体験場所:高知県室戸市 祖父の家の近くの川
あれは私が小学生の頃の話です。
私の父と母は共働きで、私はよく高知県室戸市にある祖父の家に預けられることが多かったんですよね。
祖父の家は周囲を田畑に囲まれた自然豊かな場所で、正に田舎という感じのところでした。
あの頃は、学校が終わると祖父が迎えにきてくれて、私はそのまま祖父の家で預かられ、夜になると父か母が迎えに来てくれるという日々を過ごしていました。
祖父の家ではよく近所の子と4~5人で集まって遊んでいました。
ちょうど真夏だったその頃は、私たちはよく近くの川に泳ぎに行って遊ぶことが多かったんです。
周りを藪に囲われた川で、私たちはそこでひっそりと子供たちだけで遊んでいました。
その日もみんなで川に行き、潜って魚を探したり、どっちが先に岸に着くか競争したり、ちょっと高いところから飛びこんでみたり、キャッキャと楽しく遊んでいました。
「痛い!」
急にA子ちゃんが小さく叫ぶように声を上げました。
(どうしたんだろう?)
と思って近づいてみると、A子ちゃんは左足を抑えたまま驚くほど震えています。
「ちょっと、どうしたの?」
と、慌てて理由を聞くと、
「水の中で、誰かに足を引っ張られたの…」
ってA子ちゃんが震える声で言うんですよね。
確かにA子ちゃんの左足のふくらはぎの辺りには、何か強い力で掴まれたような真っ赤な痣ができていて見るからに痛そうです。
ですが、私たちはすぐに察しました。
(またBちゃんのイタズラか・・・)
私たちの中には、そんなことをやりそうなイタズラ好きのBちゃんがいました。
「イタズラにしてはやりすぎだよ!」
私たちはみんなでBちゃんに疑いの目を向けました。
しかし、当のBちゃんは、何を言われているのか分からないといった風にキョトンとしています。
それに被害者であるA子ちゃん本人がこう言うんです。
「違う。Bちゃんじゃない子…」
詳しく聞くと、A子ちゃんが言うには、それは髪の長い子だったそうなのです。
そして異様に力が強かったと…
「水中で藻掻いても藻掻いても全然離してくれないの…」
そう言って、A子ちゃんは目に涙を浮かべて震えていたのですが、正直、私たちはピンときていませんでした。
だって、私たちの中に髪が長い子なんていなかったから…
むしろその事実が急に気味悪く思えてきて、私たちは一斉に川から上がりました。
得体の知れない何かを怖がっているA子ちゃんを見て、子供ながらにその異様さを感じ、いつもより早かったのですが私たちは帰ることにしたんです。
でもやっぱり子供ですから、先ほどのことはすぐに忘れ、結局、誰かの家に寄ってワイワイ遊んでから家に帰ったんです。
その翌朝のことです。
私はパジャマを脱いでギクリとしたんです。
私の左足にも、A子ちゃんと同じ場所に痣があったから…
まるで強い力で握られたような手形の痣。
気が付かないうちにこんな痣が出来ていたことに寒気がしました。
もしかしたら他の子たちにも痣が出来ているのだろうか?と気になったのですが、結局それは聞けないまま、それからしばらく私は家庭の都合で祖父の家には行かなくなってしまいました。
痣はしばらくすると消えていましたが、一体どうやって出来た痣だったのか…記憶を辿ってみても思い当たる節がありませんでした。
あの日、A子ちゃんが言っていた髪の長い子が本当にいたとして、私もその得体の知れない何かに足を引っ張られていたのでしょうか…
そんなものを見ずに済んで良かったのかもしれませんが、真相は分からないままですし、大人になっても思い出す度に背筋がゾクッとする思い出・・・だったのですが…
その数年後、少し大人になったA子ちゃんと再会することがあったんです。
それで、当然あの時の話をしたのですが、
「え?それ…なんの話?」
A子ちゃんは全く覚えていませんでした。
私には何よりもそれが怖かった…
痣のこと自体よりも、私一人だけがあの時のことを覚えている…
それが何より心細く、不気味に感じたことを今でも思い出します。
コメント