【怖い話|実話】長編「止まってます?」不思議怪談(埼玉県)

【怖い話|実話】長編「止まってます?」不思議怪談(埼玉県)
投稿者:のび さん(20代/男性/会社員)
体験場所:埼玉県K市 工業団地内の某工場

夜勤で働いていた時の話を書きます。
特別派手なことは起きていませんし、正直この体験が何だったのかハッキリしません。今でも自分の中で説明がつかないことなので、そのまま時系列で書きます。

当時、自分は埼玉県K市にある工場で設備保全を担当していました。

生産ラインは24時間稼働していますが、夜間はかなり人が減ります。少ない時は、生産オペレーターが2人、品質確認が1人、設備が自分1人、という日も普通にあります。なのでどこかで機械が止まったり、圧が落ちたりすると自分が呼ばれるので、一晩中工場をうろうろしながら点検している感じになります。

工場内にはAライン~Dラインまでが並列で並んでいて、それぞれのラインの間にはコンクリの通路が通っています。全てのラインが稼働する昼間の工場はうるさいくらいですが、深夜2時を過ぎると一気に静かになります。静かと言っても完全な無音ではなくて、圧縮空気の抜ける細い音とか、遠くのファンの低い回転音みたいなものがずっと鳴っていて、耳が慣れるまでは逆に落ち着かないような静けさです。場所によっては匂いも違っていて、油っぽいところと、洗浄エリア特有の薬剤の匂いがするところとではハッキリと違います。
夜はそれらの音や匂いをやけに強く感じてしまうのもあってか、誰もいないフロアに昼間のような「人の気配」を覚えることがよくありました。

その日も特に忙しくない夜のはずでした。

7月の平日で、深夜2時を少し過ぎた頃だったと思います。Cライン横の圧縮空気の配管で、エア漏れっぽい報告が出ていたので、自分が圧力計を見ながら異音がないか確認していました。特におかしな値も検出されないし、異音も確認できなかったので、まあ問題ないだろうと判断し、工具を片付けて通路に戻った時でした。

「すいません」

と、後ろのDラインの方から声がしました。

工場の中で誰かに呼ばれる時の普通の声でした。無線越しじゃなく、誰かに直接呼ばれた時の。距離にして10メートル以内の場所から、小さい声ではなく、でも大声でもなく、普通にこちらに用がある時の声の掛け方でした。男の人の声だと思いました。

でも時間帯を考えると、その辺りに人がいるのはおかしいんです。その日のDラインは一日中止まっていて、夜勤の担当者は誰も付いていませんでした。

うちの工場では、完全に止まっているラインのエリア照明は半分くらい落とすのですが、その日のDラインが正にそういう状態で、点いているのは手前の通路の照明だけで、奥は照明を落としていて、暗かったんです。

だから、「誰かいる?」と考えるより、「誰もいないはずの場所から声がした」という違和感を覚える方が先でした。

でも、その夜勤では設備担当が自分1人しかいなかったので、設備について聞かれた時は、自分に対応する義務がありました。それに、もし仮に一般の人が場内へ入り込んでしまっていた場合、危険区域に勝手に入られてしまうのが一番困ります。なので、反射的に「はい」と返事をし、ヘルメットのライトを点けてから、声がした方へと向かいました。

通路はまっすぐで、死角はほとんどありません。その辺に人が立っていれば、ライトを当てるまでもなくシルエットくらいは見えるはずです。ところが、通路の先まで行ってみましたが、誰の姿もありませんでした。もちろんフォークリフトも動いてませんし、扉も全部閉まっています。足跡か何か、人のいた形跡のようなものも特に残ってはいません。ただ、夜間の工場の独特の余韻というか、空気の僅かな揺れだけが感じられ、あまり気持ちのいい感覚ではありませんでした。

一応「どなたかいますか?」と声を掛けましたが、返事はなし。正直この時点で「空耳かな?」とほぼ確信していました。夜勤で眠い時って、機械の音がまるで人がしゃべってるように聞こえることが本当にあるので。

でも、これで終わりじゃなかったんです。
それから数日にわたって、同じようなことが何回か続いたんです。

どれも深夜2時台、2時10分~2時40分くらいの間に集中していて、同じように「すいません」と声を掛けられることもあれば、別の時は、「止まってます?」と聞かれることもありました。その度に声のする方を振り向くのですが、やっぱり誰もいないんです。

個人的に特に引っ掛かりを覚えたのは、「止まってます?」というこの聞き方でした。
ライン現場での「止まってます?」という聞き方は、ラインのオペレーターが設備側の人間に確認する時の言い方です。「この機械は今、止まっている“扱い”ですか?」「近づいてもいい安全な状態ですか?」みたいな意味合いです。

外の人がいきなりそういう言い方はしません。派遣で入ったばかりの人や、他部署の人だったらもっと遠回しな聞き方をします。「止めちゃっていいですか?」とか「今止まってる状態ですか?」とか。つまり「止まってます?」という言い方は、ある程度その現場に馴染んでいる人の距離感なんです。そこがまずおかしい。

それと、声を掛けられた「場所」の問題もそのまま残っていました。
その日の編成では、その時間帯、Dラインには誰もいないはずでした。私もシフト表を見て確認しましたし、担当の子が「今日はDライン完全に落ちです」と言って上がって行くのも見ています。つまり、その時そこには誰もいないのが前提で、ましてや「止まってます?」なんて現場慣れした聞き方する人がいるはずないんです。

3回目の時は、さすがにその場でメモを取りました。癖というか、夜勤中にトラブルっぽいことがあると、後で報告書に書けるようにメモを残すのですが、その時のメモにはこう書いてあります。

・時間 2:18頃
・場所 Dライン側の防火扉の手前
・声 男っぽい。直接の声に聞こえる(無線ではない)
・内容 「すいません」→間→「止まってます?」
・呼ばれて振り向いたときには誰もいない
・Dラインは無人のはずの日

こんなメモを書いていて、正直このあたりから「変だな」とは思い始めていました。

次の日、設備のリーダーに一応報告しました。これはもう半分は安全管理の話です。もし本当に誰かが夜間に勝手に入り込んでいた場合、それはもう普通に危険な話なので。リーダーも最初は完全に「不審者が入り込んでいるのかも」と受け取ったようでした。実際、裏の搬入口のシャッターは年季が入っていて、締めても完全な密閉状態にはなりません。やろうと思えば無理やり入れなくはない状態なんです。

それで報告した日の昼間、リーダーと一緒に監視カメラの映像を見ました。Dライン前の通路には赤外線カメラが付いていて、もし誰かいれば人影くらいは映るはずです。

映像を巻き戻し、メモに書いた2:18頃の映像を再生しました
カメラには、確かに自分が映っていました。ヘルメットのライトを点けて通路を歩いてくると、Dライン側にある防火扉の前あたりで立ち止まりました。当たり前ですが、これは自分でも覚えています。

ただ、そこから先の映像が、自分の記憶・感覚とはずれていました。
自分では、そこで「誰ですか?」と声を掛けて、反応がないのを確認し、すぐその場から離れたつもりでした。その場にいたのは、5秒か、長くても10秒くらいだろうと思っていました。

でも映像では、自分はその場にしばらく留まっていました。その間、ライトの向きが細かく上下していて、まるで誰かと話しているような動きなんです。こっちが相手の顔を見て、次に足元か手元を見る、みたいな動き方をしていて、癖なので自分でも分かります。「あ、これは自分が誰かと話してる時の動きだな」と、はっきり確信できてしまう仕草なんです。

ただ、その「相手」が映っていません。

リーダーは最初、カメラの死角に誰かいるんじゃないかと言っていました。確かに完全に自分の真横に誰かが立っていたとしたら、そのカメラアングルからは抜ける可能性もあります。ただ、その時の自分の立ち位置とライトの角度からすると、もし本当に相手がいたなら、体の一部くらいは画面のどこかに入っていてもおかしくないはずなんです。それなのに相手の影すら映っていません。私が一人そこに立ち止まり、一人でしゃべっているようにしか見えないんです。

この映像を見せられた時、率直に言うと、「怖い」という感情よりまず先に「まずいな」と思いました。理由は単純で、もしこの映像をそのまま上層に上げられてしまった場合、「夜中に独り言を言ってぼんやりしている」と烙印を押されてしまうのは火を見るより明らかです。夜勤中の集中力・注意力の散漫として扱われ、そうなると今度は自分個人のヒューマンエラー扱いになってしまいます。

だから自分はそれ以上なにも言いませんでした。「もしかしたら聞き間違いかもしれません」で終わらせました。リーダーも特にそれ以上は追及してきませんでした。

この一連の体験について、特に「心霊現象」とか「幽霊を見た」とか、そういったことを言うつもりはありません。そもそもはっきり姿を見たわけではありませんし、決定的な映像を撮影したわけでもありません。単純に自分が疲れていたのかもしれないし、音の反響を聞き違えただけかもしれません。深夜は工場全体の空調の音が通路のほうに回り込み、人の声っぽく聞こえることは現実にあります。そこは否定しません。

ただ、それでも自分の中で一つだけ、どうしても引っ掛かってしまうのは、「止まってます?」という言葉遣いについてでした。

あの聞き方は、完全に現場側の人間の距離感なんです。新人とか、他部署の人間とか、外部の誰かの聞き方では絶対にない。こちらと同じ種類の人間の、普段通りの確認の言葉なんです。なので、全くの他人ではない、身近な誰かの声だと思ってしまうんです。

この体験以来、自分は夜中のDライン側を一人で回る時だけ、「止まってないです」と、どこかの誰かに最初に声を掛けてから歩くようになりました。わざわざ声に出します。馬鹿みたいな話ですが、そうしてからは、「すいません」と声を掛けられることは一度もなくなりました。

なぜそうすると声を掛けられないのか、具体的なことは分かりません。偶然かもしれませんし、そもそも気のせいだったのかもしれない。

ただ、自分はあの夜中のDラインに関して、「誰もいなかった」と、今でも言い切ることはできません。

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