他県場所:高知県高知市の小学校
私は両親の転勤で二度ほど小学校を転校したことがあります。
ただ、一度目の転校先の小学校は通ったのが本当に短い間だけで、実質1年も通っていなかったと思います。
しかしその学校で、私はなんとも気味の悪い奇妙な体験をしてしまいました。
その一度目の転校をしてしばらくの間は、私はクラスメイトに囲まれる人気者でした。
転校生ってこういうちやほやされる時期があるのです。
前の学校のことなど根掘り葉掘り聞かれたり、一緒に遊ぼうと連れ出されたり、しばらく私はみんなの興味の的になっていました。
そんな私を遠巻きに見守ってくれていたのが、ミヤちゃんというクラスメイトの女の子でした。
眼鏡をかけて、ちょっと大人しそうな外見なのですけど、クラス委員長をしていたこともあり、私がクラスメイトに囲まれて矢継ぎ早な質問に困っていると、ミヤちゃんがみんなを注意してくれたりして、転校生の私を気遣ってくれる優しい子でした。
私が授業で困っていたりすると、「なんか分からんとこある?」と聞いてくれたり、授業についていくのが大変だった時には、放課後に図書館に誘ってくれて勉強を教えてくれたりという事もありました。
ミヤちゃんの親切のおかげで私もどんどんクラスに馴染んでいけたし、本当に気の利く優しい子だなと子供ながらに感心してしまうほどで、できればこの子ともっと仲良くなりたいなと私は思っていました。
でも、私は自分から声をかけるのは控えました。
なぜならミヤちゃんには、いつも連れだって一緒にいるクラスメイトがいたんです。
それはミチエちゃんという女の子でした。
その子はミヤちゃんとは違うタイプで、活発そうな見た目の綺麗な子でした。
私とミヤちゃんが親しげに話していると、いつもミチエちゃんが邪魔をしてくるのです。
その度に何だか変な空気になってしまい、私はミヤちゃんとの仲がなかなか縮められない事をもどかしく思っていました。
そんな風にして、その学校で半年くらい過ごし、ちょこちょこと仲の良いクラスメイトも出来てきた頃でした。
その日、ミヤちゃんが珍しく欠席したのです。
どうしたんだろう?とミヤちゃんの席を見ながら考えている時でした。急にバタバタと教室に入ってきた先生が、ミヤちゃんが昨日亡くなったことを伝えたのです。
突然の話に教室中がシーンとなりました。
は?どうして?…え?と、なかなか理解も感情も追いつけないでいると、一部からぐずぐずとすすり泣く生徒の声が聞こえてきて、それがみんなに伝播した頃には教室中が悲しみに暮れていました。
ミヤちゃんは、家の傍を流れる川で溺れて亡くなったそうです。
ただ、その死亡推定時刻は、いつもなら塾に行っているはずの時間らしく、なぜそんな時に川にいたのかは分かっていないようでした。
しかし、警察は事故だと断定。塾をサボって川の近くをうろうろしていた時に足を滑らせ、打ち所が悪くてそのまま川でおぼれてしまったのだろうと推定されたようでした。
先生からミヤちゃんの訃報を聞いた後、その日の休み時間かに流れ聞いた話なのですが、遺体で発見されたミヤちゃんはあるものを握っていたそうなのです。
それは、『赤いミサンガ』。
その噂はどこまで信じていいものなのかは分かりませんでしたが、すぐにみんなの間に広まったようでした。
みんなは噂を聞いて、「なんでミサンガ?」とピンときていない様子でしたが、私はすぐにミヤちゃんといつも一緒にいたミチエちゃんのことを思い出しました。
いつもミチエちゃんが左手に赤いミサンガをしていたのを覚えていたから。
私はその噂を耳にして、その日はじめてミチエちゃんの方を振り向きました。
ミヤちゃんが死んで誰よりも落ち込んでいるはずのミチエちゃんですが、私はその時見てしまったのです。
自分の席に座っているミチエちゃんが、ニヤニヤ笑っているのを。
私はぎょっとして、そのまま呆然とミチエちゃんを見ていました。
向こうも私の視線に気が付いたのか、次の瞬間、ミチエちゃんと目が合いました。
その時の彼女の顔を、私は今も忘れられません。
ニンマリとした気味の悪い笑顔を私に向け、ミチエちゃんは左手を上げてその手首をくねくねとこちらに見せ付けました。
手首には、いつもしていたはずの赤いミサンガがありませんでした。
私は見てはいけないものを見てしまった気がして、思わずスッと視線を逸らしました。
それからしばらくの間、私は席に座ったまま下を向いて震えていました。
ミチエちゃんの歪んだ笑顔があまりにも不気味だったから。
でも、この話で一番奇妙だったのは、実はそのことじゃないんです。
その日の放課後、ミチエちゃんが帰ったのを確認した後、私は今日のミチエちゃんの様子をクラスの友達に伝えました。
あんなにミヤちゃんと仲良くて、いつも一緒にいたミチエちゃんが、ミヤちゃんが死んだのを聞いて笑っていたと。
一緒にミチエちゃんの悪口を言いたかったわけじゃないんです。ただ、ミチエちゃんの一連の行動が理解できず、それどころか不気味にすら思い、私はそれを自分の中だけに仕舞っておくのが怖かったんです。
でも、私の話を聞いたその友達は、変な顔して気まずそうにこう言いました。
「…あのさ…みちえちゃんって、誰?」
私は驚きました。
なぜこの子はクラスメイトのミチエちゃんのことを知らないのか。転校生の私よりずっと長い時間一緒のクラスにいるのに。
「ミヤちゃんと仲良かったミチエちゃんだよ!」
私はそう言ってミチエちゃんの見かけや特徴を説明したのですが、その子はなぜかミチエちゃんのことを全く知らないようなのです。
どうして分からないのだろうと、私はなんだか不安になって、他の子にもミチエちゃんのことを聞いて回りました。
その結果、誰一人としてミチエちゃんという女の子のことを知りませんでした。
私は混乱しました。
どうして誰もミチエちゃんを知らないのか?
担任にまで確認しに行って、そんな子は知らないと言われると、クラス名簿まで見せてもらって、私は認めざる負えなくなりました。
このクラスにミチエちゃんなんて名前の女の子はいないことを。
それじゃあ私が知っているあの子は一体誰なのか…
その後、クラスメイトから聞いた話では、ミヤちゃんは大人しかったためか、友達といえるような親しい子はいなかったそうです。
でも、私がそれまで見てきたミヤちゃんのすぐ横には、必ず「ミチエちゃん」という友達がいました。
そのせいで、私はミヤちゃんと親しくなれなかったのですから。
でもそれ以来、ミチエちゃんという女の子を見ることはありませんでした。
ミヤちゃんも亡くなってしまい、一体ミチエちゃんとは誰だったのか知る術もないまま、その後、私は両親の仕事の都合で再び転校しました。
今でもあの奇妙な出来事を思い出し、心臓がドキドキすることがあります。
もしかしたらミヤちゃんの死には、私以外の誰も知らないミチエちゃんという女の子が関わっているのかもしれない、と、私は今でも疑っています。
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