま検索してみました。
ですが、該当するような作品が検索結果に出てくることはありませんでした。
大人になった今も、あの時のことが不思議でたまりません。
状況は心霊現象として完璧なのに、それに見合わないアニメ声。
本当に不思議な体験でした。
もしかしたら、イタズラ好きの声優さんの霊?とかだったのでしょうか…
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