
心霊スポット:福岡県宮若市「犬鳴峠」
福岡から北九州に向かう時、いつも通る道がある。交通量も信号も多いけど、大通りだから安全で明るくて、迷うこともない。ナビを入れると毎回そのルートが表示される。そんな“当たり前”みたいなルートだった。
けど、その日は少し違った。
北九州に向かう途中、助手席の友達と他愛もない話をしていると、ふと「犬鳴トンネル」の話になった。
「犬鳴って行ってみたいけど、あそこやばいらしいやん」
「え〜、やめときって!夜通ったら絶対何か出るよ!」
ほんの数秒、冗談交じりに笑いながら話しただけだった。怪談話にもならない、軽く流すような会話。
次の赤信号で停車した時、ついでにスマホのナビアプリを設定した。目的地は北九州。いつものように3号線を通るルートが出るはずだった。
……けど、ナビが示した青い線を見て、思わず「ん?」と声が出た。
ナビされたルートは、いつもの大通りではなく、山の中を抜ける道。しかもその名前には見覚えがあった。
──犬鳴峠。
「え、なんで犬鳴峠通るようになっとるん?」
隣の友達がナビを覗き込んで言った。確かに。明らかに遠回りだし、いつもは絶対に選ばれないルートだった。それなのに、画面上にはそれが「最短ルート」だと表示されている。
気味が悪くなって、一度ナビを閉じ、再度立ち上げてルート検索しても、また同じ。別のアプリに変えてみても、やはり“犬鳴峠”経由のルートがナビされる。
「これ、偶然よね?」
「さっき犬鳴の話したけん、スマホが聞いとったんじゃ?」
笑いながらそう話したけど、どこか笑えなかった。アプリに“偶然”なんてあるわけがない。するとやはりそれが最短ルートなのだろうか?仕方なくナビを信じてそのまま走り出した。
市街地を抜けると、街灯の数がどんどん減っていった。窓の外には木々の影が揺れ、道幅はどんどん細くなる。やがて看板に「犬鳴峠」の文字が現れた瞬間、車内の空気がピンと張り詰めた。
「…これって、あの“旧犬鳴トンネル”のある峠よね?」
「そう。けど、旧トンネルはもう通れんやろ?」
そう言いながらも胸の奥がざわついた。窓も開けていないのに車内を冷たい風が吹き抜けた感じがして、なぜだか背中がゾクリとした、その時、
『この先、右方向です』
まるで生身のような温もりのある声でナビがそう告げた。ちょうど旧犬鳴方面へと向かう分かれ道に差し掛かっていた。右の道の先は暗く、ガードレールの向こうは木々に覆われて見えない。
「……これ以上はやめとこっか」
「うん、さすがに怖いよ」
結局、その分岐での選択は避け、少し引き返して新犬鳴トンネルを抜けて北九州へと向かった。
ただ、トンネルを抜けた瞬間、ナビ画面に“ルートを再検索中です”という文字が浮かび、再び胸がざわついた。だが、ナビが選択したのはいつもの大通りルート。何度設定し直しても、もう「犬鳴峠」経由のルートが選ばれることはなかった。
誤作動といえばそれまでだが。でも、犬鳴を話題にした“その日だけ”、なぜかナビが“犬鳴峠を越える道”を指し示した。まるで何かに見られているみたい。
今思うと、その頃はよく心霊スポットに行っていた時期でした。
その影響とかがあったのでしょうか?
ただのアプリの誤作動だと思いたいのですが、あまりにもタイミングが絶妙すぎたので、今でも思い出してしまう体験です。

コメント