
体験場所:神奈川県藤沢市の海岸
若いころ、私はドライブが好きでした。
湘南に住んでいたため、ドライブコースとして人気の国道134号線をよく走っていました。この道路は海沿いに伸びており、海岸の向かいにはおしゃれなお店が並んでいます。それに真っすぐに伸びているところも多くて、ドライブにはもってこいの道でした。
しかし、日中は観光客の車で混むため、私はあえて深夜に出かけることも多く、そんな時は自分と同じように車好きの友人と予定を合わせ、深夜のドライブを一緒に楽しんでいました。
普段はドライブを楽しむだけなのですが、その日は友人の一人が「砂浜に降りてみようよ」と言うので、藤沢の海岸沿いに車を停め、砂浜に降りました。

深夜の砂浜、波の音だけが静かに聞こえます。
当然のことながら海水浴客などはおらず、昼間の賑わいとは全く雰囲気が違います。
ここが海だと実感できるのは、波の音と砂浜の感触だけ。周りは真っ暗で何も見えません。
遠くに点々と建物の灯りが見え、徐々に暗闇にも目が慣れてきました。薄っすらと暗い海の上に水平線も見えるようになりました。
海は非常に穏やかで、それがとても心地よくて、私も友人たちも声を出さずにその余韻を楽しんでいました。
さらに目が慣れてきたころ、沖の方に何か見えました。
「あれは何だろう?」
そう思って海辺に近付いてみると、それが海面を水平方向に向かって長く伸びているのが分かります。ものすごい長さです。
さらに波打ち際のぎりぎりまで近づいてみて、その正体が分かりました。

人間でした。
無数の人間が、こちらに背を向ける形で海に立ち、水平方向にものすごい長さで、きれいに整列しているのです。

足の膝くらいまで海に浸かっている無数の人間。遠目であるためか、整列している人たちの身長はみな同じくらいに見えます。というか、岸から遠く離れたあの辺の水深って、あの程度なのだろうか?
そもそもあれらが人であることが分かっても、全く状況は理解できません。
「なんだ…あれ…?」
気味の悪いおかしな光景に暫し呆然としてしていた私は、ハッとして、
「…あそこに、人がいるの、見える?」
と、一緒にいた友人に聞きました。
「見える…」
一言だけ返事が返ってきます。
よく耳を澄ますと、波音に混じってわずかに聞こえる程度、あの整列した人たちがなにか声を発しているのが分かります。ブツブツブツブツ何かを呟いているような感じ。

何を言っているのかは分かりませんが、さすがに怖くなりました。
(もし、あの大勢の人が一斉にこちらを振り向いたら、一体どうなるのだろう…)
そんな思いが私の頭をよぎりました。
おそらく友人達も同じ思いだったのでしょう。
「…戻ろう」
友人の一人がボソッと言うと、みな無言で車に戻りました。
後日、同じメンバーであの夜見た光景について話すと、
「海で整列していた人たちはみんな杖のようなものを持っていた」
「みんな同じ服を着ていた」
「彼らが乗ってきた車などは周辺には見当たらなかった」
など、あの日の光景について冷静に思い出されるのですが、結局、あれが何だったのかは判然とせず…
最終的に『何かの修行に来ていた人たち』という結論にまとめ、無理に自分たちを納得させたのですが、どことなく、誰もが意図的に『幽霊』という言葉を避けていたのも確かだったと思います。
結局あれは何だったのでしょうか?
深夜の異様な光景。藤沢の海の向こうに整列する無数の人間。
今思い出しても、何となく寒気を感じる奇妙な光景でした。
もし、あの藤沢の海のあの光景をご存じの方がいたら、一体あれが何なのか教えて欲しいです。
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