
体験場所:神奈川県川崎市
これは私が実際に体験した話です。
私が25歳くらいの頃、一人暮らしだったこともあって、生活費を稼ぐために毎日引っ越しのアルバイトに明け暮れていました。友人などと遊ぶこともせず、ただひたすらにバイトと家の往復を繰り返す日々でした。
そんなある夜の事、ふと私の携帯に見知らぬ番号から電話がかかってきました。
「誰だろう…。」
いつもはそういう不審な電話には出ないと決めている私なのですが、何故かその日は気の迷いなのか、思わずその電話に出てしまったのです。
直ぐに後悔した私は、咄嗟に(相手が話し出すまで待とう…)と決め、電話がつながっても応答しないまま、何も喋らずただ受話器を耳に当てていました。
「・・・ ・・・ ・・・ ・・・ ・・・」
しかし、確実に電話はつながっているはず、それなのに、相手は何も喋らず、電話口からは「ズーズー」と吐息の音が聞こえてくるだけでした。
大体30秒ほど待ったでしょうか。その間も沈黙が続き、さすがに耐えかねた私は「…どちら様ですか?」と先に尋ねてしまいました。
すると電話口から女性のか細い声が返ってきました。
「田所です。今から伺ってもいいですか?」
私に田所という女性の知り合いはいません。
「電話番号間違えていませんか?」
と返答すると、電話口の女性が言いました。
「あなた〇〇さんですよね」
それはまさに私の苗字そのもので(どうして知っているんだ?)と、内心背筋が凍る思いでした。
私は何かトラブルに巻き込まれてしまいそうな言い知れない不安を抱き、次の瞬間、思わず電話を切ってしまいました。
「今の電話は一体なんだったのか」
心臓がバクバクして落ち着きません。
ドタドタと流しに向かい、水道水を一杯飲み干し、ようやく冷静になれた私は、ふと先程の電話でのやりとりを思い返しました。
「そういえばさっき『今から伺ってもいいですか?』とか言っていたな…」
携帯番号だけじゃなく、住所も知っている。そのことに気付いた途端、またしても恐怖が私の中を蠢きはじめました。
先ほどの電話から大体1時間ほど経った頃、アパートのチャイムが突然鳴り響きました。
その音にビクッとした私は、足音を立てないように玄関ドアに近づき、覗き窓から訪問者を確認。
ドアの外には、見知らぬ一人の女性が立っていました。
取り立てて外見的な特徴のない女性、顔を確認してもやはり全く見覚えがありません。
その女性がさっきの電話の主なのかは分かりませんが、とにかく怖かった私は、結局居留守を使い、ドアを開けることはありませんでした。
それから半年ほどが経った頃。
小学校の同窓会が開かれるという知らせをもらい、久しぶりに昔の友人に会いたくなった私は、迷うことなく出席を決めました。
当日、同窓会会場に赴いて、私は直ぐに驚きました。
半年前、私のアパートにやってきた謎の女性、その女性と全く同じ顔の女性が同窓会に参加していたのです。
私は動揺を隠せないまま、友人たちとは軽い挨拶だけ済ませ、お酒を飲みながら暫く彼女のことを遠巻きに観察していました。
そんな中、ふと昔の友人が私の近くにやってきたので、私は小さな声でその友人に聞きました。
「あそこにいる女性って、誰だっけ?」
すると友人はこう言いました。
「ああ、小6の頃に転校した田所だよ」
半年前、電話してきた女性と同じ名前。
やはり同一人物だと確信し、再び私の中に恐怖心が芽生え始めました。
「どうして彼女は私の携帯番号を知っているのか?」
「どうして彼女は私の部屋を知っているのか?」
「部屋に来てどうするつもりだったのか?」
「私は彼女を忘れていたのに、彼女は私を覚えていた」
「どうして?」
「なんで?」
「何のために?」
とめどない不信感と違和感が頭の中を駆け巡りました。
本人にこの事を直接問いただそうかと悩みましたが、新たな事実を突きつけられそうで、怖くて結局できませんでした…。
コメント