体験場所:沖縄県那覇市
私は小さい頃、よく夢を見ていました。
誰だって夢くらい見る、と言われそうですが、私の見る夢には特徴があって、数回に渡って内容が継続するのですが、次の夢を見るまでの間、現実の時間でしばらくの間が空くのです。
例えば、小学校1年の頃に見た夢の続きが小学校2年の時に始まる、というような具合です。
当時、私が住んでいた那覇市の家の近所には、子供たちが集まって遊べる公民館のような施設がありました。
私も近所の子たちとよくそこに集まっては一緒に遊んだものです。
夏休みともなると、近所の子たちと昼間から夕暮れまで公民館で遊んでは、それぞれ家に帰り、翌日にはまた公民館に集まるというような毎日を過ごしていました。
その日もいつものように公民館で遊んで家に帰り、夕飯やお風呂を済ませ布団に入ると、私はある夢を見ました。
夢の中で、私はいつも遊んでいる公民館にいました。
そこは間違いなくあの公民館ではあるのですが、私の他に人が全くいないのです。
普段は友人達と一緒に遊んでいる賑やかな場所だけに、私は奇妙な違和感を感じていました。
最初の夢はそのくらいで終わりました。
その夢の続きを次に見たのは、数か月後でした。
やはり公民館には全く人がおらず、唯一、いつの間に現われたのか、私の隣には幼馴染みの女の子がいました。
その夢も、それだけで終わりました。
それからも、しばらく時間を空けては夢の続きを繰り返し、その度に夢の中で私と幼馴染の女の子は、いつも誰もいない公民館の中を見て回っていたのです。
現実の世界で私が中学生になった頃、夢の中の公民館はくまなく探索し終わっていました。
その間も、幼馴染の他に夢の中の登場人物が増えることはなく、また不思議なのは、現実では中学生になっているにも関わらず、夢の中の私たちは幼い姿のままでした。
次に見た夢でのことです。
私たちは公民館の外に出てみることにしました。
外に出ると、公民館の前には運動場のような広場が広がっており、広場を挟んだ先に、公民館より少し小さな木造の家のようなものがありました。
現実の世界ではそこに建物はありません。
「あの家に行ってみようか」
そう話したところで私は目が覚めました。
その頃、夢の中に出てくる幼馴染とは、現実ではたまに話す程度の少し疎遠な関係になっていたのですが、私はいつまでも続く夢のことがどうしても気になって、現実の幼馴染にそのことを話してみることにしました。
「…そんなの、ただの夢でしょ」
と、幼馴染の言葉は素っ気ないものでしたが、それを聞いて私も「まあ、そうだよなぁ」と思い直し、夢のことは気にしないことにしました。
それからしばらくの間、夢の続きを見ることはありませんでした。
私も次第に夢のことを忘れ始めていたのですが、中学校の卒業も近付いた頃、再び夢の続きを見たのです。
不思議なことに、そんな夢の事など現実では忘れかけていたのに、夢の中の公民館を見ると「戻ってきたなあ」という馴染み深い懐かしさすら覚えました。
現実にはもう中学も卒業だというのに、夢の中の私と幼馴染は幼い姿のまま、公民館の前に広がる運動場の片隅の砂場で、子供のように砂遊びをしていました。
前の夢では運動場の先にある木造の家に行ってみようと話していた私たちでしたが、どういうわけか今回の夢では全くその木造の家には近付こうとはせず、砂遊びに夢中になっていました。
二人で一生懸命に砂をかき出し穴掘りに没頭していると、木造の家からガタガタと音がしました。
夢の中の私は心臓が飛び跳ねるように驚いて家の方を振り返りました。
すると、木造の家の扉がギーっと開いたかと思うと、中から子供のような影が見えました。
その瞬間、私はなぜか「起きなければ!」と思いました。
無理やり目を覚ますと、辺りはまだ真夜中の暗さで、私はびっしょりと汗をかいていました。
なぜ無理にでも目を覚まそうと思ったのか、自分でも分かりません。
ただ、その夢を見て以来、夢の中で木造の家が建っていた場所がどうしても気になって、私は現実のあの場所のことについて母親に尋ねました。
「あそこには以前、井戸があったのよ」
母親がそう話す井戸とは、蓋もされずに近所の人が誰でも自由に使えるものだったのだそうです。
ただ、その解放感が災いし、ある時、子供がその井戸に落ちて亡くなってしまったことがあるそうなのです。
その後、その井戸には蓋がされ、徐々に利用する人もいなくなり、今では井戸そのものがなくなっているのだとか。
「埋めたのか、枯れたのか、よく分からないんだけどね。ただ、あの周辺は土地が弱いから、誰も家を建てたりせずにそのまま土地だけが残ってるのよ。」
母親は少し眉をひそめ、そう話していました。
それ以来、私は夢の続きを見ていません。
もしかしたら、夢で見たあの木造の家は、井戸で亡くなってしまった子が二度と戻ることが出来なくなった、心焦がれた自分の家だったのかもしれない、と、そんな風に思うのです。
ただ、あの日の夢の中で、もし私は目を覚ますことが出来なかったら、一体どうなっていたのでしょうか。
再びあの夢の続きを見ないようにと、今は願うばかりです。
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