【怖い話|実話】短編「握り寿司」不思議怪談(長野県)

【怖い話|実話】短編「握り寿司」不思議怪談(長野県)
投稿者:たーたん さん(30代/女性/主婦)
体験場所:長野県I市K駅

今思い返しても、あの時の出来事はちょっと不思議な体験でした。

医療系専門学校の卒業を控え、卒業論文の提出や就職活動の真っ最中でのことです。

私は地元での就職を強く希望していました。しかし、地元では求人がほとんどなく、仕方なく同県内ではありますが遠く離れた縁もゆかりもない町の病院を受けることになりました。

試験の前日、その日のうちに現地入りしなければ明日の試験時刻に間に合わないため、その日は実習先の先生にお願いして1日休みをもらい、私は試験会場がある町へと向かいました。ところが、その日とんでもない大雨に振られてしまい、電車が遅延。普段でも3時間かかる道のりが、途中の無人駅で何度も足止めされ、結局、現地の最寄り駅まで到着するのに7時間もかかってしまいました。

それでもなんとか夕方には試験会場のある町に辿り着きましたが、駅からホテルまでの道中も大雨です。荷物の入ったキャリーケースも、それを引く手もびしょ濡れで、傘を差していてもスーツや靴の中までぐっしょりでした。ようやくホテルにチェックインした頃には全身疲れ果て、「なんでこんな遠くまで来ちゃったんだろう…」って本気で思いました。

翌朝は小雨になっていました。
少しでも試験での印象を良くしようと、持ってきたリクルートスーツにアイロンをかけ、ホテルを出ました。1人でトボトボと慣れない道を歩きながら、目的地に辿り着けるのか本当に不安でした。なので試験会場の病院が見えた瞬間は心からホッとしました。

集団面接は淡々と進み、質問にも一通り答えたけど、手応えは全くありませんでした。面接官の表情からも結果は期待できないと思いました。「これは、次を考えなきゃ…」と、帰り道は肩が重くて、傘の柄を握る手に力が入りませんでした。

病院から最寄りの駅に向かい、ベンチに座って電車を待っていた時のことです。
ふと隣にお婆さんが腰を掛けました。するとそのお婆さんはスーパーの袋をガサゴソしながら、私に声をかけてきました。

「これ、食べな?」

と、お婆さんは笑顔で何かを差し出してきました。
ふと見ると、お婆さんの手には握り寿司のパック。しかも大トロなどの高価なネタばかり入っていました。

びっくりして「いえ、大丈夫です」と慌てて断りましたが、お婆さんはにこにこ笑って、優しくこう言いました。

「あなた、この地にずっといることになるんだで。いいから、受け取りなさいな」

その言葉に一瞬、時が止まった気がしました。
“ずっといることになる”とはどういうことなんでしょうか…?

もちろん初めてきた土地で、初めて会う人にそんなこと言われる筋合いもありません。けれど、不思議とその笑顔に逆らえなくて、結局ありがたく握り寿司のパックを受け取りました。

ベンチで一人、割り箸を割り、お寿司をつまみました。
その日の気温も相まって冷たかったけど、やさしい味がしました。

お礼を言おうと顔を上げたら、もうお婆さんの姿はありませんでした。
一瞬、夢だったのかな?と思いましたが、そんなはずはありません。私の膝にはぽつんと握り寿司のパックが乗っているのですから。

それから数週間後、病院から合格通知が届きました。
信じられず、まさかと思いました。あんなに手応えなかったのに。嬉しい反面、信じられないという思いのまま国家試験の勉強を続け、なんとか無事に合格できました。

春、私はその病院に就職しました。

私はどうしてもあのお婆さんにお礼が言いたくて、就職後も何度もあの駅に行きましたが、結局お婆さんに会うことはできませんでした。

今思えば、あのお婆さんは「この土地で働く私」を知っていたような気がします。詳しい理由は分かりませんが。

ただ、確かに言えるのは、あのお婆さんがいなかったら、私はこの場所で働いていなかったかもしれないということです。前日の移動で散々な目に遭いながら、ようやく臨んだ試験でも手応えが感じられず、もしかしたら他の就職先を探していたかもしれません。でもあの時、あのお寿司の温かさ、お婆さんの優しさに救われて、試験の結果を待つことができたんです。偶然の出会いにしても出来すぎのような話ですが。

この土地で仕事を続けている今も、雨の降る日はふとあの出来事を思い出します。

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