【怖い話|実話】短編「墓猫」不思議怪談(東京都)

【怖い話】不思議実話|短編「墓猫」東京都の恐怖怪談
投稿者:渡邉文雄(10代/男性/学生)
体験場所:東京都台東区寛永寺、谷中霊園

2016年の冬のことだった。間違いない。高校受験の真っ只中だったからよく覚えている。

私は東京上野の公立中学に通っていた。
徳川将軍が何人か眠る寛永寺の隣、静かな上野の山のど真ん中にある学校だった。

その上野の山のふもとから、桜の美しい谷中霊園を通って校門をくぐる、それが私の通学路だ。
自慢の通学路だった。春は満開の桜を眺めながら登校出来たし、霊園の出口のところにあるケーキ屋に入るとサービスでうまいレモネードが飲める。そして何より私の好みだったのは、霊園内のあちこちに野良猫がいたことだった。これがたまらなく嬉しかった。

「おい、毛、付いてるぞ」

朝の八時前に家を出て、墓石の上の野良猫を撫で回し、校門の前で腹の出た中年教師にそんなことを言われる。これが一番の楽しみだった。

通学路の話に戻ろう。
静かな学校に見合った小さな校門、その前を静かな道路が横切り、その左右から塀伝いに生徒が登校してくるわけだが、私が使っていた右側の通学路には、禁止されている近道があった。

寛永寺の境内を通るルートだ。
測ったことはないが、おそらく三十秒くらいのショートカットになるはずだ。

普段は使ったところで仕方のない道だ。三十秒でどうにかなる程度の遅刻なら走ればいい。しかも抜き打ちで教師が監視している。この教師が寺の入口ではなく出口に立っているものだから質が悪い。入口に立っているなら近道を使わなければいいだけだが、出口にいられると近道を使った時点で確実に捕獲されるだけ。

そんなわけで生徒はまず誰も使わなかった。
私もそれまで使ったことはなかったのだが…

私は普段の登校時、遅刻を免れるのが難しい時は「まあ、いいや」と開き直って諦めるのだが、その日は珍しく焦っていた。終業式だったからだ。

いや、式典自体には全く興味はないのだが、終業式当日に遅刻か欠席をすると、通知表を書き直すために残される。それが嫌で嫌で仕方なかった。

「ごはんは?」
「いらない」

終業式の日の朝、家族との会話はそれだけで、靴紐も結ばず焦って家を飛び出した。
高架橋を駆け上がり、JRの線路の上を通って霊園に入る。

その日は猫を見なかった。

ケーキ屋のあたりで時計を見る。八時十ニ分か十三分だったと思う。十五分になると遅刻確定だ。
ちょうど青だった横断歩道を渡り、そのまま私は正規の通学路を行かずに寛永寺の裏門に突っ込んだ。初めてのショートカットだった。

境内では綺麗に頭を丸めたお坊さんが丁寧に枯れ葉を掃いていた。それだけの景色だったが、なぜか私は寒気がして一層足を早めた。

「遅いぞ!」

無事に時間内に校門をくぐったところで、腹の出た中年教師がムッとして言った。

間に合った。
いや正確には予鈴に間に合ってはいないのだが、通知表を受け取る上での支障はない。

肩で息をしながら教室へ入り、うたた寝しながら式をやり過ごし、良くも悪くもない通知表を受け取る。
それで終わりのはずだった。

帰り道、猫が死んでいた。
墓の上で二匹。

二匹とも遺骸をどかすと、下の墓石は温かかった。冬の寒空の下でも熱を感じるのだから、よほど近い時刻に死んだのだろう。私は沈んだ気持ちで家に帰った。

その日から、冬休みの間は霊園に入らなかった。
静かな上野の山には学校以外に中学生が行くようなところはないし、なにより受験勉強で家にこもりっぱなしだったからだ。

そのまま二匹の猫の死の記憶は英単語の海に埋もれ去り、始業式の日を向かえた。

その日は時間に余裕もあって、のんびり登校した。

運良く墓石の上で猫を見つける。
綺麗な茶トラで、本当に野良猫か疑わしいくらいスタイルがよかった。

猫は目を開けたまま微動だにせず、どこか一点だけをジッと見つめている姿は少し不気味ではあったが、久しぶりの登校で早速学校で自慢するネタが出来たと思い、私は猫の頭を撫でようとした。

「うわっ」

思わず声が出た。
冷たくて硬かった。
慌てて後ずさりし、歩道の縁に踵を引っ掛けて尻餅をついた。
痛みで目を瞑り、開く。

目があった。
瞳は綺麗な翠色だったが、濁っていた。
すぐに逃げるようにして学校へ向かった。

全く自慢話にはならないが、とにかく怖くて、会う人会う人に終業式の日の二匹のことと一緒に話して聞かせた。

「憑かれてるんだよ。お前」

そう言ったのは、社会の先生だった。

「何に?」

「徳川」

なんとなくそこで色々繋がった気がした。

「寛永寺には六人の徳川家将軍が眠ってるだろ?お前が通学で通る谷中霊園は慶喜だから、寛永寺の六人からしたら家を途絶えさせたやつってことで、恨まれてるんだろう。六人だから、あと三匹だな」

その場では笑い話になったが、私は笑えなかった。
私は知っていたから。夜の霊園で、立入禁止の一際立派な墓に、光る猫の目が向かうのを。

その日から、私は霊園にも寛永寺にも入らなくなった。
大学生になった今も、霊園の中では猫の亡骸に出会う気がしてならない。

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