【怖い話|実話】短編「謎のお香」人間が一番怖いと思う話(東京都)

【怖い話|実話】短編「謎のお香」人間が一番怖いと思う話(東京都)
投稿者:オオモリ さん(40代/男性/会社員)
体験場所:東京都新宿区西新宿

これは私が10年ぶりに高校時代の友人と偶然再会した時の話です。

今から3年ほど前、私は新宿に買い物に来ていました。電化製品など色々と物色したのですが、結局値段に納得できず、何も買わずに帰ることにしました。

新宿駅に着き、小田急線で自宅に帰ろうとしていると、改札付近で「◯◯君」と突然誰かに声をかけられました。振り向くと、そこには高校時代の友人A君がいました。

A君とは10年ぶりの再会でした。前に会ったのは確か数人の友人で集まった時だったと記憶しています。

私は懐かしさと嬉しさで「久しぶり」と声をかけると、「だね」とA君は明るく返してくれました。「どうしたの?こんなところで?」と聞くと、A君は「ウチ、すぐ近くなんだよね」と言います。私は何だかA君の現状が気になってしまい、「今から、家行ってもいい?」とダメ元でお願いしてみました。するとA君は「別にいいよ」と快く答えてくれました。

新宿駅の外に出ると、「ここからバスに乗るんだ」とA君に促されるままバスに乗車。7分ほど行った先の停留所でA君は停車ボタンを押しました。降り立ったのはどこにでもありそうな普通の住宅地。そこを少し歩いた先に、A君の住むマンションがありました。

「ここの3階」とA君は事もなげに言います。私からすると新宿のマンションに住むなんてハードルが高すぎて考えたこともありません。「ここってやっぱり家賃高いの?」と聞いてみると「そんなに高くないよ」とA君はあっけらかんと答えました。

私はとにかく家賃について気になってしまい、しつこく「いくらなの?」と畳み掛けると、A君はあっさり「6万円」と答えたのです。意外すぎました。(この立地でこの建物だったら普通に10万円とか軽く超えそうだけどな…)と、私はちょっと不信に思いました。

マンションのエントランスを抜けてエレベーターに乗り込み3階に到着。A君が部屋の扉を開ける時、私は少し身構えました。家賃の安さから想像するに、そういった物件かもしれませんから。

中に入ると、第一印象としては特に変わった様子はありませんでした。それどころか普通に綺麗な1LDKで、男の一人暮らしとしては合格点です。

「リビングに座って適当にくつろいでてよ」

そう気遣ってくれると、A君はお茶を沸かしにキッチンへ。A君の部屋に興味津々の私は、その間も飾ってあるものなどを物色。リビングの片隅に本棚があったので、A君がどんな本を読むのか色々見ていると、やたらと自己啓発の本が多いことに気が付きました。

「A君ってこういう本読むんだ?」

キッチンにいるA君にそう声を掛けると、

「この部屋に引っ越してきてから、なんだか落ち込むことが多くてね。だから少しでも前向きにならないと、ってね」

そんなことをA君は言います。

(この部屋に引っ越してから落ち込むことが多い?それってもしや…やっぱりここって…)

私はこの部屋の家賃が異様に安い理由が分かった気がしました。

『事故物件』

その可能性が否応なしに私の中で高まっていきました。実は都内には結構な数の事故物件が存在するということを、何かで聞いたことがあったので。

そうこうしていると、A君がキッチンからお茶を持ってリビングに戻ってきました。
なんだか改めて見ると、10年ぶりに会うA君は以前より少しやつれたように見えます。

久しぶりにA君に会って舞い上がっていた私の感情も、事故物件に住んでやつれてしまった本人を前にどこか冷めてしまったようで、それどころか、むしろ10年のブランクのせいで部屋全体によそよそしい気まずい空気が流れました。(何か話をしないと)咄嗟にそう思い、私は他愛ない世間話や共通の知人の話などをして間を繋げました。

すると、30分くらい経った頃でしょうか。

「お香焚いていい?」

突然A君はそう言って立ち上がりました。

「えっ、そんな趣味あったっけ?」
「知り合いから貰って、それ以来ハマっちゃったんだよね」

そんなやりとりをする間にも、手慣れた様子でお香を焚くA君。次第に独特の匂いが辺りに漂い、私は不思議な感覚に襲われました。

数分後、私はなんだか頭がボーっとして気分が悪くなってしまい、ひとまずベランダに出ました。新鮮な空気を吸い、しばらくしてようやく冷静になれた私は、帰るタイミングを失っていることに気が付きました。というか早く帰りたいと思いました。

部屋に戻りA君に「そろそろ帰ろうかな」と伝えました。するとA君は何故か焦った様子で、「え?え?もう帰るの?じゃ、じゃあこれお土産、これあげる!」そう言って謎の紙袋を差し出されました。その場で中を確認したかったのですが、「失礼かな」と思い、A君の部屋を出るまで袋は開きませんでした。

部屋を出てエレベーターに乗っている時、お土産にもらった紙袋を開けてみると、中にはおそらく先ほどA君が使用していたであろうお香が入っていました。お香のパッケージを確認すると、それはどうやらタイのお香らしく、箱には馴染みのない文字が沢山羅列されていて、なんだか急に気味が悪くなりました。

ふと腕時計を見て時間を確認すると、A君の部屋を訪ねてから3時間も経過していて驚きました。私の感覚としては1時間も経っていないつもりだったので、本当に不思議です。というか怖いです。

新宿駅から電車に乗り、自宅に向かう間もずっとA君からもらったお香のことが気になって仕方がありませんでした。あの独特な匂いが本当に苦手で、たぶん一般的にも決して良い香りではないと思います。A君には悪いと思いましたが、数日後にそのお香は捨てることにしました。

なぜA君はあんなお香にハマったのか?
そして私の前であのお香を焚いた事に、何か作為的なものはなかったのか?
それにあの物件に住み続けていて、A君は本当に大丈夫なのだろうか?

10年ぶりに再会したA君が謎すぎて、今は少し気味の悪い再開だったように感じ、ここに書いてみました。

あれ以来、今のところA君とはまだ会っていません。

コメント

タイトルとURLをコピーしました